<かえる劇場>タピオカ

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇です。

気楽に見てください♪

タピオカ

男

駅前のタピオカミルクティーの専門店でミルクティーを買ってしまった

黒い真珠みたいな大粒のタピオカが沢山入ってて美味しそうだ

女

・・・・・・

男

何か、あの人めっちゃ見てくるなあ・・・

まあいいや、とりあえず公園にベンチがあったから、そこで飲もう

女

・・・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・

男

さて公園に着いたぞ

いい天気でタピオカ日和だ

さっそく飲もう

女

・・・・・・

男

あの人まだいる・・・

後を付けてきたのか

女

・・・あの

男

はっ、はい!

なんでしょうか

女

返してもらえませんか?

男

えーと、何をでしょうか?

女

私の卵を返してください

男

・・・あの、卵など持っていないんですが

女

あなたのその手に持っているものが私の卵なのです

男

いいえ、これはタピオカです

女

・・・少々長い話になりますがよろしいですか?

男

正直嫌ですけど、聞かないともっと恐ろしいことになりそうなので、一応聞きます

女

あなたのその手に持ってるカップの中の黒い玉は私の卵で、正確な名称はTOKP89315722番変異体で、惑星ダロンというところから飛来した地球外生命体なのです

男

・・・今帰ってもいいんですが、一応最後まで聞いてあげます

女

なるほど、やはりお信じになられないようですね

あなたはおかしいと思いませんでしたか、たかが芋からとったデンプンを丸めて作った小さいお団子のようなものがいきなり流行ったことに対して

男

何かそういわれると、変なブームだった気はするなあ

女

そうでしょう

そしてあんなに流行ったのにも関わらず、ブームが引くときの速さはNURO光なみの速さだった

そうですよね

男

確かに

あのスピードはポケットwi-fiとかでは出ない速さだった・・・

女

理由は簡単です

まず惑星ダロンでは、気候に優れている地球に対し、卵を送り込み人体に寄生させ操る侵略計画が可決されました

この黒い卵は人類に捕食されたのち、一定時間を過ぎると孵化し宿主を食い殺すのです

そしてこの卵こそ、あなたたちがタピオカと呼んでいる物に他なりません

男

えっ、じゃあ人類は絶滅するの?

女

話を最後まで聞いてください

惑星ダロンの思念エネルギーによる力で地球ではタピオカブームが到来しました

しかしこのプロジェクトには重大な欠陥がありました

寿命の差を考慮に入れていなかったのです

ダロン星人は寿命が1万年、人類はすごく長生きでも100歳です

男

人間は90歳でも十分長生きだからね

女

そしてこの黒い卵は潜伏後500年後に孵化するのです

しかし孵化する前に人類は寿命で死ぬのです

男

うーん、なんという詰めの甘い計画なんだ

女

5000兆円の予算が全て水の泡になりました

男

その泡だけで海面を全て覆えそうなほどの無駄遣いだね

女

なので、計画はすぐに中止されたのです

そして思念エネルギーによる操作も中止

その瞬間にブームは消え去りました

男

・・・なるほど

確かにお話としては面白いですね

映画だったらお金に余裕があるときなら、まあ見るレベルです

女

なんだか含んだような言い回しですね

男

しかし、あなたの発言で疑問なのは、なんでタピオカに似せた卵にしたかということです
もっと小さいイクラとか、他にも色んな選択肢があったはずではないですか

女

そんなことですか

男

必然性の根拠に欠けます

女

あのー

基本的に地球にある卵はほとんどが侵略者ですよ

男

えっ!

女

たまごはしんりゃくしゃです

男

ゆっくり子供に言うように言うのはやめて下さい

どういうことですか

女

まずあなたが言ったイクラですが、あれも違う星域からの侵略者です

男

しかし人類はイクラと仲良く歴史を歩んでいますよ

女

いえ、イクラを食べ続けると普通なら耐えきれない痛みが走る仕組みになっているのです

しかし人類があまりに痛みに強かったため、侵略は失敗に終わりました

男

痛風は侵略の被害だったのか

女

あと、たまごっちも侵略者ですね

男

いやあれは「者」ではなくて「物」ですよ

女

宇宙に機械も人も区別などあるもんですか

あれは確か地球と共存繁栄を望むタイプの宇宙人が相互理解促進のため、自分たちの子供時代のルックスを人間に育ててもらい、抵抗感をなくしてから地球と相互提携を結ぼうという目的で流行らせたものだと聞いてます

男

なんて平和なプラン

ていうことはリアルにたまごっちみたいな宇宙人がいるんだね

女

正確には「いた」ですね

男

えっ、なに

何かあったの

女

私たちが滅ぼしました

男

このタピオカ野郎!
なんてひどいことをしてくれたんだ

女

宇宙は弱肉強食なのですよ
あとカマキリですが

男

えっカマキリ?

女

卵から異常な量の子供が孵化しますよね

あれなんかはまさに侵略です

男

確かにとんでもない量ではあるけど・・

女

カマキリのフォルムを見て下さい、あのカマに鋭い目つき!
あれは宇宙でも有名な殺し屋グループなんです

男

そういわれると、あんなに凶暴なフォルムの生物はいない気もするなあ

女

しかし、彼らには誤算がありました

それはサイズです

人類は彼らより圧倒的に巨大でした
画像で人間を見たカマキリたちは、ぬぼーっとした木偶の坊みたいな形に油断して、サイズを測るのを怠ったのです

男

うーん、侵略者ってバカばかりなのかな

女

結果、彼らは捕食者から、割と捕食されがちな生物に大幅にランクダウンしてしまいました

男

その流れでいうと、もしかしておたまじゃくしとかって・・・

女

かえるの卵から出てきた子供です

男

あっ、そこは普通なんですね

女

かえるのことを馬鹿にしないでください

男

うーん、良く分からない、かえる愛だ

女

話はここまでです

ですから私の卵たちを返してください

男

待ってください

そもそもあなたは何者なんですか

女

あっ、これは申し遅れました

私は惑星ダロンの第一皇女、タピ・オカカ姫です

男

おかか・・・

女

私は王家の中でも抜きに出た力を持っていたので、今回の計画に力を貸し、卵を産む役割を担ったのです

男

えっ、じゃあ日本にあるタピオカは全部、あなたが産んだんですか

女

いえ、私は5割ほどで、あとの5割は民間の協力により補いました

男

なるほど、しかし半数はあなたの卵なわけですね

しかし、ほとんどの卵はもう食べられてるのに、何で僕のタピオカにこだわるんですか

女

あなたのタピオカが私が最初に産んだ「マザータピオカル」だからです

男

マザークリスタルみたいに言わないでください

何か特別な力があるんですか

女

いえ、最初の子供に対する思い入れだけです

男

じゃあマザータピオカルっていうのやめて

なんかとんでもないエネルギー秘めてそうな感じ出ちゃうから

女

とにかく返してください

男

うーん、しかし

タピオカの口になっちゃってるからなあ

何か僕にスイーツおごってくれませんか

女

あいにく私は一文無しの穀潰しです

男

堂々ということではないですよ

えー、じゃあお金払った僕の損になるじゃないですか

女

いい加減にしないと、そろそろ私の堪忍袋の緒が切れますよ

男

いきなり穏やかじゃないフレーズ!
堪忍袋の緒が切れた所でタピオカ星人に何が出来るんですか

女

ふっ

男

何だ

不気味な笑いだな

女

少し目を閉じてください

男

んっ、何々

あっ、いきなり瞼の裏にスクリーンが浮かんできた

そして目を開けようと思っても開かない

女

それでは今から、もし私に従わない場合、何が起きるかということをシュミレーションでお見せしましょう

男

あっ、これは駅前の八百屋さんだ

手にリンゴを持ってる・・・

あっ、りんごが徐々にぶよぶよした透明なデンプン団子みたいになっていく

女

よく見て下さい

スイカも桃も、丸いものは全てタピオカ化します

男

何て恐ろしい能力なんだ

女

申し遅れました

私はタピ・オカカ姫

そしてまたの名を「流転者」

巷では「全ての物質をタピオカに還す者」と言われています

男

さすがは王家の血筋!
とんでもない能力だ

女

まだまだ行きますよ

男

はっ、公園の水道からぽこぽこぽこぽこ次々にタピオカが生まれていく

女

丸いものや液体は全てタピオカに変えることができるのが私の能力なのです

男

あっ、ドラえもんの顔が浮かんできた
ああっ!ドラえもんの顔が徐々にぶよぶよのタピオカに・・・

これじゃあ、タピえもんだ

女

ふっ、こんなのはどうです

男

あっ、オリンピックのロゴだ

ああ、五つの輪の端の方から、どんどんタピオカリングになっていく
これではタピリンピックだ

女

こんなことも出来るんですよ

男

あれ、あれはミスチルだよね

えっ、4人ともタピオカになっていくんだけど

これは円とか丸とか関係ないのでは

女

イノセント輪ールド

男

言葉や概念からもタピオカ出来るなんて、もはや無法地帯じゃないか

女

そしてこれが最後の仕上げです

男

あっ、僕は宇宙にいるのか・・・

ああっ、地球が・・地球が・・

巨大なタピオカになっている

女

お分かりいただいたかしら

こうなりたくないのなら、さっさと私にタピオカを返しなさい

男

・・・・・

女

!!
何だか体をまとうオーラが変わった

男

スッ

女

私が許可していないのに勝手に目が開いた!!

男

私はイメージの中で、本当の地球のタピオカ芋である「キャッサバ」の声を聞いたのだ

この偽タピオカ使いめ、よくも本当のタピオカを侮辱してくれたな

女

この男に地球本来のタピオカの意志が乗り移っている!!

男

いくら芋の成分を模倣しても、貴様ら宇宙人には地球の芋の本当の部分は真似できないのだ

女

ふん、何を言う

成分が一緒であれば、そこに本物もニセモノもないじゃないか

男

よく見ておけ

女

何だ、両手を天に掲げた!

男

全ての地球上のタピオカよ!

オラにほんの少し力を分けてくれ!!!

女

はっ、手の上空に巨大な玉が出来ていく

あれは・・タピオカ?
しかもどんどん大きくなっていく

男

くらえー!!

これが地球の大地の全ての力だああああ!!!!

女

はっ、許して・・・・

うぎゃあああああーーーー

ズウウウン
・・・・・
・・・・・

男

しまった大地が巨大なクレーターになってしまったか

ん?あれは、まさか

女

ふう、やりますね

正直私は地球をなめていましたよ

男

何てタフな奴だ

まだやる気か

女

いえ、私は決めました

今後地球に一切手出しをしないと

男

どういう風の吹き回しだ

女

さっきのタピオカ玉を全身に受けて感じたのです

大地を思う気持ちや強さはダロン星人も地球も変わらないのだと

私は、私の卵たちとともに故郷を緑あふれる星にします

男

そうか、良かった

それでは卵は全て返そう

手荒な真似をしてすまなかったな

さて、そろそろこの肉体の意識を少年に戻さないとな

女

その前に、この卵の一つを受け取ってください

きっと後に地球とダロン星の架け橋になります

男

分かった

しかし私は「地球の精神体」みたいなもので肉体がないのだ

なのでこの男の肉体に卵を入れてやってくれ

女

分かりました

それでは、いつかまた会う日まで

男

ああ、ではまたな

・・・・・・

・・・・・・

男

・・・・・

あれ、ここはどこだろう?

えーと、さっきタピオカ買って、変な女の人が・・・

男

あれでも駅だな、ここ

男

・・・うん、夢でもみてたんだろうな

あっ、電車がもう出る

急がないと


その後、この少年はなぜか指先からタピオカが出るようになったことに気付いたが、それについて特に悩むこともなく成長した。

そして現在では、NGOで世界の環境問題の改善や、恵まれない子供たちの為に、時々タピオカを指先から出しながら働いている。

<完>

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