＜かえる劇場＞地下の仮面

ああ、あまりに退屈で山手線を5周もしてしまった

とはいえそろそろ電車酔いしてきたし駅に下りよう

あれ、適当に下りたら何だか見たことがない駅に着いてしまった

こんにちは

うおっ、いきなりでびっくりした！

こんにちは

あなたは現世に退屈してませんか？

すごいよく分かったね

退屈過ぎてドロドロに溶けそうだよ

それでしたら、これから仮面の地下迷宮にご案内します

仮面の地下迷宮？

ええ、そこのビルの地下に仮面を付けなければ入れない地下の楽園があるんです

うーん、仮面とか地下とか淫靡な響きだなあ

面白そうだし行ってみます

中に入ると皆さんこの仮面を付けています

よく映画の舞踏会とかで見る目元だけ覆うタイプだね

もしあなたが実際見てみて、この地下の迷宮のメンバーになる決心がついたら、この仮面を付けて下さい

分かりました

それでは行きましょう

なかなか長い階段だなあ

迷宮は幾重にも広がっています

おっ、着いたかな真っ黒なドアがある

それではドアを開けましょう

んっ、何か普通っぽい部屋だな

ああっ！！

・・・・・

仮面を付けた子供たちが、何列もの長机を並べて一心不乱に勉強している・・・

仮面夏期講習です

すごい光景だけど、何で仮面をしているのかさっぱり分からない

皆、勉強していることを他人にばれたくないのです

隠れて努力をすることこそ、淫靡な美徳なのです

家で一人で勉強すればいいのに

でも仮面の男女が一堂に会しているわけだから、何かしらのロマンスが生まれそうですね

いえ、このフロアは異性に触れあうこと、喋ることは完全禁止です

今時のアイドルよりも厳しい制限！

さて次のフロアに参りましょう

あっ教室の奥にまたドアがある

ドアを開けます

！！

・・・・・

仮面を付けた男女が、街角にひっそり佇む人気ラーメン店に並んでいる

仮面ラーメン　環七通り二号店です

すごい絵だが、やはり仮面の意味が分からない

食欲という淫靡な本能は仮面で隠すことにより、より浮き上がってきます

それっぽいこと言ってるようで、意味不明だ

とりあえず並びましょうか

無事に店の中に入りラーメンが出てきた

伸びちゃいますから、早く食べましょう

うん、ラーメンはとても美味しいな

スープも飲み干してください

えっ、まあ美味しいからいいか

飲もう

・・・・・

！！

器の底に、豚骨スープでどろどろになった仮面が出てきた

表層意識というスープを飲み干すことにより、新しい仮面が器から浮かび上がってくるんです

僕は豚骨と仮面のダブルスープのラーメンを食べていたのか

さあさあ、次のドアに行きましょう

全然気持ちの整理が追い付かないけど、行くか・・・

おやここは日本庭園かな

着物姿の仮面の男女が沢山いる

皆さん短冊を持っているでしょう

本当だ

和歌を詠む会なのかしら

中央の着物の女性が一句読みそうですね

ちょっと聞いてみようか

そうですね

・・・歌を詠んだ途端に謎のピー音が声をかき消した

これぞ仮面歌会の醍醐味です

次の男性の歌もピー音てかき消されている

その人が読んだ歌は、ピー音という耳の仮面により隠されて誰も聞くことが出来ないのです

想像力が掻き立てられる淫靡な歌会です

・・・短冊をのぞき込んでやる

無駄です

最新の科学技術により、本人が眺める角度以外は光が反射して真っ黒にしか見えません

・・・おや奥の方に神社があるね

！！

・・・・・

フルフェイスマスクのスーツ姿の人たちが、神社の前で物凄い行列を作っている

仮面初詣ですね

もはや軍隊とか特殊部隊にしか見えない

顔と姿を隠した何人もの人たちが、神に願いを捧げるわけですが、神は誰の願いだかまるで分かりません

隠された願いをただ聞くだけという輝き、実に淫靡ですね

神様に対する最強のいやがらせだな

さあ次のドアを開きましょう

・・・ここは普通の部屋の中っぽいな

奥の部屋の長椅子に仮面の男女が座っていて、その前に背広姿の男性が立っている

仮面不動産説明会です

背広姿の男性の説明に容赦ない罵声が浴びせかけられている

マンションの購入条件や設備の不満に対し、各々が本能のまま怒りを発していますね

仮面を付けると、人は自分がどう見えるかを気にしなくなります

これぞ獣の本性の開放です

・・・もう次のドアに行きましょう

はい、それではどうぞ

あれっ、この赤絨毯が敷かれているシックな廊下はどこかでみたことあるな

ここは国会の中です

あれ、あの部屋は何だろう？

！！

・・・・・

仮面姿の偉そうな男女が椅子に深く腰掛けて、正方形に並んでいる

仮面内閣の仮面閣議です

仮面で政治をして大丈夫なのか

何を言ってるんですか、彼らは官僚が作った書類にハンコを押すだけなのですから、仮面をつけていても誰であろうと何も関係ないのです

そしてたとえ庶民に後ろめたいことがあっても、仮面をしているわけですから良心は傷つかないのです

ある意味彼らが一番淫靡に仮面を使いこなしているかもしれません

・・・・・

さて、これが地下の仮面迷宮です

お気に召しましたか

楽しかったけど仮面はこりごりかな

帰るから外に出してくれ

それは無理ですね

どういうことだ

この手鏡で自分の顔を見て下さい

！！

僕の顔にいつの間に仮面が引っ付いている

・・・・・

えっ、仮面をとってもとっても顔が出てこない

まるで仮面のマトリョーシカだ

本当の顔は二度と出てきませんよ

というよりそもそもあなたに本当の顔なんて無かったのです

何を言ってるんだ

人間の顔なんて、感情や意識の仮面の何層もの積み重ね

本当の顔を持っている人なんて誰も居ないのです

そんなことない僕には僕の顔があったはずだ

なら仮面を取り続けてみなさい

くっ、剥いでも剥いでもまた仮面だ

くっくっく

もう認めてしまったら？

あなたなんてものはただの仮面の積み重ねに過ぎないということを

嫌だ、僕には僕の顔があるはずだ

えいっえいっえいっ

くっくっく

馬鹿な男、それならそこで一生自分の仮面を剥ぎ続ければいいわ

くっ、ダメだ

剥いでも剥いでも仮面ばかりだ

うううっ

誰か助けてくれええええええ