<かえる劇場>動物園は大変だ

かえる劇場

何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見てね♪

動物園は大変だ

男

うーん、待ち合わせ時間を1時間過ぎてるが
アイツ全然来ないぞ、何やってるんだろう

友人
友人

遅れてすまん

男

お前が遅刻とか珍しいな

しかも1時間という大幅な遅れ

友人
友人

本当にすまん

男

まあいいか、とりあえず映画館に向かおう

友人
友人

そうだな

男

てくてく
そういやお前、何で遅刻したのよ

友人
友人

いやあ、そんな大した理由じゃないんだよ

男

ふーん
・・・ていうかさっきからパトカーとかサイレンの音がめちゃめちゃするなあ

何かあったのかな

友人
友人

・・・・・

男

まあいいか、それで何で遅刻したのよ

友人
友人

ああ、えーとね
逃がしてたのよ

男

・・・逃がしてた

友人
友人

そうだね

男

・・何を?

友人
友人

動物たちをだね

男

・・・えーと、動物を保護したとか、そういうことかな

友人
友人

違うよ
私は動物園から全ての動物を逃がしてたのよ

キキ―、パオーン、ウホウホウホ

男

道路を動物たちが走ってる

なるほど、町の混乱の理由の意味が分かったよ

友人
友人

それは良かった

男

・・・色々と聞きたいことがあるけど

まず、どうやって動物園から動物を解き放ったのよ

友人
友人

武力に決まってるじゃない

男

まさかの力技だった!!

友人
友人

朝礼から分かれて一人一人になった飼育員を後ろから襲って気絶させていったんだよ

男

うーん、背後からとは卑怯だ・・・

友人
友人

そのあと、檻の鍵を拳で叩き壊してまわったのよ

男

そこも武力!!
ていうか飼育員から鍵を奪わないんなら、飼育員を襲う必要ないよね

友人
友人

クマが黒い巨大な足を大地に踏みしめて、ウオーンと外地に踏み出し
ライオンは太陽にたてがみを煌めかせ、悠々とその軛を乗り越え
オランウータンの長い手は初めて、未知の世界へ伸ばされ・・

男

ごめん、脱出の様子を文学的に表現するのやめて
そういうの今求めてないのよ

友人
友人

皆さん、気持ちよく外界へ出ていきました

男

素直にワンセンテンスにまとめた・・
ていうか、そもそも何で動物園から動物を解き放ったのよ

友人
友人

実は今までお前には言ってなかったけど

俺は「動物園の在り方に疑問を呈す者」なのよ

男

いや星を導く者みたいなノリで言うのやめて
動物園の何に疑問があるのさ

友人
友人

人間の娯楽の為に、狭い世界に繋がれ飼われる
こんな残酷なことがこの世にあっていいのかい

男

ああ、そういうことか
まあそういわれるとそうかもね

友人
友人

その思いが我慢出来なくなり、ちょうどお前と映画を見ることになったので
そのついでに動物園から動物たちを解き放つことにしたのよ

男

動物園を解き放つときは、それ以外の予定が無い日にしてくれ!!
少なくとも絶対についででやることではないのよ

友人
友人

わめくのはそこまでにして、とりあえずこの駅前の歩道橋広場から町を見下ろしてみてくれ

男

何かたしなめられた・・
町を見下ろせ・・・何々

男

ああっ!!

男

ペンギンたちが鉄道ショップの前で、緑のタスキをかけてSuicaのイベントの呼び込みをしている!!

友人
友人

呼び込みナンバーワンは、3歳のペン太くんです

男

ああっ、ウーバーイーツの配達員がチーターに乗ってる
すごいスピードだ・・
そしてチーターにもしっかりウーバーイーツのロゴが入ってる

友人
友人

まさにチーターイーツ

男

あっ、SMクラブの中でゾウがボンテージを着て、鞭のごとく長い鼻で全裸の男をピシャピシャしている

友人
友人

ハナも男もウィンウィン

男

・・・動物が人類社会に適応している

友人
友人

そういうことだ、分かったかい
我々は彼らを檻に閉じ込めなくとも、共に歩んでいけることを

男

・・・そういえばお前が解き放った動物園は今どうなってるの

友人
友人

ああ、お前もそんなことに興味を持つ年頃になったんだな

男

同学年の同い年に言うセリフではないよね
あと年齢は今起こってる事と何ら因果関係がないのよ

友人
友人

ごちゃごちゃうるさいなあ

動物園を見るの見ないの

男

うーん、何か怒られている
納得がいかない・・・

友人
友人

あっ、でも映画の上映時間が迫ってるよな

男

いやもう映画とかどうでもいいわ!!
現実がフィクションを軽々乗り越えてきてるのよ

友人
友人

さっきから色々うるさいし、動物園に向かいますか

男

何で僕の方がたしなめられているんだろう
まあとりあえず動物園に向かおう

・・・・・


男

さて動物園についた

友人
友人

それではこれから各ブースを私が案内していきましょう

男

急に生き生きしやがって

友人
友人

まずはこちらのブースです

男

んっ、ガラスの仕切りの中が学校の校門前のセットみたいになってる

ああっ!!

男

第二ボタン、というか第一から全てのボタンをかけて
セーラー服の女子たちが、相手を噛みちぎったり血みどろの殺し合いを繰り広げている

友人
友人

中央を見て下さい

男

ああっ、中央にいる学ランの男の子は、体が切り刻まれて事切れている
ボタンが付いていない学ランが黒い死に装束のようだ

友人
友人

欲しいものが何かを忘れ、ボタンを奪うこと、争うことが目的になってしまったのでしょうね

男

見ていられない・・
次のブースに行こう
あれ、人が並んでいるのかしら

男

ああっ!!

男

100メートル先までずっと和式便所とズボンを脱いでがに股の前傾姿勢の人がドミノの様に並んでいる

友人
友人

滑稽で憐れな排泄の連鎖ですね

男

あまりの滑稽な哀愁で涙が出てきた・・
次のブースに行こう

男

これはビュッフェ形式のレストレンの店内だな

ああっ!!

男

一人の中年女性がローストビーフだけを大量に取って、他の人から恨みの視線を買っている

友人
友人

ローストビーフは午前限定ですから、取れなかった人の恨みはこのレストランにこびりついて離れないでしょうね

男

分け合うことすら人間は出来ないのか・・

友人
友人

次のブースです

男

またトイレのブースだ
そして今回は個室の外で大勢の人が列でトイレを待っている

友人
友人

そろそろドアが開きますよ

男

あっ本当だ、男の人が出てきた

ああっ!!!

男

15分トイレを独占して列に迷惑をかけたことを悪いと思ってるくせに、それを認めたら自分のちっぽけなプライドを守れなくなるから、何も気にしていないという不遜な顔つきをしてイヤホンしながら外に出ていった!!

友人
友人

世の中の、何気ない醜さを凝縮したような顔でしたね

男

瞬間的な憎しみの気持ちが、トイレを待っていた人々からほとばしっている・・・

友人
友人

さて次のブースですよ
ここは都内のアパートのそれぞれの部屋を断面みたいに見れるようになってます

男

本当だ

ああっ!!

男

101号室の20代の女の子が、呆けたセイウチみたいな顔でわき毛をピンセットで抜いている
そして203号室の中年のサラリーマンはドロンとした目で、すね毛を引き抜いてはカーペットに撒き散らしている
206号室の人は、耳をほじり、そのニオイを嗅いでは口を半分開けて斜め上の何かに視線を這わせている

友人
友人

無意識の人間の生活というのは、なんとおぞましいことでしょう

男

あっ出口だ

友人
友人

以上が、動物の代わりに人間を収容した「人間園」です

男

・・・君の狙いが分かった気がするよ

友人
友人

ほう

男

何もかもを暴き出して観察することって本当に残酷なことなんだね
人間も動物も隠したい闇があって
その闇があるから何とかバランスを取れてるのに
その闇をさらしたら、その動物や人の人格そのものを破壊してしまう

友人
友人

よく気付いたね
そして個人の崩壊は集団に連鎖し、いずれ世界を揺るがす大事件に繋がる

男

君はそれを食い止めるために、観察からの開放を実践していたんだね

友人
友人

その通り、そして次は水族館も海に解き放たなくてはならない

男

決めた!僕もそれを手伝うよ

友人
友人

そう言ってくれると思ってたよ
でもその前に・・・
ほら

男

あっ、これは今日見るはずだった映画の券

友人
友人

とりあえず今日の予定はしっかり片付けよう
そして飯でも食いながら今後の計画を話そうじゃないか

男

ふっ、かっこつけやがって





数か月後、各地の動物園や水族館は次々と開放されていった。

その後の社会が混乱するのか、それとも動物と人間の新しい秩序が出来るのかは今はまだ分からない。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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