<書評>「トライロバレット」 その三葉虫は不条理を超える

書評

「トライロバレット」は日本の小説家、佐藤究さんが2024年に刊行した短編小説です。

私が佐藤さんの小説と出会ったのは、数年前に読んだ「QJKJQ」が最初で、以来、「テスカトリポカ」「Ank: a mirroring ape」「サージウスの死神」と読み進め、先月に本作を読了しました。

とにかく佐藤さんの作品は面白い!

「QJKJQ」の設定と展開に驚き、「テスカトリポカ」の暴力と神の奔流のような物語には脳を揺らぶられ、「Ank」の独自の生命と精神の理論は、今でも私の生命哲学の一部になっています。

そんな佐藤さんの最新の短編なわけで、面白いに決まっているわけですが、今回も無事に、そして痛快に私の精神を爆上げしてくれました。

以下、あらすじ。

アメリカのユタ州の高校に通う主人公の少年17歳の少年バーナム・クロネッカー。彼は幼い時に三葉虫に夢中になり、化石を集めたりしながら穏やかに高校生活を送っている。

しかしそんな平穏な生活は突然崩れ去る。

父親が学校にも貢献している有力者である、人気者のコール・アボットが、ジャガイモを投げてきたり、ロッカーを接着剤で塞いだりなど、様々な嫌がらせをバーナムに開始してきたのだ。

そんななかバーナムはコールから同じく嫌がらせを受けているタキオ・グリーンと友人になる。

日常生活に様々な不条理がバーナムに訪れる中、物語は衝撃の事件へと徐々に歩みを進めていく・・・

という感じの物語になります。

私は最初、本作を手に取った時に、これはカフカの「変身」オマージュかな。そう考えていました。

読み進めていくと、確かにカフカは意識されているようですが、それよりも私はスコセッシ監督のタクシードライバーの方が本作は近いのかもと感じました。

タクシードライバーは、一人暮らしの男が、アメリカの政治への不満、個人の欲求の不満足をこじらせて、どんどん先鋭化していき、ガンギマっていくという、誰もが陥る狂気を顕現させた素晴らしい作品です。

本作においてバーナムくんも、どんどん精神の内側に入り、先鋭化していくわけですが、その大元となるものが不条理です。

いわれなきイジメ、その背後にある人種差別と身分の差別、硬直し欺瞞に溢れている公務員たち、その人たちが作る窮屈な社会、そして人々の精神に大きな傷を残した戦争。

これらがバーナムくんの精神に襲いかかり、三葉虫が好きで穏やかな少年の精神はどんどん先鋭化していくわけです。

いつの世も虐げられしは心優しき者、そして集団と違う者です。もしかしたら古代でも、不条理は地面を穏やかに這っているだけの三葉虫に覆いかぶさってきたのかもしれません。

本作では実はバーナムくんの他にも、複数のタクシードライバーが登場します。ここも面白いところですが、何よりすごいのは、それらの狂気が起こす事件と、それらが合わさった結果、現れる光景です。

私の中での本作の終盤のある光景は、心底痛快であり、脳裏に焼きつき、それを思い出すと自分に力を与えてくれる、大事な精神のピースになっています。

変わったものが好きな事、それは個性であり、誇るべき力。社会が踏みつぶしたと思っても、それは潰されることはない。

私はそんなことを本作を読んで思いました。この記事を読んで気になった人は是非、本作を手に取って欲しいです!

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