<書評>「琥珀の夏」 理想と欺瞞、揺れ動く心

書評

「琥珀の夏」は、2023年9月に発売された、辻村深月さんの長編小説です。

かつて夏の間だけ参加したことがある宗教団体「ミライの学校」の敷地内から、白骨死体が見つかったニュースを知った、弁護士の法子の視点と、施設にいた少女、ミカの視点から、30年前の記憶、宗教や行政がそれぞれ抱える欺瞞、大人と子供それぞれの思いを描くことに挑戦した力作です。

そもそも一昨年や昨年にかけて、宗教団体についての事件により、日本には激震が走っていました。

そんな中、ただでさえ複雑で難しい、心と密接に絡んだ宗教という問題に正面から取り組んだ、その志に感銘。

本作で出てくる問題は、どちらが良いとか悪いとか、簡単に割りきれるような問題ではなく、むしろ複雑で割り切れないことをしっかり描いたところが良いのですが、そんな中でも、他の作品にも通ずる辻村深月さんの優しい視点は健在です←私は無条件で辻村さんを信頼してるまである

本作の中心軸である法子もミカが、学校では大人が求める事を自然と演じることが出来て、周りにも優しく出来る、普通の良い子であるところも非常に辻村作品らしいところです。

優しいその子たちが、学校という厳しい環境の中で他者に傷つけられ、その中をもがいていく様は、私も含め、現在のZ世代を含む、多くの人が共有出来ると思います。

そして無意識かつ乱暴に、繊細な感性を踏みつぶす存在への怒りを表現することで、現代社会の大多数である、普通の子のメンタルに寄り添い、救ってくれることこそ辻村作品の魅力です。

また本作の真価は、例え何かしら問題がある宗教団体だとしても、そこが楽しかったり良い思い出がある人の思いはどうしたらいいのかという、もう一歩深い部分に踏み込んでいることです。

さらに行政の側の整備が追い付いていなく、形式的であり、待機児童を受け入れられない中、子供を受け入れていた宗教団体、という対比軸も含め、自分たちが普通だと思っている社会自体も歪んでいるのではないか、という問いかけがあることもすごい。

理想は押し付けてしまえば歪み、また自分たちは普通だと思っている事もまた思考停止に陥る可能性がある。

本作は、その意味で「複雑である」「分からない」という事を正面から描いた非常に真摯な作品であり、そしてその上で作者の愛がそれを包み込むという素晴らしい作品なのだと思います。

辻村深月作品に外れナシ!!

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