<書評>「神を見た犬」 ブッツァ―ティ 先鋭的な発想と悲観の融合

書評

最近私は、本屋に行き気になったタイトルの光文社古典新訳文庫を買うことがブームです。

新潮文庫よりも若干値が張る印象があるものの、海外の古典の名作を、専門の文学者の方が、新しい現代の訳で読みやすく翻訳したものを読めるので、最近はもっぱら光文社古典新訳文庫の本ばかりを読んでいます。

今回紹介する「神を見た犬」も本屋でタイトルを見て買った光文社古典新訳文庫から出ている作品です。

本作は20世紀のイタリア文学で「幻想文学の鬼才」と称されているブッツァ―ティという作家の珠玉の短編集です。

私も本作を読んで初めて知った作家ですが、小説以外にも漫画と詩を融合させた「劇画詩」や絵画の個展を開いたりと、あらゆる分野で才能を発揮した人物だったそうです。(1972年没)

作家としての地位が確立されてからもジャーナリストの仕事を生涯続けた彼は、第二次世界大戦へ従軍記者としてイタリア軍の巡洋艦に乗り込んだ経験もあり、それが政治や軍に対する鋭い描写として生きていると感じます。

私は本作しか読んでいないのですが、その印象においてブッツァ―ティという人を語るとするなら

「先鋭的な発想・想像力と悲観・哀愁の芸術的な融合」

を作品に昇華した人だと思います。

本作には22編もの短編が収録されているのですが、舞台は病院であったりクリスマスの民家であったり、また描かれるのは海の男であったり、少女であったり、神々であったり、多種多様です。

そしてその全てにおいて、どこかクスッとさせられたり認識を転換させられたりする発想・想像力のスパイスが効いていて、どれを読んでも退屈なものはありません。

そして本作がすごいのが、発想の面白さが、人間の業という、どうしようもなさや哀しみへと繋がっているからです。

作家のブッツァ―ティ自身が、骨の髄から自分はペシミスト(悲観主義者)であると言っているように、作品にもそれが現れています。

しかし、その悲哀や業は、先鋭的な発想において人類の急所を突いている為、普遍的なレベルに達しており、だからこそ本作やブッツァ―ティの作品は読まれ続けているのだと思います。

是非、色々な人に読んで頂きたい一作です。

それでは以下、収録作の気になった短編の感想を一言程度で述べて、本記事を終えます。

天地創造

文字通り神の天地創造の話、今も漫画になっているような内容を何十年も前に書いているのがすごい。

アインシュタインとの約束

好奇心や向上心の功罪についてを凝縮させたような作品。

七階

病院が舞台の社会派コントのような作品。妥協やプライド、階層主義への皮肉が効いています。

聖人たち

信仰というものの形式的な部分の滑稽さを描く、最後に本質もまた付け足すあたりが素敵。

グランドホテルの廊下

グランドホテルの廊下でトイレを巡るコント。人の見栄や外聞とは滑稽なり。

神を見た犬

表題作。人間と信仰、建前や見栄が織りなす真実の内の一つを見せ付けられました。

風船

些細な細部の醜い出来事に焦点を当てること、それが全体を象徴しているのかもしれない、そんな話。

呪われた背広

理屈や条理もまた利用の仕方によるなあ、そんなことを思いました。

一九八〇年の教訓

発想に置ける社会実験小説。私は今の社会より、こちらの社会の方がいいと思う。

秘密兵器

思想実験小説。人間の性質を淡々と描いています。

天国からの脱落

逆説的な幸福追求の物語。人間の性質の矛盾を優しく突きつけられます。

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