<歴史>鎌倉殿の13人 雑感 第40話「罠と罠」 政治と陰謀の極上ハーモニー

鎌倉殿の13人

義時が主導する鎌倉では、色んなところで不満がくすぶっています。

その不満の受け皿に知らぬ間になっている和田義盛。

そしてその不満と不信を燃え上がらせようと企む京都勢力。

濃厚な政治や権力闘争ドラマの魅力を余すことなく入れてエンタメとしても成立している本作はすごい!

それでは以下、40話の時系列に沿って見て行きましょう。

内裏の修復の不満と最大野党としての和田義盛

後鳥羽上皇率いる京都勢力は、鎌倉に内裏の修復を頼むことにします。

この鎌倉ではない土地での負担増加で、鎌倉御家人の不満を煽る作戦ですが、見事に成功。

鎌倉幕府は武力もあり、実質的な権力では朝廷に比べ優勢ですが、とはいえこの時点ではあくまで関東の政権で、西側は朝廷勢力の方が優勢です。

承久の乱以降は、鎌倉幕府が全国政権化して朝廷は弱体化していきますが、この段階ではまだ朝廷はあなどれない存在です。

さらにいえば朝廷が弱体化して以降も、江戸幕府まで続く幕府体制というの天皇から征夷大将軍に任命してもらうことが必要なわけで、権威の朝廷と権力の幕府という、形式と実質というのは崩れないと言うところが日本史の難しいところでもあり、面白いところです。

なので一応、天皇から征夷大将軍に任命された実朝政権は、臣下として内裏を修復する理由はあるわけです。

とはいえ納得のいかない坂東武者。

京都なんてそんな遠いとこ行きたくねえし知らん!

まあ、気持ちは分かりますが、政治というのは理由や形式、また恩を売る必要性、色々な要素があって決定しています、しかしそんなことは一介の御家人には分かりません。

そんな御家人にとって、もっとも分かりやすいのが和田義盛です。

政治的陰謀にうとく、人情と腕一本でここまで来た男、そして人柄も良い。

さらに和田家は三浦家と共に、北条に次ぐ権力を持つ家です。

ここに北条に不満を持つ輩が集まるのも無理はありません。

人の良い和田義盛はそんなこと考えていないでしょうが、今や和田家は北条与党に対する最大野党になってしまっています。

民主主義の世の中では、野党はいくら政権を非難しても命を取られることはありませんが、それ以外の時代では粛清されるのが世の常です。

そこらへんのバランス感覚がいい三浦は表立って目立つ動きはしません。

しかし矛盾しているようですが、だからこそ三浦よりも和田の方に御家人の支持がいくということもあります。

ドラマでは表立っては出ませんが、和田は元々三浦から枝分かれした一族です。

三浦には和田よりも自分たちの方が上だ!という意識はどこかにあるはずです。

鎌倉内の思惑は錯綜しています。

新解釈・泉親衡の乱

鎌倉において露見する一つの陰謀。

それは泉親衡なる信濃の武士が義時を討とうとしたもの。

しかし、その泉親衡は煙のごとく消えてしまった・・・・・

ここまでなら史実に準拠した話でしょうが、本作はなんとこの泉親衡なる人物を、源仲章が鎌倉を揺さぶるために化けた人物にしてしまいました。

なんという自由で大胆な解釈でしょう笑

個人的には、私は面白ければオッケー派なので(とはいえあまりのトンデモはダメだけど)これはこれでアリだと思いました。

しかし本作はことごとく、京都の朝廷勢力を陰険なろくでもない人たちとして描いてくれています。

だからこそ、どんどん承久の乱が楽しみになってきます。

妥当な処罰とアウトレイジな謝罪

泉親衡の乱が波紋を呼んだのはそのメンバーの中に、和田義盛の息子二人と甥が居たことです。

しかし義時率いる鎌倉首脳陣は冷静です。

北条に次ぐ勢力を持つ和田に対して慎重で妥当な処分を出します。

息子二人はお咎めなし、しかし誘った甥の胤長は処分

うーん、実に妥当だ。(というより甘いすらあるかも)

しかし人情と心と根性の3点印の義盛さんは納得出来ません。

「胤長を助けてやりてえ」

この一心で突き進みます。

政治家として時政の擁護を最後まで言わなかった義時とは雲泥の差があります。

しかし坂東武者に好かれるのは分かりやすい義盛です。

さて、大河ドラマでは人物を目立たせるために、一族全てを描くことがまれで、一族でも描かれない兄弟や子が沢山います。

しかしこういう一族勢ぞろいのシーンではどうしても出さざるを得ません。

しかし三谷脚本ではその不自然さを巴による「こんなにも息子多かったんかい!コント」により楽しく受け入れさせてくれるわけで、これは三谷脚本でしか出来ないすごい技だと思います笑←本当にすごいと思う

さて突き進む義盛はなんと一族98人を引き連れて御所への謝罪を断行。

これもう謝罪というより暴力団の脅しのようにしか見えません。

義盛は「こんだけの気持ちと誠意を表したんだから、分かってくれ小四郎」とか思ってそうですが、政治の作法としては最悪なやり方です。

もしここで一度出した処分を曲げた場合、北条率いる鎌倉首脳陣は和田の武力におじけづいて判断を曲げたことになりますし、そもそもそんな簡単に処分を曲げる政権に求心力は出ません。

さらにそもそも処分は妥当です。

前話で大江広元が「和田をやるなら慎重に」と言ったことで大江が陰険だという意見があるようですが、このシーンを見ればなぜ広元が和田義盛の排除を願うかが分かります。

大江広元は守護・地頭の発案者ではないかとも言われた、鎌倉政治を支えたスーパー官房長官です。

そして政治というのは人情やその場しのぎで動かしてはダメで、ルールやシステム・形式が重要であることを熟知しているわけです。

特にこの時代は京都以外は、力さえあればなんでもいいと思っている人が跋扈している時代なわけで、広元はそこに秩序と治安を築きたいと思っています。

ゆえに和田のような存在は早くいなくなって欲しい。

そしてここにきて98人のアウトレイジ謝罪を見た義時も、好機到来だと気付きます。

そしてここから義時・広元の和田義盛追い落とし作戦が展開していくわけです。

ドラマを見てると義時が積極的に義盛をはめようとしている部分だけが目立ちますが、政治的に見れば滅ばされるような行動を義盛がしていることが事の発端です。

文官の二階堂行正が「息子たちを許したのに何が不満なんだ」と言いますが、これはまさにそのとおりですね。

このあと有名な「縛られた胤長を義盛に見せつけパレード」が開催されますが、98人で威圧に来た事を逆に利用されたわけです。

のえは劣化版りく

政子と実衣、そしてのえによる大根の葉を剥く雑談シーン。

のえは、その葉の剥き方にずさんな性格が滲み出ています。

そして話は実朝に子が出来ない話から、鎌倉殿の話になります。

そしてあろうことか小四郎殿にも立派な子がいるということをこの場でいうのえ。

ああアホだ、アホがここにいる。

案の定、政子にたしなめられますが、愚か者の権化それがのえです。

そもそも前話で義時の実権を徐々に取っていくやり方を全く理解出来ていなかったのえ。

そして鎌倉殿の話でも、この時代の身分という重さについて全く分かっていません。

皇族の血を引く源氏が征夷大将軍になり政治をする体制、それが鎌倉幕府です。

そして北条はその将軍での家臣であることにより、ようやく政治の実権をふるいはじめたところ。

それが今すぐ将軍になんてなれるはずがありません。

そんなことをしたらあらゆる勢力に袋叩きにあいジエンドでしょう。

しかも現将軍の実母である政子の前でそれを言うアホさ。←義時は弟とはいえ後継ぎ問題はセンシティブでしょう

そしてその発言は誰が聞いても自分の息子を権力者にしたいとい狙いが見え見え。

りくに関して言えば、息子が亡くなるまではかなり冷静に鎌倉の状況を把握していたように思います。

それに比べるとのえは、本当に愚かでアホです。

しかしそんなのえに騙されてしまっているクレーバーな義時。

男女の駆け引きと政治の能力とは全く関係の無いものなんだなあと実感します笑

そんなアホなのえですが、今後もっと分かりやすい陰謀を見せてくれる展開になっていくと思うので、それと対比として描かれる政子の高貴さと優しさをより輝かせるためにも頑張って欲しいです笑

けしかける三浦、しかし今回は今までとは違う

不満を息巻く和田義盛をけしかける三浦。

鎌倉殿を和田義盛、執権を三浦義村という案で盛り上がります。

お得意の陰謀で和田をけしかけ、土壇場で北条へ寝返る気でいます。

しかし弟は今回の兄が「そうするようにみえて実は和田に付くようにみえる」とも指摘。

そう今回の陰謀は実は三浦にとっても切羽詰まったもの。

今までのものは比企や時政追放にしたって、基本的には北条が有利、そして三浦はそれほど当事者ではありませんでした。

しかし今回は、和田義盛、鎌倉では北条に次ぐ一族。

さらに和田は三浦から枝分かれした家であり、大きく分ければ同じ一族とも言えます。

そして今回は恐らく三浦が付いた方が勝つ

ここまで勝敗を決する位置にいたことはないのです。

そして勝った場合に得るもの、失うものについても悩ましいところです。

和田が勝った場合、北条がいなくなり、和田一族・三浦一族が鎌倉の頂きに立ちます。

しかしそれでも三浦はナンバー2で和田の風下に立つことになります。

そもそも今の時点で御家人の人気は和田の方があり、三浦の優位はなかなかあやふやな状態。

そして戦は最初に声を上げたもの、主体的に戦ったもの方が勝った後の立場が上になるのは道理。

果たして三浦は、枝分かれした和田の風下に立つことを潔しとするのか。

一方、北条が勝った場合は、いままでと政治形態は変わりません。

和田が滅び、三浦一族のパワーは削られます。さらにもし和田を見捨てて北条に付いたら、鎌倉御家人からおじけづいただの、同族を見捨てただの言われることは請け合いです。

ただしナンバー2の位置は確保出来、和田の風下に立つことはありません。

三浦義村、今回はなかなか難しい選択を迫られそうです。

政子・泰時VS義時・広元

和田を滅ぼす陰謀を張り巡らせる父に詰め寄る泰時。

戦がなく皆で鎌倉の平和を作りたいという泰時。

一方、義時は10年か20年後に自分が死んだあと、泰時の前に和田一族が立ちはだかると言い、これもお前のためだといいます。

これはどちらにも利があります。

泰時の方には人間が持つ普遍的な理想。

そして義時の方は、政治や権力における生き残る方程式。

本作の義時は上記の主張といい、何だか徳川家康のような思考回路だなあと感じます。

家康はあらゆる未来を想定し、粛々と実行していきました。

よく豊臣家を残すことも家康は考えていたと言われますが、関ヶ原以降の大阪を見据えた城の作り方から見て、最初から滅ぼす気しかなかったとか思えません。

豊臣家は弱体化したとはいえ慕う大名も多く、また色んなシステムを未来を見据えて作った家康が、こんな分かりやすい脅威を放っておくとは思えないからです。

そこから考えるに、悲しいかな泰時の理想は民主主義ではない武家社会では、圧倒的な一強を作ることでしか実現しない気がします。

江戸時代が平和だったのは、徳川が圧倒的ナンバーワンとして君臨したからで、一方中途半端な室町はカオスな戦が乱立する時代でした。

そしてその一強を作るため陰謀を行使しているのが義時なわけです。

納得できない泰時は政子に直談判。

「父は和田を滅ぼそうとしている。父上を戒めてください」

そこに義時が登場し、政子との応酬が始まります。

「和田は利にさとくないから脅威にならない」

「かつぎあげるものが居るから脅威」

お互いの主張は混じりません。

義時と広元はそんななか、さらなる一手を思いつきます。

胤長の館を接収。完全な挑発ですが、もとはと言えば98人で挑発したのが原因です。

そして政子の方も戦を止める為、動きます。

三浦を北条の側に付かせ、勝敗を決定的なものとして和田を鎮める作戦を思いつき、三浦を呼び出します。

どちらにつくのか、と問いかける政子にいつものスマイルで北条に付くという三浦にもう一度

「どちらにつくのか」

と問いかける政子、尼将軍の風格や威厳があります。

そして「そう聞かれてあっちにつくと答えるやつはいない」

という三浦の本音に近い声を聞きだします。

この言葉を言わせることが出来るのが政子という人間の力です。

本音を言っても政子ならある程度理解してくれる、その思いが三浦に砕けた本音を言わせました。

もし威圧するだけの指導者なら、この言葉は引き出せないでしょう。

そして政子は見返りとして三浦を宿老に取り立てることを約束。

ここで北条についた場合、与党内の不動のナンバー2の位置が約束されました。

どんどん和田の方へ付く理由の方が弱くなっていきます。

ここにきて和田に付く理由は同じ一族の繁栄と、それを見捨てたという不義理な印象をつけられなくて済むぐらいですが、それもまた大きいです。

しかし三浦の心は大きく北条に傾きました。

将軍実朝ここにあり

実朝もまた和田が好きです。

そして北条は母の一族。

実朝も戦を止めるために動き始めます。

まず和田に会い「死なせたくない」「いつまでもそばに」「小四郎も鎌倉を思っての事」と説得し和田サイドの心をつなぎ留めます。

そして義時も交えた三者会談です。

「北条と和田があっての鎌倉、私に免じて戦はやめてくれ」

うん、これぞ正しき鎌倉殿です。

鎌倉幕府の根本は公平な裁判です。そして今、実朝は最大の臣下二人の争いを正論でもって見事に調停しました。

「わたしのやることに口を出すな」とあれだけ言っていた義時ですが、鎌倉殿が正しい方法で力を行使した場合に太刀打ち出来ません。

実権をふるっていても臣下は臣下、同じ御家人同士の争いの調停なので無理に断ることも出来ません。

実朝は立派に務めを果たしています。

一方政子は、義時を呼び止め二人での話合いを持ちます。

政子には義時がまだ和田討伐をあきらめていないのが分かるのでした。

「これも鎌倉の為」という義時に、それは聞き飽きたという政子。

そしてここで尼御台の威厳が炸裂します。

「戦をせずに、鎌倉を栄えさせてみよ!」

この時のたたずまいといい、言葉の言い方といい、尼将軍政子の凄みが凝縮したようなシーンでした。

この指導者には人が付いてくる・・・

そんなことを思います。

政子を見て思ったのは、「立憲君主制における立派な君主のようだ」ということです。

イギリスや日本では、首相の上に、権威としての王がいます。

王は権力は行使出来ませんが、君主は首相に対し「相談を受ける権利」「何かを奨励する権利」「警告する権利」があるということが言われています。

実権は臣下の首相がふるい現実を調停していき、王は理想を臣下に説いていくという棲み分けの体制とも言えます。

政子は理想的な立憲君主のように鎌倉に君臨している・・・

そんなこと思ってしまいました。

小池さんの演技は、北条政子という存在の魅力を何倍にも増幅しています。

脚本もすごいですが、小池さんの演技もすごいです。

矛を収めた義時と収められなくなった三浦義村

実朝・政子の説得によりトウに武装解除の旨を義村に伝えるように指示する義時。

時房の言うように、残念そうでありながらどこか嬉しそうでもあります。

確かに和田義盛は政治的作法に問題はありますが、楽しい人であることは間違いありません。

こういう政治的な性格と人間的な部分、両方を描くところが本作や主役の義時の魅力の幅を広げています。

しかし一方の三浦は巴により起請文を飲まされてしまいます。

巴の感覚は鋭いしすごいですが、今回に関してはそれが裏目に出てます。

本作は先を読んで先手をうったり、誇りに準じた行動をしても運という要素が全てひっくり返すという残酷さが描かれますが、ここでも運命は残酷です。

いよいよ当事者同士の気持ちとは裏腹に、鎌倉中を巻き込んだ合戦が始まります。

まとめ

本当に面白い!

まさか現代で、それもテレビで、こんなにも血・汗握る政治活劇が見れるとは思いませんでした。

義時・実朝・政子・泰時・和田義盛・三浦義村・のえ・・・・

それぞれの思いや葛藤や理想や陰謀が丁寧に編みこまれ、そして政治のダイナミズムを徹底して描く。

本作には政治ドラマとしての醍醐味が凝縮されています。

分かりやすいものが求められる時代で、ここまでハードで大人なドラマが見れるのは本当に幸せです。

そして脚本がすごいのは言うまでも無いですが、義時役の小栗旬さん、政子役の小池栄子さん、実朝役の柿澤勇人さん(本作で初めて知ったけどとんでもない役者さんだと思う)

もはやこの三者の演技は伝説に残るのではないか、そんなことすら思います。

いよいよ血と陰謀が加速していく後半戦、これからの展開がとても楽しみです。

今後もなるべく一話ずつ雑感をあげていけたらなと思います。

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