台湾の作家・呉 明益さんの「歩道橋の魔術師」を読み終えました。
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台湾文学を初めて読んだけど、その質の高さに脱帽しています。
私は旅行が好きですが、本書を読むまでは正直、「台湾は別にあえて行かなくていいかな」位の認識でした。
アジアならタイとかカンボジアとかに行きたいし、台湾は何だか近すぎて中途半端。そんな感覚が常に自分の中にあったのですが、その感覚は完全にひっくり返りました。
本書は、1961年から1992年まで台北市に存在した商業施設、中華商場に住む人々の生活を描いた、連作短編集です。
三階建ての棟が八棟、南北に並び、そこを繋ぐ歩道橋には露天商が沢山並んでおり、商場の人の大きな流れを作っている・・・
そこにいる立ち襟ジャケットと汚いジャンプブーツを履いている、1時間に一度マジックをする魔術師と呼ばれる男性を軸に、そこで暮す、もしくは暮らしていた人の過去や現在の生活がノスタルジックに描かれているのが本作です。
そんな本作の凄さは、その光景や匂いまでも浮かぶような情景の描写につきます。
ページをめくっていくにつれて、どんどん自分がその商場を知っているかのような感覚に誘われていき、気付けば行った事が無いのに商場の光景が大好きになっています。
そこに魔術師の幻想的な描写や言動が、絶妙に差し込まれるので、ある種の中毒性があるノスタルジーの霧の中に迷い込んだような感覚に陥るのです。
また本作は主に1980年代くらいの商場の暮らしが描かれるのですが、その時代特有の、衛生観念や秩序が未整備であり、命が今よりも簡単に失われてしまい、無力で砂が流れていくような感じもまた、本作の魅力を何倍にも高めているように思います。
特に僕は「光は流れる水のように」という短編が、人生の中でトップレベルに大好きで、大事な光景を与えてくれた作品になりました。
本作は読んだ後も、常に自分の中に何かしらの風景の残滓みたいなものが残り続ける様な、とても後を引く作品です。
読んで見て損はないと思うので、気になったら是非読んで欲しいです。
(私はどこかで絶対に台湾に行きます)