<書評>「ホテル・ニューハンプシャー」 痛み・悲哀・喜び、全てが詰まっている一冊

書評

「ホテル・ニューハンプシャー」はアメリカの作家、ジョン・アーヴィングの長編小説です。複雑な感情や欲望を抱えた人の波乱万丈の人生をありのまま描き、物語として圧巻な面白さを誇るアーヴィングの作品は、世界中に熱狂的なファンがいます。

私はかつて近畿から九州を自転車で旅したことがあるのですが、その旅の中で「ガープの世界」というアーヴィングの長編を読みました。

そしてその怒涛の展開と、悲しみと痛み、哀愁に満ちた物語に完全に心を持っていかれ、旅をしばらく中断したという思い出があります←しばらく大分を動けなかったよね笑

それだけアーヴィングの作品は、深く心に刻まれるし、感動もあるわけですが、読むのにエネルギーを使い、魂を持っていかれる為、他作品も全部読まなくてはならないと決意したのはいいものの、しばらく読む機会を持たないでここまで来ました。

そして今回ようやく「ホテル・ニューハンプシャー」を読んだのですが、今回も完全に心を持っていかれてしまいました。

あらすじとしては

ホテルの経営を夢見て奮闘する父と、その家族の物語が、次男のジョンの視点で語られていくというもので、若い頃の父が「アーバスノット・バイ・ザ・シー」というホテルで、大道芸人フロイトと熊と出会い、人生が変わる描写から始まり、その父が家族を持ち廃校になった女子高を「ホテル・ニューハンプシャー」と名付け、ホテル経営に乗り出していく様子など、その後の一家の激動の人生が描かれます。

その中で特に物語の中心になるのは、次男のジョン、長女のフラニー、長男のフランク、いつまでも身長が伸びない低身長症の次女リリーの4人であり、時代の激動による暴力、レイプ、同性愛、近親相姦、立ちこめる死の匂いなど、誇張的とも思えるほど本当に様々なことが起きます。

なので読んでいて確実に痛みを感じますし、辛い部分もあるのですが、語り口や人物にユーモアがあり、また作品の通底には人間に対する慈しみがあるので、時間を忘れてページをめくってしまうのです。

アーヴィングの作品には印象的なフレーズが多々出てくるのですが、本作でもそれは健在で特に「開いた窓の前で立ち止まってはいけない」という言葉は私の人生に深く刻まれました。

本書の読後の印象としては、確実に心に傷を負うのですが、その傷が読了後には自分の人生の慈しみの結晶として深い部分にしっかり刻まれるという感覚です。

個人的に、登場人物の一人の運命に関しては本当にショックであり、その人物の事を恐らくずっと、ふとした時に考え続けるんだろうなと思っています←今考えても泣きそうになる

さらに個人的な話なのですが、私は仙台旅行の移動中に本書を読んでおり、仙台に着く直前に読み終わった為、仙台についてテンションは上がっているはずなのに、心の深い部分はダメージを受けているという二律背反状態になり、しばらくカフェで仮眠を必要としました笑

ただ言えるのは、本作ほど心に残る読書体験は無いと思うので、読んでない人は絶対に読んだ方がいいです。

正直自分の人生の中で本作はトップレベルに心を動かされた物語でした。

今後も、ゆっくりアーヴィング作品を読み続け、いつか全作を読破したいと思います。

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