<書評>「犯罪者」 疾走感と重厚感の弾丸

考察

「犯罪者」は太田 愛さんの長編小説です。

4人が殺害された通り魔事件を発端に、ただひとり助かった青年・修司、刑事の相馬、その友人・鑓水が暗殺者に襲われながらも事件の真実に迫るクライムサスペンスです。

とてつもないスピード感と、それでいて失われない重厚感を兼ね備えた最高級のエンターテイメントである本作を、今回はネタバレなしで書評していきます。

魅力的な登場人物

この小説を支えるのが魅力的な登場人物たちです。

一見、今どきの若者でありながら、芯のところに優しさと強さを持つ修司。

正義感もあり真面目でありながら、組織の欺瞞と上手く歩調を合わせることが出来ずに浮いている刑事の相馬。

適当で脱力系に見えながらも、自分の美学を大事にしている鑓水。

この3人のトリオが物語を進めていくことになるのですが、てんで個性の違う3人の距離が徐々に縮まっていき、謎に迫っていく様子は、微笑ましくもあり、わくわくもさせてくれ、出来るならこの3人のやりとりをずっと見ていたくなるほどです。

そんなことを思っていたら、なんと嬉しいことに、この3人は次回作以降の太田作品でも出てくるのです!

今回の「犯罪者」では主に修司にスポットが当てられます。

太田さんの次の作品である「幻夏」では相馬に、そしてその次の作品の「天上の葦」では鑓水にスポットが当てられます。

内容的に「天上の葦」については、平和の時代が抱える徐々に迫る危険の本質を描いているので、がっつり内容の考察をどこかで出来ればと考えています。




ページをめくらずにはいられないパワー

白昼での通り魔事件。

そして生き残った少年。その少年に謎の言葉をかけてくる老人。生き残った少年を執拗に狙い続ける暗殺者・・・

もうこれだけで、次を読もうという気になります。


この本は上下巻でかなりの分量があり、大抵どんなに面白い本でも、ここはちょっとだれるなあ・・・

みたいなところがあるものです。

しかしこの小説にはそれがない!

徐々に明かされていく謎、そこに宿る人々の思い、暗躍する影の力。


ものすごい牽引力とパワーです。


エンターテイメント小説は難しいもので、疾走感と快適感を求めるあまり、内容がやたら趣味全開になったり、軽くなってしまい読了後すぐに記憶から無くなる、というようなことになりがちです。

しかしこの小説は、作品の背後に作者の問題意識や、それにかける熱い思いが伝わってきて、一度読んだら記憶にしっかりと焼き付き、新しい価値観を与えてくれる内容になっているのです。

そして逆もまたしかりで、いくら難しい社会問題への関心や、精神上の思想的な考えを持っていたところで、多くの人間は自分に快楽を与えてくれるものしか読みません。

しかし、この小説は難しくて先鋭的で分かる人だけが分かればいいみたいな内容にならずに(そういう尖った作品も個人的には大好き)万人が楽しめるエンターテインメントになっているので、結果的に多くの読者に読んでもらえて、メッセージも押し付けにならずに伝わるようになっています。

「ワイルド・ソウル」を読んだときにも感じたのですが、最高級のエンターテインメントとは、こちらに楽しみを提供するだけでなく、人生を生きるために必要な何かを与えてくれるのだと本作を読んで改めて感じました。

この書評で興味を持って頂けたなら、物語の疾走感と、内容の重厚感が見事に合わさった傑作を、是非読んで欲しいなあと思います。

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