<かえる劇場>地獄

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それがかえる劇場です。

気楽に見て下さい♪


地獄

ここは地獄の中心地、閻魔堂。

死んだ霊が、ここで閻魔様の審判を受けて、行く先を告げられる。

そして今日もまた一人の男が、審判を下されようとしていた・・・

閻魔様
閻魔様

貴様の生前の行いはすべて見させて頂いた

ここに貴様に、地獄行きを宣告する!!

男

・・・分かりました

閻魔様
閻魔様

では行くがよい!!

男

はあ・・・

てくてく

閻魔様
閻魔様

ちょっと待った!!

男

はい?

閻魔様
閻魔様

そっちは違うぞ

男

えっ

閻魔様
閻魔様

そっちはB1番出口だから違うよ

男

B1・・・

閻魔様
閻魔様

お前が行く地獄は・・・

ちょっと待ってな、えーと・・・

ああ、これだA26番西口方面だな

男

西口・・・

閻魔様
閻魔様

あれ、待ってね

違うかー、それだと逆方向かも

C45番出口北改札前が正解かも

男

あの、しっかりして頂いていいですか

閻魔様
閻魔様

すいません、うーん

私も何せ
「地獄第一都市ニューロサンゼルス」

にきて間もなくてですね

男

めちゃくちゃアメリカ西海岸な名前ですね

僕、日本人なんですけど

閻魔様
閻魔様

そうですか、それなら

「黄泉アウトレット グラン地獄パーク」付近もおすすめですよ
ただこの物件ですと、食事が三食、温泉卵で、基本的に水道からは

ドロドロした硫黄しか出てこないですが、空調は完備・・

男

ニューロサンゼルスでいいです

閻魔様
閻魔様

そうですか・・・

しかし困ったなあ、いつもなら地獄の交通網を熟知してる秘書官が常駐しているんですけど、今日は有給でお休みなんですよね

男

どうしますか?

閻魔様
閻魔様

とりあえず、歩いてみますか

男

そうしますか

閻魔様
閻魔様

えーと、地図的に言うと

ここが閻魔堂だから・・・

男

ここ、それっぽいですね

閻魔様
閻魔様

いや、そっちはZ75324番出口ですからオフィス街に出ちゃいますね

昼下がりのOLじゃあないんですから

男

・・あれ、こっちの階段はどうです

それっぽいですよ

閻魔様
閻魔様

いやそっちはPGT2299出口ですから、地下鉄副都会線ですね

男

それじゃあこっちのエレベーター・・・

閻魔様
閻魔様

いやいや何言ってるんですか

そっちはK91BS出口じゃないですか

高速地獄バスターミナルに出ちゃいますよ

男

・・・

こっちのエスカレーター・・・

閻魔様
閻魔様

いやいやそっちは地獄百貨店・・

男

勘弁してください

閻魔様
閻魔様

どうしたの、声荒げちゃって

男

何でこんな地獄繫栄してるんですか!!
そして出口多すぎ!!

百歩譲って天国が繁栄してるのはいいよ!!

でも地獄はだめでしょう

閻魔様
閻魔様

はあ?

男

まったく響いていない・・・

そもそも地獄っていうのは、荒廃した赤茶けた大地が見渡す限り広がり、その土の上には、いくつもの針の山が連なって、まわりはマグマの海に囲まれている・・・

みたいな感じに相場は決まっているんですよ

閻魔様
閻魔様

ああ、あなたは老害なんですね

男

めっちゃ悪口言われてる

閻魔様
閻魔様

あなたの地獄は50年位前の地獄ですね

議会で「地獄人権法」が可決されて、地獄の民にも生存権が保障されてから

需要が過熱して、企業が積極的に参入したんです
いまや地獄の地価は天国の10倍です

男

とんでもないことになっている・・

あれ、じゃあ天国はどうなってるの?

閻魔様
閻魔様

高い山があるだけの寂れた孤島になってます

男

なんてことだ・・・

閻魔様
閻魔様

今や別荘地も廃墟と化し、乞食になった天使たちがジーパン姿にテンガロンハットで

麻薬を吸いながら暮らしています

男

60年代のアメリカの若者みたいになっちゃってる・・・

あれ?てことは地獄行きって・・

閻魔様
閻魔様

実質的には天国行きですね

男

めちゃくちゃわかりづらいなあ

しかし真面目に公務員してた僕が地獄行きというのがおかしいとは思ってたから

その意味では納得出来たよ

閻魔様
閻魔様

それは良かった

男

あれ、そういえば僕の前の男は天国行きを宣告されていたような・・・

閻魔様
閻魔様

ああ、あの男は世界を騒がせた連続殺人犯ですよ

迷うことなく天国行きですね

男

うーん、言葉と意味がこんがらかって、さっぱり脳みそが働かないぞ

閻魔様
閻魔様

そんなことより、今は出口を探しましょうよ

男

すいません

閻魔様
閻魔様

しかし、地図を見てもさっぱりだなあ

男

ちょっと見ていいですか

閻魔様
閻魔様

どうぞ

男

うわっ、何ですかコレ!!
中央の閻魔堂から無数の線が放射線状に出ている!

そしてめちゃくちゃこんがらがっている!

この線100本以上ありますよ

閻魔様
閻魔様

そうなんですよ

だから一度迷ったら出てこれないんです

ある意味でここが本当の地獄ですね

男

うまいこと言うのやめてもらっていいですか

ていうか何ですか、この列車の種類!!

  • 副都会線
  • 南北マグマ線
  • 市営イシアタマ本線
  • 針灸バランスカー
  • 地鉄登山鉄道
  • 血鉄登山鉄道
  • 地鉄回状線
  • 血鉄廻状線
男

マッサージみたいな、体が整いそうな列車もあるし・・
しかも同じような名前が沢山ありますよ

閻魔様
閻魔様

仕方ないんですよ

地鉄グループと血鉄グループが、いま開発利権を巡って

骨肉の争いをしているんです

男

その結果、迷路みたいになってるのね

死んでなお利権争いするのか、世知辛い世の中だなあ

閻魔様
閻魔様

何だか息が切れてきました

男

まあ、大分歩き回ったからね

閻魔様
閻魔様

もう適当に次の出口で出てしまいませんか

男

すごい、地獄の門番とは思えない発言だ!
でも適当だと迷っちゃうんじゃない?

閻魔様
閻魔様

いや出口を出てしまえばあとは一本道ですから大丈夫です

人間は正しい道を探そうとするから迷うのであって、出口を見定めていれば迷わないものですから

男

なんか名言風な言葉やめてくれる

でも疲れたし、いいかもね

閻魔様
閻魔様

えーと一番近くでよさそうな出口は・・・

男

ここなんかいいじゃん、ここだけ標識が新しくてピカピカだし

えーと、標識にはHE10AZ19出口って書いてあるね

地図で見ると・・・

閻魔様
閻魔様

ちょっと待ってください!

男

何、どうした?

あっ、地図を取り上げられた

閻魔様
閻魔様

調べたら面白くも何ともないでしょう!

分からないから面白いんじゃないですか

男

そんないい笑顔で言われてもなあ

まあ一理あるか・・・

ていうか、あなためちゃくちゃ楽しんでますね

閻魔様
閻魔様

それでは行きましょう

男

・・・

しかしめちゃくちゃ長いエスカレーターですね、横の壁の装飾も豪華だし

閻魔様
閻魔様

あっ、見てください!

天井にステンドグラスがありますよ!

光が差し込んできて、きれいですね

男

修学旅行生みたいなテンションだなあ・・・

おっ、エスカレーター終わった

右に曲がって、うわあまたエスカレーターだよ!

閻魔様
閻魔様

無数の企業の利益と思惑が

地下を舞台に錯綜してますね

男

他人事やめて、あなた仮にも地獄の責任者だからね

閻魔様
閻魔様

あっ、出口が見えてきましたよ

男

本当だ、ここからでもめちゃくちゃ明るいのが分かるなあ

閻魔様
閻魔様

私がお先しますよ!!ほいっ!
ああ、すごいです!

太陽が明るいです!!

男

はしゃいでるなあ・・・

うわっ、本当だ!!

すごい、いい空気・・・・・

・・おや?

閻魔様
閻魔様

どうしました?

男

見渡す限り青い海・・・・・

そして目の前にある巨大な山・・・

そのふもとにある寂れた住宅地・・

閻魔様
閻魔様

なるほど・・・

男

・・・

閻魔様
閻魔様

・・・

男

ここ天国だよね

閻魔様
閻魔様

まごうことなく完璧に天国ですね

男

この年で、麻薬中毒者にはなりたくないから

早く戻りましょう

閻魔様
閻魔様

・・・それは無理です

男

えっ、どういうことです?

閻魔様
閻魔様

天国は地獄の管轄外なので、一度入ると

天国籍に登録されて二度と出れないんです

男

そんなバカな!

あっ、後ろの出口がいつのまにか消えてる

閻魔様
閻魔様

私たちは二度と天国から出られません

男

何してくれてるんですか!?

僕を地獄に帰してくださいよ!!

閻魔様
閻魔様

おや、あちらから足音が聞こえませんか

男

あっ、テンガロンハットをかぶったジーパン姿の天使の集団が麻薬を吸いながらこっちにくる!!
圧倒的な大軍だ

閻魔様
閻魔様

逃げる場所もないですし、喋ってみましょう

話せばきっと分かってもらえます

天使A「ガニュべリアサンクタリアブリューラル」
天使B「アスセテラインポプパプイノリマツルランダ―」

男

ダメだ、もはや完全に別の言語に進化している!!

うわっ、掴まれた

あっ、やめてー、持ち上げないで

閻魔様
閻魔様

はっはっはー、何だか楽しいなあ

男

何でこの状況で楽しめるんですか!?

ちょっと、どこ行くの?

やめてくれーーー







20年後





峻厳な山を登ると、その像の足元に辿り着く。

全て黄金で出来たその像は、山頂からさらに300メートルもの高さを誇り、大地を見下ろしている。

遠くから見ると、その光景は、まるで光の柱が天へ昇ってくようである。

足元の部分から像の内部に入ることが出来る。

像内部には上へ昇るための、螺旋状の石段があり、最上段へたどり着くにはかなりの距離だが、像内部の壁面には階段に沿って、ロマン派や印象派の有名な絵画が等距離でかけられており、昇る人の視線が退屈に染まることは無かった。

最上段の扉を開けると、像の頭頂部に出る。

そこは黄金の柵で囲まれた円形の集会場で、木材を黒く塗った4人用の椅子が半円状に設置されており、その一番奥の祭壇に、この像のモデルになった男が立っている。

そして黒い椅子に腰かける、テンガロンハットにシーパンの集団を優しく見守っている。

そのとき、一瞬の間だけだが太陽の光が増し、黄金の柵に反射、祭壇の男を照らした。

光の方へゆっくり顔を向けたその男は、そこからはまだ遠い太陽を見上げ目を細めた。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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