<歴史>鎌倉殿の13人 8~13話雑感

鎌倉殿の13人

上総・千葉を味方に付け、ついに鎌倉入りした頼朝一行。

勢いに乗る頼朝たちは、富士川の戦いで、維盛率いる平氏軍を撃破!!


そして、鎌倉では、屋敷の采配、土地の配分、大江広元らの文官たちの登用など、着々と幕府の土台が築かれていきます。

8~13話では主に、亀の前事件や、鎌倉での人間関係、幕府の土台が出来る過程が描かれたわけですが、特筆すべきは義経の描かれ方です。

私は、この描き方に喝采送りたい!!

以下では、物語の時系列になるべく添いながら、気になった点を書いていきます。

鎌倉入り

大庭軍に負け、房総半島へ逃げ帰ったのも今や昔。

頼朝軍は大軍で、源氏伝来の地、鎌倉に入ります。

印象的なのが、頼朝の屋敷の采配の話です。

頼朝の父、義朝ゆかりの地に屋敷を立てて欲しいという要請を頼朝は却下。

これは一見冷たく見えますが、鎌倉は武家の首都かつ、軍事的な要になるわけですから、頼朝の考えのほうに理があるでしょう。

頼朝は勢力を盛り返しつつも、自前の軍はなく、坂東武者の意見は強く、まだ圧倒的なカリスマ将軍ではありません。

しかし、こういう重要な部分では我を通し、将軍権力と部下への対処は一線を画す。

こういう綱引きの神経戦の果てに、カリスマオブパワーがあるわけですね、権力者も大変だよ、本当・・・


また頼朝は儀式の重要性も意識していて、鎌倉入りにはイケメンを先頭にし、華美な印象を民に植え付けます。

こういう儀式や形式の積み重ねが、いずれ揺るがすことのできない実質になっていくことを頼朝は知っているんですね。

頼朝の軍事指揮官の能力に疑問を呈す人は多いですが、やはり政治家としての力はずば抜けてると言えるのではと思います。

政子との再会も、わざとらしいくらいの演出でしたが、「将軍と御台所の感動の再会!!」という見出しで新聞の一面に載る位に盛り上げることが、鎌倉を盛り上げることにつながるわけですね。

いよいよ、鎌倉幕府始動というわけです。






富士川の戦い

さて、鎌倉入りしてまずすべきは平家を迎え撃つことです。

武田との足並みが揃わず、「源氏まじで仲悪すぎ問題」は後述するとして、ここで注目したいのは北条時政です。

従来、富士川の戦いは、頼朝VS平家の唯一の直接対決であり、かつ平家軍が水鳥の音にびっくりして、戦わずして敗走したという、今後の源氏の優勢を裏付け、かつ平家の落日を裏付けるエピソードとして語られてきました。

この戦が世間に衝撃を持って迎えられたのは事実でしょうが、とはいえ平家もまだまだ政権与党なわけで、この戦を持って平家オワタというのは言い過ぎで、頼朝が世間に一大勢力として認められ始めた位に考えるのがいいのかなと思います。


まあ、それはさておき本ドラマに置ける、富士川の戦いの見どころは時政でしょう。

従来は策士のタヌキとして描かれてきた時政ですが、今回は人の良い、どこか抜けてるけど、坂東武者のたくましい精神を持ったおじちゃんとして描かれています。

しかし、なかなか鎌倉での生活や立場の変化に適応出来ない時政ちゃん。

あげくに三浦に「しっかりしてくれ!」と怒られる始末。

そして俺を殴ってくれのすったもんだで、水鳥が飛び、平家は敗走・・・・


正直、マジで笑いました。


まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」ではなく「時政がグズれば平家が逃げ帰る」です笑


この滑稽さとたくましさ、素直さが織り交ぜたような人の不思議な力が、歴史の表舞台に北条を上げさせたんだろうなあと納得してしまうような力が、この時政にはあります。

演じる坂東彌十郎さんの力を改めて実感しちゃいます。





板東VS鎌倉殿パワー

平家軍を倒し、すぐにでも京都に攻め上りたい頼朝。

しかしそうは問屋が卸しません。

それは御家人たちの事情です。

兵糧が無い等の根本的な問題もありますが、根本的に頼朝と彼らの事情は異なります。

頼朝は平家を追悼し、京都において政権を模索したい。

しかし坂東武者は、ごちゃごちゃ言ってくる平家を叩きのめしたいのはあるけど、根本は坂東において自分たちの地歩を固めたいのです。

ぶつかる二つの意図。

そしてこの戦いは坂東に軍配が上がります。


この時点で、頼朝には鎌倉殿として京都攻めをごり押しする力は無いわけです。

彼は、後のカリスマ将軍ではまだなく、この時点ではまだまだ坂東武者の力は強いのです。

さらに言うなら、この時の判断は坂東武者の方に利があったのも事実です。


そもそも兵糧がぎりぎりで京都を攻めて上手くいっても、すぐに京都を包囲され敗走するのが目に浮かびます(京都は平地が多く、守る方が常に不利)

さらに背後には奥州藤原氏もおり、うかつに関東を動くより、どう考えても関東に地盤を築くことの方が優先順位は高く、頼朝はある意味で坂東武者の判断に救われた側面もあります。

しかし、頼朝は自分の権威・権力を脅かしたものを忘れません。

特に上総広常は佐竹攻めを主張し、上洛しようとする頼朝権力に立ちはだかった男として、頼朝は記憶します。

こういう積み重ねを経て、頼朝はその人の処遇を判断していくわけです。

面白いのは義時は頼朝の京都攻めの方へシンパシーを感じてるところです。

こういう細かい演出により、義時と頼朝の政治上の師弟関係や義時の坂東に留まらない思考が垣間見えて面白いです。






許されざる者たち(大庭、伊東)

自分を房総半島へ敗走せた大庭。

そして、八重との子を殺し、自分を追い詰め続けた伊東。


頼朝は自分を苦しめた相手を許しません。

その意味で、大庭景親が首をさらされたのは、頼朝の理論では当然です。

そして伊東です。

政子の血縁ということもあり、一度は恩赦を決めるものの、結局は処刑。


残酷ですが、これも頼朝の理論から言えば当然です。

なぜなら頼朝こそ、平家に命を助けられたことにより、平家へ対抗する勢力を率いることになった張本人なのです。

いわば恨みを持つ男を生かしておいたらどうなるかを体現した生き字引です。

恨みを持つ男を恩赦したところで良いところは一つもない。

頼朝は権力者を脅かす危険の真理の一つを骨身に染みるほど知っているわけです。


もしここで伊東が命を長らえたところで、いずれは命を落とす運命だったでしょう。





りくの野望

したたかだけど楽天的なたくましい思考で、政子や実衣とうまくやっていたりく。

しかし、ここにきて徐々に彼女の中の野望が形をもって現れだします。

鎌倉政権が形になるにつれて、徐々に出来上がる力関係。

もちろん時政もかなり好待遇で処遇されてはいますが、どうも物足りない様子のりく。


それもそのはずで、北条は頼朝の御台所の政子の生家で、もし頼朝に何かあったら鎌倉を引っ張っていくことになる可能性もあるわけです。(実際、そうなりますし)

なので、時政には鎌倉のどの武士にも負けずに先頭で引っ張ってもらい、ゆくゆくはりくの血を引いた男の子が、鎌倉の頂点に立つ!!

まあ、これがりくの野望でしょうね。

そしてこの野望はあながち実現不可能ではないわけです。

とはいえこの野望こそが、人生の落とし穴だったりするのが人生のビターなところです。

物語後半になるにつれて、より重要になってくるりくの野望に注目しておくと、これからのドラマをさらに深く楽しめると思います。





文官三人衆(鎌倉政権の土台)

京都から連れてきた

大江広元、中原親能、二階堂行正

この3人こそ、荒くれものだらけで政治の「せ」の字も分からない坂東の政権を支えることになる重要メンバーです。

特に大江広元は個人的にかなり尊敬していて、例えるなら鎌倉を支える「スーパー官房長官」みたいなイメージです。

この時期の京都は上級官僚は世襲でほぼ埋まっていて、今風に言えばノンキャリアの官僚は力を発揮する場所がありませんでした。

そこで、ものすごい才能を持ったノンキャリが鎌倉に来て力を発揮するわけです。

大江広元は、頼朝だけでなく、政子、義時と後の政権担当者からも常に重宝され続けます。

守護や地頭の発案者も広元ではないか?と言われてるほどです。

この3人が登場し、いよいよ鎌倉幕府の土台が出来上がってきた!

そんなことを思いました。




秘書官・義時、CIA景時、親分義盛

頼朝を、石橋山で見逃した功もあり、頼朝に出仕することになった梶原景時。

彼は、ここから頼朝の懐刀として、暗に情報を集めたり、陰謀を巡らしたりと縦横無尽の活躍をします。

個人的なイメージでいうと、頼朝個人のCIA長官の様な印象があります。

伊東祐親の下で、暗殺を担っていた善児が配下に着いたのも、景時の暗い仕事人のイメージにぴったりです。


前項の文官3人に景時を加えたメンバーが、頼朝政権の官房みたいな感じで機能していくわけですが、注目なのはここに義時もいることです。

文官3人より権限が明確でないにしても、頼朝の政治の精神を理解し、フットワークが軽く動き回る、頼朝の秘書官みたいなポジションにいるように思います。

この微妙な立ち位置を小栗さんがとても魅力的に演じていて、義時がより魅力的に映りますね。

頼朝の政治をじかに学んだことが、義時の人生にどう生きてくるかもドラマの楽しみの一つです。


そして話は変わり、和田義盛です。

確かに政治が分かる文官は重要です。

しかし、鎌倉にいるほとんどは荒っぽい坂東武者であり、彼らの支持や、手助けが無ければ鎌倉幕府が立ち往生になるのは紛れもない事実です。

そんな荒武者を束ねるのに和田義盛はうってつけでしょう。

頭より、体と人情で動く肉体派の親分。

こういう人も政権内に必要なのです。

その意味で、鎌倉武士を束ねる侍所別当は、義盛に適任だと言えると感じます。





比企の野望

待望の男子を生んだ政子、ここに鎌倉幕府2代目将軍、源頼家が誕生します。

しかし、すぐに生まれた赤ちゃんから引き離される政子。

頼家は乳母を引き受ける比企家において大事にされている様子。

頼朝は、鎌倉内の、御家人の家の力のバランスと、自分も乳母としてお世話になったことから比企家を選んだのでしょうが、これが後に色々な事件を巻き起こします。

比企が語った、娘を源氏の男たちに送りこむという野望は正しいでしょう。

事実、頼朝の妻の生家である北条は、一定以上の力を得ています。

しかし、逆に言えば比企が北条の様に権力のラインに乗れば、それがいずれ北条の利益とバッティングすることは自明の理です。

今後、この二家がどうなるかもドラマの見どころのひとつです。




亀の前事件

言わずと知れた政子の恐妻エピソードの一つ。

頼朝の浮気に激怒した政子が、りくの兄の牧宗親に頼み、浮気相手の亀の前の家を焼き払ってしまう。

そして今度はそれに激怒した頼朝が、牧宗親を呼び、髻を切り取り辱めを受けさせる。

すると今度は、妻の兄の無礼を激怒した時政が、伊豆に帰ってしまう。

困った頼朝が、時政と伊豆に帰らずに、鎌倉に残った義時をなんとなくほめる。


というのが史実における亀の前事件で、もはや史実そのものがコントです。



本ドラマでは、ここに義経というファクターを入れて、政子は「家を焼き払おうとまではしたわけではない」という、幾分、恐妻要素を和ませていたのが印象的でした。

そして逆にその負の部分を義経に負わせていたのも面白いです(義経については後述)

義時に関しては、いつも通り、みんなに怒られたりして、右往左往して頑張ってましたね笑

そんな彼もいつかは鎌倉政治の大人物になると思うと今から感慨深いですなあ(かなり早い感慨)


そして重要なのは政子と亀の前です。

政子は、りくの告げ口の背後にある悪意も冷静に分析したうえで、感情にのっとり行動しています。

ここに後の尼将軍としての豪快でありながらも鋭利さを兼ね備えた資質を見ることが出来ますね。

そして亀の前、私は最新話で政子に対し

「文筆を勉強し、鎌倉中の女性がうらむような御台所を目指せ」

と凛とした表情で言い放ったのを見た時、衝撃を受けました。


なんというか、ここに何かしらの凄みの極致を見たような気がしたのです。

江口さんの演技も凄ければ、この言葉を言わせた脚本も凄い。

そのあと素直にアドバイスを聞く政子もあっぱれです。


このシーンだけで、本作が上辺だけの道徳をなぞったドラマではなく、その向こうの女同士の思いや、矜持を浮かび上がらせていることが分かります。

うーん、良い大河を見れて幸せかな。





源氏まじで仲悪すぎ問題

富士川での武田の抜け駆け、協調性ゼロの行家、我が道を行く木曽義仲。

一族仲がとても良い平家に比べると、源氏はまじで仲が悪いのです。


頼朝自身も猜疑心の固まりですし、それは仕方がない部分もありますが、今後の鎌倉殿は、平家討伐と並行して、源氏同士の争いがどんどん増えていきます。

義経や、範頼などもカウントするならば、平氏と戦うことより源氏同士のいさかいの方が、多いのではないかというレベルです。

今回、義仲が登場し、息子の義高を鎌倉に送ることになりましたが、これがどういう顛末を辿るのかを注視しておくと、この時代の荒んだ悲しみをより深く味わうことが出来るのではと思います(全く良い気分にはなりませんが)






義経がヤバい

三谷幸喜さんは歴史が好きであり、本作は鎌倉時代が舞台で、主役は北条義時。

私はこの情報を目にした時から、無意識で期待してはいました。

しかし実際に目にしてここまでとは思いませんでした。


そうこれは義経の話です。


私は歴史上で、嫌いな人物が二名います。

そしてその二名のうちで圧倒的1位を誇るのが義経なんです(好きな人ごめんよ、義経が好きな君は嫌いじゃないのだ)


かつて織田・豊臣・徳川の三者を比較したとき、信長についてかなり辛い評価をした記憶がありますが、とはいえ信長だってめちゃくちゃすごい人です。

しかし義経に関しては、そのエピソードのもはやほとんどダメだと私は考えています。


まず論外として、頼朝に「平家追討は大事だけど、何よりも安徳天皇と三種の神器だけは守れよ」と言われたのに、強引に攻めて、両方とも海に沈めました。

軍事能力で言えば、ほとんどが思い付きレベルの奇襲で、裏で後白河法皇の暗躍があったり、という運の要素だけで勝ち抜いてきたのが事実だと思うのです。

それなのにたまたまついてきた結果だけが独り歩きして、英雄になっているヤツ。

これが私の義経のイメージです。


しかし本作はすごいです。

私のイメージのさらに上をいくクズっぷりを発揮しています。


・弓矢対決で姑息な手を使い、野武士を殺害

・作戦を立案し、ほめられるが、その案を使う前に戦が終結→発狂して砂の砦の模型を壊す

・義円を嫉妬により戦に送り出し死なせたうえ、陰謀がばれる

・政子に対する気持ちの悪いマザコンの描写

・儀式で馬を引くのを嫌がり、頼朝を激怒させる

・亀の前事件で、屋敷を守る役割を理解出来ず、逆に破壊の限りを尽くす

・性欲に溺れて朝起きられず、大事な戦の参戦に間に合わない





いやあ、あっぱれするくらいのダメ人間です。

おそらく、このドラマが終わる頃には、義経の世間のイメージが上書きされることは間違いないでしょう。

感情のコントロール、欲望の制御が出来ず、政治的な意図、自分の立ち位置も分からない。

生まれたばかりの乱暴な赤ん坊みたいな彼が行きつく先を、しっかりと見届けたいと思います。





最後に

木曽義仲が出てきて、いよいよ平家、義仲、頼朝、奥州藤原という、今後の争いを作用する4大プレイヤーが揃いました。

そして来週から物語はどんどん激動の展開を見せていくことになります。

また、きりのいいところで鎌倉殿の雑感を書いていけたらと思います。

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