何だかよく分からない不条理な会話劇。
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい。
宇宙
西暦2560年
人類は、火星、水星、土星等、太陽系の惑星のほとんどを人が住める環境に開発。
残すところは、辺境の惑星Zだけとなっていた。
そして今日、二人の宇宙飛行士がそこに到達しようとしている。
ふう、ようやく惑星Zが見えてきたな
ええ
あと10分後には突入態勢に入る
実はあなたに言いたいことがあるの
ん?なんだい
あなた、私の同期の貴子と浮気してるわよね
・・・・・
どうなの?
うーん
早く言いなさいよ
それ、今言うことかな
早く言いなさいよ!!
いやいや、落ち着いてくれたまえ
いいかい、僕たちは今人類の可能性の大きな一歩を踏み出すところだ
いま個人の恋愛沙汰は一回置いとかないかい
私の中の私が、宇宙よりも個を優先しろと叫んでいるのよ
個としての自我が強いなあ
証拠は全て揃ってるのよ
あなたは2300年に成立した、地球倫理委員会によって不貞行為罪により裁かれ
宇宙飛行士という職業も失うのよ
くっくっく
はーはっはっは
何、一体何がおかしいというの?
ふっ、君の様子がおかしいということはとうに気付いていたのさ
何!?
実は君には言ってなかったが、人類は惑星Zに1か月前に到達している
そして、惑星Zの臨時政府法は、不貞行為に対する規定がない
よってこの惑星Z空域では僕は何もとがめられることはないのさ
くっ、道理で同僚たちの見送りが、何か旅行行ってくるときの感覚だったわけだわ
地球に戻る前に、浮気を告発したことが運の尽きだな
・・・ふっふっふ
はーっはっはっは
何!?
ちゃんちゃら、おめでたい男ね
どういうことだ
あなた、本当にここが惑星Z空域だと思ってるの
何だと、はっ
座標軸が僕が設定したのと、まるで違う
あなた1か月前に、惑星Zに到着したって言ったわよね
それ、私なのよ
何だと!?
正確に言うと、私とバーンズ艦長ね
な!?俺の同期のライバルじゃないか
まさかお前
ええ、もちろんそういう関係よ
なんてやつだ
いま私たちがいるのは、土星空域よ
そして土星民法では、最初に不貞行為を始めた方が重罪になる
なんてことだ
ふっ、なんて無様なのかしら
宇宙の辺境へ到達した名誉も得られなかっただけでなく
ここで職すら失うなんて
・・・くっくっく
はーっはっはっ
何!?
ふん、この女狐が!
とうとう正体を現したな
どういうことなの
お前とバーンズの関係があやしいのはとうに知っていたさ
そして、この計画もすんなり僕に決まった
そして僕は保険をかけていた
保険?
外を見てごらん
・・・えっ
ここは木星域!?
もし、惑星Zではなく違う惑星域についた場合
自動的に木星にワープするようにしといたのさ
そして木星は女性の方が社会的に強い
ゆえに木星民法では、女性の不貞行為の方が重罪になる
なんて人なの
お前は二度とバーンズに抱かれることなく、木星の法に裁かれるのだ
・・・ふっふっふ
はーっはっはっは
何!?
認めるわ
まさかあなたがここまで計算出来る男だとは思ってなかった
どういうことだ
外をみてごらんなさい
何!?
あれっ、いつの間にか水星空域になってる
知ってた、私実は木星に住んでいたことがあるの
それがどうした
住んでたとき、どうしても食べ物の感じが合わなくて
すぐに引っ越したの
それがなんだというんだ
だから私は、自分が乗る宇宙船には、緊急避難の時にもし木星に着陸するようになったら
自動的に水星域へワープするように設定してあるのよ
食べ物が合わないのは嫌だからね
なんてことだ
焦ったけど、神は私に味方したようね
水星民法では男性の不貞行為はかなりの重罰
さすがに無期懲役はかわいそうだから、私に土下座すれば10年ぐらいで刑務所から出れるように頼んであげてもいいわ
・・・ふっふっふ
何、その含み笑いは
いや、君は今までこの宇宙船が何回ワープしたか数えたか
えーと、地球を出て、3回と
そのあと、2回だから・・・
5回・・・はっ!?
そうだ、宇宙民法「ワープ規定」
なんてことなの
地球政府は、ワープが5回以上の長期宇宙任務の場合
独自の宇宙船法を作ることを認めている
そして今、この宇宙船の艦長は僕だ
立法権はぼくにある
くっ!?
どうする、いま僕に泣いて謝れば
刑務所行きだけは許してやるぞ
・・・にやり
何だ、何を笑っている
あなた、これを良く見てみなさい
何だ、バッジか
えっ、まさか
そう宇宙弁護士のバッジよ
なんだと!?
私は学生時代に宇宙弁護士の資格を取っていたのよ
そして、宇宙船法の作成は艦長よりも、宇宙弁護士の方が優先されるわ
くっ!?
あぶないところだったけど私の勝ちね
涙を流して、手をついて謝れば刑務所の期間を短くしてあげてもいいわよ
・・・ふう
仕方ないか
観念したようね
君、僕の父親が誰か知ってるかい
知らないし、今となっては興味もないわ
僕の父親は、惑星地球立法委員会の代表なんだ
えっ
僕が頼めば、一人の宇宙弁護士の資格を取り消すなんて造作もないことなんだ
これは奥の手だから使いたくなかったんだけどね
くっ!?
なんて人なの
ゴゴゴゴゴゴゴ
んっ、何か変な音がするな
本当ね
ああ、揺れる!!
何だ、はっ!!
どうしたの!?
短期間のワープで、メインシステムが混乱してる
何だ、意味不明な座標軸が展開されてる
うわっ、まぶしい
とてつもない光の量だわ
目をつぶれ
とにかくワープが終わるまでじっとしていよう
ゴゴゴゴ
ギュイーン!!!
・・・・・・
・・・静かになった
ワープが終わったようね
うーん、座標軸を見る限り、僕たちは違う銀河系にきてしまったようだな
そのようね
そしてあまりにエネルギーを使い過ぎて
もうワープは出来ない
どこかに不時着するしかないわね
ああ
二人は近くの惑星に不時着した。
そこには幸い食べ物と空気、水等生きるための最低限のものはあった。
ふう、食べ物はあってラッキーだったけど
私たちはもう帰れないのね・・・
元気出してくれよ
君の好きな果物を沢山取ってきたんだ
・・・ありがとう
あなた・・・ぎゅっ
ぎゅっ
これから二人で協力して、素敵な楽園を築いていこうな
ええ
私とあなたならきっと出来るわ
こうして二人は、新しい惑星のアダムとイヴになった。
そして二人の不貞行為と、宇宙を巡る法の争いは歴史から完全に抹消されたのだった。
<完>