何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい♪
自動販売機
ふう、暑いなあ
そして咽喉がからからだ
おっ、こんなところに自動販売機があるぞ
何か冷たい飲み物でも買おう
売切 売切 売切 売切 売切 売切 売切
売切 売切 売切 売切 売切 売切 売切
うーん、ものの見事に「売切」ばかりだ
・・・・・
おっ、補充の業者さんが来た
良かったー
そこの人!
(うわっ、いきなり声をかけられた)
はい・・・何でしょうか
まさかあなた私がこれからジュースを補充するとか思ってるんじゃないでしょうね
えっ、補充業者さんじゃないんですか
いえ、正真正銘ジュースの補充業者ですよ
じゃあ補充してください
まさかあなた
私がそうやすやすとジュースを補充すると思ってるんじゃなかろうね
さっきから何言ってるんだコイツ
ジュース補充業者が、当り前にジュースを補充すると思うなよ!
あっヤバイ人だわこの人
だってこれはジュースの自動販売機ですよね
当たり前じゃないですか
ならジュースを補充してください
一つ相談があるんですが
なんですか
私は一体、何を補充すればいいと思いますか
ジュース以外で
ジュース以外補充しちゃ駄目だと思います
とりあえず色々持って来たんで見ていただけますか
うーん、色々持ってくる意味が分からない・・
よっこらしょ
まずはこの段ボールですね
・・泥まみれだ
一体何が入ってるんですか
私が農園の土で育てた
カブトムシのさなぎですね
さなぎ・・・
ジュースのボタンを押したら
黄金色に輝くさなぎが出てくるんです
私が女の子だったら失神する案件ですね
もちろんさなぎの側面にはストローをつけますから
安心してください
ストローは要らないです
さなぎは飲むものではないので
どうでしょうか
有体にいえば最悪ですね
仕方ありません
ではとっておきを出しましょう
んっ、何ですかこの紙たちは
私がいきつけのキャバクラの名刺100枚です
常連さんですね
ジュースのボタンを押すたびに
「えりか」や「あけみ」が出てくるんです
なかなかエレガントでしょう
麦茶のボタンを押して「えりか」が出てきた時の混乱は筆舌に尽くし難いものがありますね
安心してください
女の子の電話番号は黒塗りにしときますから
配慮は細かい・・・
どうでしょうか
かえすがえす最悪ですね
ならばこういう方法しかありませんね
よいしょ!
何ですかこの白くて長い縄は
えっ、しめ縄ですけど
当たり前みたいな顔できょとんとしないでください
これを自動販売機に巻いて、正面に鈴も付けちゃいましょう
やりたい放題ですね
ここに資本真宗総本山・自動販売神社が誕生しました
いいえ、機械にSM要素を足しただけです
150円でボタンを押すことがお賽銭になるという新しい機能性
これこそが新時代の宗教の最先端ではないでしょうか
いいえ、ピンキリのキリの最先端です
これも駄目ですか・・・
ならば仕方がありませんね
さっさとジュースを補充してくださいよ
覚悟を決めました
私が自動販売機に入ります!
ガンダムに乗るみたいなテンションで言うのやめてもらっていいですか
私が中に入って腐った自動販売世界を変えていきます
組織というのは大体、中から崩れるものなのです
中にジュースを補充することが、素晴らしい世界への近道です
・・さっきから聞いていれば
さてはあなた「自分がジュースを飲むこと」しか考えてないですね
それ以外のことを考える必要がないですからね
そうですか、ならば仕方ないですね
(がさがさ・・・ごそごそ)
んっ、何ですかそのハンマーと、ペンキは
あなたは買ってばかりですね
そろそろ売る方に回った方がいいのです
何を言って・・・
ぎゃあああああ
おや、肉体というのは丈夫なものですね
痛い、やめてくれ
ご心配なく、すぐに終わりますし
色ぐらいは選ばせてあげますよ
誰か、誰か助けてくれー!!
<日本都会新聞 7月8日号 三面社会記事>
繁華街の路地裏に佇む自動販売機が今、子供たちの間で話題になっている。
その自動販売機は、上に笑顔の若者の顔のモニュメントが付いており、側面にはビニール加工された手が配置されている。
そしてお金を入れてジュースのボタンを押すと、その顔のモニュメントが回り、手が上下に動く仕組みになっているのだ。
今では、この150円で遊べるアトラクションに親子連れが殺到しているとのこと。
筆者が訪れた時は、天気もとても良く、夏真っ盛りで太陽の光が煌々と輝いていた。
そして夏の輝く日差しの中で、子供たちの笑顔を見守るモニュメントも心なしか嬉しそうに笑っているように見えた。
この夏話題の自動販売機に一度足を運んでみるのもいいのではなかろうか。
そこでは子供たちの輝く笑顔、母親たちの穏やかな微笑、そしてそれを見守るモニュメントの笑顔があなたを待っているのだから。
<完>