本書は、日本の古代や中世の礼制度や法制度、政治を研究している歴史学者の桃崎有一郎さんが、2023年7月に発売した新書です。
私は本ブログではあまり取り上げませんが、歴史の本を結構読みます。毎回それなりに面白い読書体験が出来ているのですが、とはいえ別に紹介するほどの感動は無いなと思う本がほとんどです←そもそも感動させようと思ってないよね
しかし本書は、本当に面白く、かなり刺激的な読書体験でしたので、本ブログで取り上げてみました。
本書を手に取ろうと思ったのは書店で見たサブタイトルの「頼朝が暴いた完全犯罪」と帯のまるでミステリーのように面白い、という煽り文句を見たからでした。
本書の内容としては、冒頭で九条兼実と頼朝のオフレコでの会話シーンから始まり、その後一つ一つ論理的に、通説では頼朝の父・義朝と藤原信頼の不満ゆえの暴走であったとされる平治の乱の、本当の真犯人とその後の関係者の利害や歴史的意義を描いていくという作品です。
どんどんアリバイを暴くように事実を積み上げ、通説の違和感を潰していく描き方や、各々の陰謀や人間性など、本当に読んでいて面白く、一気に全てを読み進めてしまいました。
私は平安末期から鎌倉幕府成立、そして室町時代が特に歴史の中で好きなのですが、本書により、そんな私が疑いもせずに信じていた通説はことごとく覆されました笑
しかしそれが鮮やかな手際で、かつもうそれが事実のようにしか思えないから不思議な快感があるのです。
特に驚いたのは保元の乱の恩賞が、分析してみると義朝に不利というわけでなく、比較論で言うなら清盛の方が恩賞が薄かったというもの。
長い間、ドラマとかで保元の乱の不十分な恩賞に焦り、源氏の一発逆転のため平治の乱を起こす義朝像をインプットされていた私としてはこの事実はなかなかに衝撃でした。
また本書を読んで、悪賢く陰謀と欲望の権化という後白河院のイメージと、院政時代の天皇(上皇ではない)は比較的、聖人君子が多いというイメージもまた覆されました。
また言われてみれば、そもそも「恩賞が不足してるから御所を襲っちまおうぜ」なんてことには義朝や信頼の地位にまで上がった人が、そんな地元のヤンキーみたいな自滅的な思考回路になるはずもなく、そこに誰かの狙いがあったという説の方が俄然、説得力があります。
私は本作を読んで、「桃崎さんの作品はとりあえず全部読むべきだ」そう決意しました。
そう思うほど、本作は歴史本として価値の高い作品だと感じます(本記事執筆時点で足利義満の本も読んだけど、本当に面白かった)
是非、気になる方は読んでみて欲しい一冊です。