何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー。
それが「かえる劇場」です。
気楽に見てね♪
銀行
ふむ困ったのう・・・
おじいさん
どうしたんですか
いえ、銀行に行っておろしたいと思うのじゃが・・・
えっ銀行なら目の前ですよ
ATMまで一緒に行きましょうか?
ATM?
何を言っておるのかね
えっ、だって銀行でお金をおろしたいんですよね
ほっほ、お若いの
全然違いますよ
えっ違うんですか
ワシは銀行を3枚におろしたいのじゃよ
・・・衝撃的な発言ですね
銀行自体をですか
なるほど確かにおぬしの言う通り
先にウロコを取る方がいいかもしれんな
そんなこと言ってません!
そもそも銀行のウロコって何ですか!?
屋根の瓦ですか!?
失礼じゃがお若いのは、今までおろしたことはあるのかい
・・・魚くらいしかないですね
ていうか魚しか3枚におろすことはないでしょう
ほっほっ、さすがじゃの
まさか水族館の空気を抜いたことがあるとは
そんなこと一言も言ってませんよ!
そして水族館から抜くなら「水」でしょう、知らんけど
ワシも若い頃は警察署を山折りにしたり、高層ビルを谷折りにしたもんじゃ
言ってることは破壊神のそれですよ
そういえばおぬしがどこの出か聞いてなかったのう
えっ、生まれも育ちも東京ですけど
そうすると君が噂の「ローム層から削り出されし者」なのじゃな
恐れ入ったわい
何ですか、その泥人形の勇者みたいな称号!
僕は土から削り出されたものではなくて、れっきとした人間です!
うらやましい限りじゃのう
何せワシの孫は、天然モノじゃなくて養殖なものでのう
養殖の孫!?
クローンとか、そういうことですか!?
とはいえ馬鹿にしてはいかんよ
ワシはたっぷりお金をかけてオーダーメイドの孫にしたからのう
オーダーメイドの孫・・・
新しい言葉の響きに衝撃を受けてます
目はぱっちりとした二重
瞳はターコイズブルー
髪は輝くような金髪じゃ
昔の少女マンガみたいな趣味!!
ふう、すまんが若いの
激昂しているところ悪いがそろそろ行くぞ
ワシはお主と違い暇ではないのでね
それはこっちのセリフだよ!
どうぞどこへでも行ってください
それでは失礼
ふう、やばい爺さんだった
一体何だったんだ
・・・・・
あっ!?
気付いたらいつの間にか銀行が奇麗に三枚におろされている!!
右身、左身、中骨の3つの部分に分かれ鮮やかに並んでいる・・・
というか爺さんが通り過ぎる建物が次々に山折り・谷折りにバキバキに折られていく!!
ほっほっほ
ああっ、微笑んでる爺さんの元に
金髪にターコイズブルーで羽の生えた何人もの孫たちが天空から舞い降りている!!
ほーっほっほ
孫に手を繋がれて天空に消えていった・・・
私は神を見たのだろうか?
男はしばらく考えた後に再び歩き出した。
そしてがれきの山になった街のコンクリートの塊の下からは、木や若草の芽が顔を出そうとしていた。
<完>