<書評>「白亜紀往事」 恐竜と蟻が文明作るってよ

書評

もし白亜紀に恐竜と蟻が出会い、共に文明を築いたり、戦争をしたりしたならば・・・

このワンポイントの発想を広げ、壮大な文明エンターテインメントに仕上げたのが、本作「白亜紀往事」です。

作者の劉慈欣さんは、今ネットフリックスのドラマ化でも話題の「三体」を描いた現代SFの旗手。

私はハードカバーで三体三部作全てを読みましたが、非常に壮大で思弁的なSF作品であり、小松左京さんの「果しなき流れの果に」や光瀬龍さんの「百億の昼と千億の夜」の様な、存在の根源を問う様な、非常に私好みの作品でした。

本作は、劉慈欣さんの初期の頃に書かれた作品のようで、三体がある程度のSFマナーを必要としたのに比べ、読みやすいことこの上なし!

もちろん文明が勃興して、それが破滅するところまでが描かれるので壮大は壮大ですが、発想がワンポイントで軸がしっかりしているので、丁度良いコンパクト感なんです。

また当たり前の話なんですが出てくるのは、基本的に恐竜ちゃんと蟻ちゃんのみ。もちろん恐竜の皇帝や蟻の女王に名前はあるのですが、そこには余分な情念の様なものは乗らないので、カラッとした感じで物語が進んでいき、それもまた心地よいのです。

そんな本作の更なる大きな魅力の一つが可愛らしさです。

そもそも恐竜と蟻との出会いが、何て言うか「のほほん昔話」的な(こんなジャンルはない)感じでとにかく微笑ましい。

また先ほど述べたカラッとした会話も良い感じでカリカチュアされているので、何とも可愛らしい。何て言うか家にある恐竜のぬいぐるみをごっこ遊びで喋らせているかのような、溢れんばかりの童心感。

しかし一方でどういう風に文明の進化が加速していくのか、そして宗教というものを交え、違う種族同士の文明がいかにこじれていくのかの描写は面白く、とても丁寧です。

その意味で本作は、非常にコンパクトでしっかり楽しめる、夏の恐竜展の様な作品と言えるかもしれません。

どうせまた今年の夏もめちゃくちゃ暑いんでしょうし、夏の恐竜展代わりに冷房の効いた室内で本作を読みふけるのもいいのではないでしょうか?

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