サンタに別れを告げ、少年が再び誰もいない家の中に戻ると、さっきまでとは打って変わった、性質の違う嘘のような静けさがそこに佇んでいた。
「あっ、サンタさんにメリークリスマスって、僕一度も言わなかったかも」
少しチクッとするような後悔を左胸あたりに感じつつ、少年は辺りを見回す。
そこにはあちこちに積まれたごみ袋、乱雑に置かれたポテトチップス等の、食べかけの袋があるだけである。
食卓の昆虫図鑑も、開いていたページを閉ざし、擦り切れて色が薄くなった表紙を上に向け、時間が止まった額縁のように、夜の闇の中で能面のように横たわっていた。
カーテンの隙間から、わずかな月の光が誰もいない部屋の床を照らしている。
音といえば、外からわずかに聞こえる枯葉のこすれたような音くらいで、この空間がいま海底にあるのだと言われれば、簡単に信じてしまうなあとすら思う。
そして夜の海底に封印された寂しい部屋は、饐えた残飯の匂いがするのだ。
少年はその匂いに包まれながら、椅子の上で体を丸め込むようにして、そっと目を閉じた。