「ドグラ・マグラ」は日本の文豪、夢野久作さんの長編小説で、日本三大奇書の中の一冊としても有名な作品です。
私は大学生の時に本作に一回挑戦したのですが、冒頭だけ読み、なんとなくその後を読まないでいて、いつの間にか本棚から消えている・・・というような経緯で、その時に読了は出来ませんでした。
しかし、その時も別段読みにくいとは感じず、さらに私はソローキン作品の様なクセの強い作品を読んで来た経験があります。ゆえに今なら間違いなく読了出来る、そう思い本作に挑戦し、無事読了しました。
本作は読了したら、一度は精神に異常をきたす。そう言われている作品ですが、今の所僕は異常をきたしていません笑←あくまで私の主観ですが
さて本作が読みにくいとか、奇書とか言われているのは、その幻想的な内容に加え、本書の中に「胎児の夢」「脳髄論」の様な、論文のような文章がいくつも挟まれていることです。
その一つ一つの内容は興味深いのですが、小説のリズムとは違うため、普通の物語を期待している人には読みにくく感じさせてしまいます。
あらすじとしては、九州帝国大学医学部精神病科の独房の中で目覚めた「わたし」が、目の前に現れた若林鏡太郎という教授や、「狂人の解放治療」なる計画の発起人たる、精神病科の正木敬之教授と話していきながら、過去に発生したいくつかの事件の真相や、自身の正体に迫っていく、という幻想的なミステリーとなっています。
本作が描くのは、遺伝や歪んだ性的趣向など、人間精神の闇の部分であり、それを裏打ちするような人間の意識や脳などの哲学的な知見なども面白く、静寂の中で、深く黒くじんわりと広がっていくような雰囲気は、本作でしか味わえないものであると思います。
私は夢野さんの作品は、「少女地獄」「女坑主」を読んだのですが、夢野さんの作品には、暗い人間の欲望を見つめる虚無的な視点というのが非常に強いと感じています。
その虚無的な景色の感覚を、ある種、狂信的に愛していたのが夢野さんであり、それが夢野作品のパワーであるように思うのです。
本作は、果たして何が真実で、どこの時間に「わたし」が居るのかさえ幻想的な環のようにぼやけています。しかしそれこそが本作の魅力であり、そこにどういう精神や物語を見るのかは読者の人生観に委ねられています。
本作は、人間の狂気や歪みを扱っているので、なかなか手が出しにくいという人もいると思います。しかし、本作から得られるものは毒にしても薬にしても沢山あり、間違いなく人間存在の理解を深めてくれる作品であることは間違いないと思います。
どこかで本ブログにおいても、しっかりした考察を上げていきたい。そんなことを思うほど、魅力のある怪しくきらめくような作品でありました。