何だかよく分からない、少しアホで不条理なショートストーリー。
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい♪
おもてなし
やっと夏休みだー
この宿を起点に、色々な観光地を回るぞー
いらっしゃいませ
当旅館にようこそ
(おっ、ハンサムなナイスミドルだ)
ああ、ありがとうございます
5連泊の長期逗留を受け入れてくれてとても助かりました
いえいえ、プランでは基本的に夕飯無しということですが、当日連絡でも夕飯を出すことが出来ますのでお気軽にご相談ください
ありがとうございます
けっこう色々な場所を回りたいと思ってるんで、もしかしたら今日は宿に戻れないかもしれないんですけど、お金はちゃんと払いますので
御心配なさらずに、お客様のご都合を優先下さい
ありがとうございます
さて、荷物も部屋に置いたし、それでは行ってきます
いってらしゃいませ
・・・・・
さて、まず最初に行きたいのは、有名な温泉街がある宿場町なんだよな
ここから電車で2時間だからけっこうあるな
ちょっと電車の中で寝とこうかしら
・・・・・
むにゃむにゃ
おっ!いつの間にか目的の駅の間近に!
うわっ、山の緑が目を覆う素晴らしい景色!
さて、ホームに降りて・・・
お客様
あれっ、旅館の若旦那さん、どうしてここに
いえ、明日の朝食が「和」と「洋」を選べるんですが聞くのを忘れてまして
(俺、一番早い電車に乗ったのに、どうやって先回りしたんだろ)
ああ、ありがとうございます
朝までに旅館に戻るかどうか分かりませんが、「和」の方でお願いします
かしこまりました!
それではいってらしゃいませ
(車で先回りしたのかしら)
はい、ありがとうございます
・・・・・・・
さて、駅から出たわけだが、とりあえずもうお昼だし、ご飯を食べよう
事前に調べたところ、ここから15分歩いたところに、美味しい魚が食べれる店があるらしい
少し遠いけど、せっかくだから行ってみよう
・・・・・
おっ、着いたぞ
小民家風なお洒落なお店だ
おじゃましまーす
いらっしゃいませ
えーと、注文は・・・じゃなくて
若旦那じゃないですか!!
びっくりした、どうしたんですか
いえ、うちのお風呂なんですけど、今の期間、ご希望の方のみ、第二露天風呂もご利用頂けるんですが、いかがなさいますか
えっえーと
とりあえず今は大丈夫かなあ・・
そうですか
それではこのお店で、食事をお楽しみくださいませ
お辞儀をしてさっそうと出ていった・・・
一体いつから店の中にいたんだろう
・・・深く考えるのはよそう
あっ、すいません
日替わり焼き魚定食を一つ
・・・・・・
いや、とても美味しかったなあ
魚って、こんなに甘味があるものなんだなあ
さあ、ここでひとっ風呂と行きたいどころですが、まだ時間が早い
どうやら、ここからバスで30分行ったところに、有名な滝があるらしい
パワースポットらしいし、行ってみよう!
・・・・・
バスも景色を見ながらだとあっという間だな
そして滝が見えてきたぞ
ものすごい勢いで幾条もの水が龍のように流れ落ちている!
おっ、道沿いに行けば滝の裏を通れるようになってるみたいだ
行ってみよう
すいません
うわあ!!
びっくりした、若旦那じゃないですか
ちょっとお伺いしたいことがありまして
今、滝の裏から出てきましたよね
当旅館の1Fエリアでお酒をたしなめるBARを営業してるんですが、利用券を渡すのを忘れてしまって
えーと、ああ、はい
ありがとうございます
それではいってらしゃいませ
・・・ちょっと怖くなってきたな
いやいや、きっとめちゃくちゃ親切な若旦那なんだ
気にするのはやめよう
・・・ただ滝の裏を通るのはやめて、眺めるだけにしとこう
・・・・・
さて、念願の滝も見て温泉街に帰ってきたぞ
少し汗もかいたし温泉を回ろうかな
少なくとも、3つは入りたいところだ
まず一つ目は、松の湯さん
ネットで調べてここだけはどうしても入りたかったんだよね
暖簾といい、竹の雰囲気といい最高だ
さて服を脱いでと・・・
うむ、温泉も含めて最高の景色!!
さあ、入るぞ
お先に失礼してます
うぎゃあー、若旦那
すいません、少しお伺いしたいことがありまして
あっ、ええっ、ああっ、はい
(若旦那がすました顔で、湯舟に浸かってタオルを頭にかけている・・・)
「和」の朝食なんですけど、山菜の盛り合わせか、旬の松茸のお吸い物かどちらか選べるのを聞きそびれてまして
ええっと、お吸い物の方で
かしこまりました
それでは、ごゆっくりなさいませ
颯爽とタオルを持って出ていった・・・
・・・・・・
気を取り直して、違うお風呂回るかな・・・
・・・・・
・・・・・
はあ、なんだか温泉を回る気がしなくて、結局喫茶店でぼーっとしてしまった
しかし、もう暗くなってきたな
やっぱり今日は温泉街の外れにあるゲストハウスに泊まろう
・・・・・・
おっ、ログハウス風のわりかし明るい雰囲気のゲストハウスだな
なんか気分が明るくなっていい感じだ
さて受付も済ませたし、あとは部屋でゆっくりするか
あっ、そうだ
共用の洗濯機があるらしいから洗濯をしとこう
出来る時にやれることはやっとくのが旅の鉄則よね
・・・・・
さて洗濯スペースに来たけど、誰も居ないのに洗濯機が回ってるなあ
前の人が席を外してるけど洗濯中みたいだな
あとどのくらいで終わるかなあ
時間とか表示がないかしら
グルグルグル
ガバッ!!!!!
すいません
ぎゃああああああ
若旦那ーーーーー!!!!
ぐるぐるぐる
少しお伺いしたいことがありまして
はあはあはあ
ぐるぐるぐる
よろしければ洗濯機の電源を止めて頂けるとありがたいのですが
はあはあはあ
ピッ
ありがとうございます
あのー、先ほどのお吸い物の・・・・
ちょい待ち!!
もうそんなことはどうでもいいのだ
はあ?
いまあなたは洗濯機から回りながら出てきましたよね
そのことが今世界中で起きてるどんなことよりも最優先の問題なんですよ
ああ、ついうっかりしてしまいまして
で、先ほどのお吸い物の・・・
待たんかい!!
お吸い物なんてどうでもいいわ!
うっかりでこの場をしのげると思うなよ
はあ?
全く響いていない・・・
ていうか今日一日あなた神出鬼没とかのレベルじゃないくらい、私の前に出没しますよね
あなたは何物なんですか?
いや、人間ですけど
うーん、そんな自信満々に言われると、こっちが変なことを聞いてるみたいだ
いやいや、そうじゃなくて、あなたの移動能力はもはや人智を超えた何かじゃないですか
なるほど、あのー
当旅館を予約するときに気付きませんでしたか
えっ、普通に予約しただけですけど
実は、私、パソコンやらスマホやらがてんでダメで、ですから当店は予約システムというものはなくて、電話でしか予約が出来ないんです
ああ、確かに
電話で予約しましたけど、それが何か
最近、スマホばかり使っていると「スマホ脳」になるという問題が提起されていますよね
えっ、ああ、はい
私は逆で「アナログ筋肉」なんです
ちょっと意味が分かりませんです
つまりあまりにスマホを使わな過ぎて、健全に脳と体が作用して、筋肉が常人より発達してしまったのです
この人さっきから何を言ってるんだろ
私が筋肉を引き締めると、空間を引き締めることが出来て、好きな場所に移動出来るのです
逆に筋肉を緩めると、元の場所に戻れるわけです
・・・・・
試しにやってみましょう
ぐにゅん
はっ!若旦那が消えた
ぐにゅん
これを見て下さい
あっ、それは僕が旅館に置いてきた
お洒落な麦わら帽子
これで信じて頂けましたか
・・・人類はスマホを使わなければ、とんでもない進化を遂げていたのか
私の家の子供たちも、「アナログ筋肉」の能力者です
すごい能力の発生率だ!
人類は進化の可能性を自ら封じ込めていたのか
人間には無限大の可能性があるのですよ
しかし、そんな能力ありながら、なんで隠しているんですか
実は私は命を狙われているのです
ええっ、誰にですか
携帯会社です
うーん、暴力団とかではないのね
私がこの能力を公表した場合
誰もがスマホを手放すことは目に見えています
ですので、私が能力を公表しようとした際、奴らは販売員を装った暗殺者集団を差し向けてきたのです
なるほど、ありえなそうでありえる話ですね
ですので私はひっそりと実家の旅館を継いだわけです
・・・・・
本当は能力の事は隠しておきたいのですが
お客様を信頼してお話しました
・・・ひとつ聞いていいですか?
何でしょうか
・・・僕も「アナログ筋肉」を持てるでしょうか
・・・今日一日あなたを見てきましたけど、フットワークの軽さ、あらゆることへの好奇心
どれを見ても「アナログ筋肉」の能力者の素質を充分に備えています
お願いします!
僕に「アナログ筋肉」の稽古をつけて下さい
才能があるとはいえ、私はひいきしませんし、手加減しませんよ
それでもついてくる覚悟はありますか
お願いします!!
分かりました
一緒に頑張りましょう
二か月後、ある携帯会社の幹部の耳に、若い「アナログ筋肉」の能力者が現れた可能性があるという情報が入った。
ここにきて急激な人数の能力者が日本に現れ始めている。
幹部は報告を聞き、少し笑いながら呟いた。
「果たしてどちらが勝ち残るかな」
この後、スマホVSアナログ派の全面戦争が始まる・・・かもしれない。
<続きそうに見えるけども完>