年始に一発目の書評で、ホリー・ジャクソンさんの「自由研究には向かない殺人」を取り上げた。
その際にも言ったのだが、私は昨年本シリーズの一作目を読了しており、その段階では面白いミステリーだけども、そこまで心は惹かれないというのが正直な感想だった。
もちろん一作目も充分に魅力的なのだが、主に主人公ピップを取り巻く、事件解決後の周りの態度と結末の空気感にあまり納得がいかず、そこが主な理由として二作目を読む手が止まっていたのだ。
しかしレビューなどを見ていると、二作目から物語が思いもよらぬ方向へ加速するということで、改めて年始から二作目を読み始めた私。
レビューの意見は正しく二作目が圧倒的に凄かった。そしてその勢いで三作目まで読了、そして私の心は完全に、何かしらの亜空間に持っていかれてしまった。
↓一から三作目、並べるとテンションが上がる模様
まさか年始からいきなりこんな体験をさせられると思っておらず、本サイトで取り上げるまで時間がかかってしまったけども、とりあえずまずはネタバレしない程度にそのすごさの概要を語っていきたいと思う。
まず「自由研究には向かない殺人」シリーズとは何かを簡単に説明する。
本作はイギリスの作家、ホリー・ジャクソンさんが2019年に刊行した「自由研究には向かない殺人」から始まる三部作である。(それ以外に前日譚である短編も一作ある)
あらすじとしては、イギリスの小さな町、リトル・キルトンに住む高校生のピップが、自由研究で5年前に自分の町で起きた17歳の少女の失踪事件を調べ始め、その過程で様々な町に潜む謎や、身近な人物の影の部分が見えてくるという感じの、王道な青春ミステリーとしてスタート。
そして二巻以降もリトル・キルトンで起こる事件やその背後の闇に迫っていくという流れで展開していく物語だ。
恐らくこのあらすじを読んだ人は、典型的な青春ミステリーものだと思うだろう。
確かに一作目は、魅力的ではあるもの、そのジャンルの範疇にしっかりとおさまっている。しかし二作目、特にその後半からはその様相は一変し始める。
私はミステリー小説は好きだし、探偵が出てくる推理小説も最近再び読み始めた。
しかしどの小説も何かしら主人公である探偵に都合の良い展開というのが出てくるし、どこかしら探偵の為の事件という様相を示したりしているものも多い。
しかし本作の二、三作目に関しては、残酷で複雑な現実がそのまま主人公に立ちふさがる。それも手加減なく徹底的にだ。
そして主人公のピップはひたすら迷い考えることになる。それは軽々に答えが出ないし、正解という言葉ではくくれない「問い」だ。
その問いに対しピップは対峙し答えを出していくわけだが、そこの原動力になるのが「正義感」と「怒り」になる。
本作の完結編である三作目は、その答えの部分に当たり、それは綺麗事を排しているゆえに、恐らく賛否は分かれるだろう。
しかし私自身はその怒りに乗れるし、「怒り」を原動力に社会に「問い」を投げかけた本作に敬意を表したい。
青春ミステリーの形を取り、海外で人気を集めている作品が、まさかこんなに攻めており、かつ心をとんでもない地平に連れて行ってくれるとは思っておらず、かつ本屋で簡単に買えるものにここまで凄いものがあることに希望を抱いている私。
ゆえに今年もまた素晴らしい作品に触れられる気がしているわけで、また面白いものがあったら、是非紹介していきたいと思う所存なのです。
もしかしたら本作の深掘り考察をするかもなので、その時は是非お読み頂ければと思います。