<かえる劇場>宇宙

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい。

宇宙

西暦2560年

人類は、火星、水星、土星等、太陽系の惑星のほとんどを人が住める環境に開発。

残すところは、辺境の惑星Zだけとなっていた。

そして今日、二人の宇宙飛行士がそこに到達しようとしている。

男

ふう、ようやく惑星Zが見えてきたな

女

ええ

男

あと10分後には突入態勢に入る

女

実はあなたに言いたいことがあるの

男

ん?なんだい

女

あなた、私の同期の貴子と浮気してるわよね

男

・・・・・

女

どうなの?

男

うーん

女

早く言いなさいよ

男

それ、今言うことかな

女

早く言いなさいよ!!

男

いやいや、落ち着いてくれたまえ
いいかい、僕たちは今人類の可能性の大きな一歩を踏み出すところだ
いま個人の恋愛沙汰は一回置いとかないかい

女

私の中の私が、宇宙よりも個を優先しろと叫んでいるのよ

男

個としての自我が強いなあ

女

証拠は全て揃ってるのよ

あなたは2300年に成立した、地球倫理委員会によって不貞行為罪により裁かれ

宇宙飛行士という職業も失うのよ

男

くっくっく
はーはっはっは

女

何、一体何がおかしいというの?

男

ふっ、君の様子がおかしいということはとうに気付いていたのさ

女

何!?

男

実は君には言ってなかったが、人類は惑星Zに1か月前に到達している
そして、惑星Zの臨時政府法は、不貞行為に対する規定がない

よってこの惑星Z空域では僕は何もとがめられることはないのさ

女

くっ、道理で同僚たちの見送りが、何か旅行行ってくるときの感覚だったわけだわ

男

地球に戻る前に、浮気を告発したことが運の尽きだな

女

・・・ふっふっふ

はーっはっはっは

男

何!?

女

ちゃんちゃら、おめでたい男ね

男

どういうことだ

女

あなた、本当にここが惑星Z空域だと思ってるの

男

何だと、はっ

座標軸が僕が設定したのと、まるで違う

女

あなた1か月前に、惑星Zに到着したって言ったわよね

それ、私なのよ

男

何だと!?

女

正確に言うと、私とバーンズ艦長ね

男

な!?俺の同期のライバルじゃないか

まさかお前

女

ええ、もちろんそういう関係よ

男

なんてやつだ

女

いま私たちがいるのは、土星空域よ
そして土星民法では、最初に不貞行為を始めた方が重罪になる

男

なんてことだ

女

ふっ、なんて無様なのかしら

宇宙の辺境へ到達した名誉も得られなかっただけでなく

ここで職すら失うなんて

男

・・・くっくっく

はーっはっはっ

女

何!?

男

ふん、この女狐が!
とうとう正体を現したな

女

どういうことなの

男

お前とバーンズの関係があやしいのはとうに知っていたさ

そして、この計画もすんなり僕に決まった
そして僕は保険をかけていた

女

保険?

男

外を見てごらん

女

・・・えっ
ここは木星域!?

男

もし、惑星Zではなく違う惑星域についた場合

自動的に木星にワープするようにしといたのさ

そして木星は女性の方が社会的に強い

ゆえに木星民法では、女性の不貞行為の方が重罪になる

女

なんて人なの

男

お前は二度とバーンズに抱かれることなく、木星の法に裁かれるのだ

女

・・・ふっふっふ

はーっはっはっは

男

何!?

女

認めるわ

まさかあなたがここまで計算出来る男だとは思ってなかった

男

どういうことだ

女

外をみてごらんなさい

男

何!?

あれっ、いつの間にか水星空域になってる

女

知ってた、私実は木星に住んでいたことがあるの

男

それがどうした

女

住んでたとき、どうしても食べ物の感じが合わなくて

すぐに引っ越したの

男

それがなんだというんだ

女

だから私は、自分が乗る宇宙船には、緊急避難の時にもし木星に着陸するようになったら

自動的に水星域へワープするように設定してあるのよ

食べ物が合わないのは嫌だからね

男

なんてことだ

女

焦ったけど、神は私に味方したようね

水星民法では男性の不貞行為はかなりの重罰

さすがに無期懲役はかわいそうだから、私に土下座すれば10年ぐらいで刑務所から出れるように頼んであげてもいいわ

男

・・・ふっふっふ

女

何、その含み笑いは

男

いや、君は今までこの宇宙船が何回ワープしたか数えたか

女

えーと、地球を出て、3回と

そのあと、2回だから・・・

5回・・・はっ!?

男

そうだ、宇宙民法「ワープ規定」

女

なんてことなの

男

地球政府は、ワープが5回以上の長期宇宙任務の場合

独自の宇宙船法を作ることを認めている

そして今、この宇宙船の艦長は僕だ

立法権はぼくにある

女

くっ!?

男

どうする、いま僕に泣いて謝れば
刑務所行きだけは許してやるぞ

女

・・・にやり

男

何だ、何を笑っている

女

あなた、これを良く見てみなさい

男

何だ、バッジか

えっ、まさか

女

そう宇宙弁護士のバッジよ

男

なんだと!?

女

私は学生時代に宇宙弁護士の資格を取っていたのよ

そして、宇宙船法の作成は艦長よりも、宇宙弁護士の方が優先されるわ

男

くっ!?

女

あぶないところだったけど私の勝ちね

涙を流して、手をついて謝れば刑務所の期間を短くしてあげてもいいわよ

男

・・・ふう

仕方ないか

女

観念したようね

男

君、僕の父親が誰か知ってるかい

女

知らないし、今となっては興味もないわ

男

僕の父親は、惑星地球立法委員会の代表なんだ

女

えっ

男

僕が頼めば、一人の宇宙弁護士の資格を取り消すなんて造作もないことなんだ

これは奥の手だから使いたくなかったんだけどね

女

くっ!?
なんて人なの

ゴゴゴゴゴゴゴ

男

んっ、何か変な音がするな

女

本当ね

ああ、揺れる!!

男

何だ、はっ!!

女

どうしたの!?

男

短期間のワープで、メインシステムが混乱してる

何だ、意味不明な座標軸が展開されてる

女

うわっ、まぶしい

とてつもない光の量だわ

男

目をつぶれ

とにかくワープが終わるまでじっとしていよう

ゴゴゴゴ
ギュイーン!!!


・・・・・・

男

・・・静かになった

女

ワープが終わったようね

男

うーん、座標軸を見る限り、僕たちは違う銀河系にきてしまったようだな

女

そのようね

男

そしてあまりにエネルギーを使い過ぎて

もうワープは出来ない

女

どこかに不時着するしかないわね

男

ああ


二人は近くの惑星に不時着した。

そこには幸い食べ物と空気、水等生きるための最低限のものはあった。

女

ふう、食べ物はあってラッキーだったけど

私たちはもう帰れないのね・・・

男

元気出してくれよ

君の好きな果物を沢山取ってきたんだ

女

・・・ありがとう

あなた・・・ぎゅっ

男

ぎゅっ

これから二人で協力して、素敵な楽園を築いていこうな

女

ええ

私とあなたならきっと出来るわ


こうして二人は、新しい惑星のアダムとイヴになった。

そして二人の不貞行為と、宇宙を巡る法の争いは歴史から完全に抹消されたのだった。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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