あんまり書くのは気が進まないけども、本ブログにてVIVANTの内容についてを、完結前に好意的に取り上げていたので、一応、最終回が終わり、総じてどうだったのかを述べたいと思います。
本作の良かったところは、壮大なアドベンチャードラマに挑戦してくれたことです。
日曜劇場や最近のドラマは、中小企業の逆転劇や、医療や警察モノなど、定番ジャンルものが多い中、海外ロケも多く、作劇内の自由度の高さが、さながらRPGのようなドラマを毎週観劇出来たことは、感謝しかありません。
また、ネット社会において、個人個人の趣味嗜好が拡大・分散している中で、皆が乗っかって話題に出来るムーブベントを起こした事も、非常に素晴らしいなあと個人的に感じました。
さながらライブのように、人を引っ張っていく展開の勢いも、ドラマの新しい可能性を引き出してくれたように感じます。
そんなわけで本来なら、ここでブログを終えたいところですが、とはいえ最終回の内容は、「さすがに好意的に紹介したまま終えることは出来ないなあ」と感じたので、以下、内容についての感想を書きます。
私は「鎌倉殿の13人」の時の、考察でも書きましたが、最後の最後まで作品の評価は決まらないタイプです。
いかにそれまでがつまらなくても、最後に光るシーンや記憶に焼き付く煌めくような言葉があれば、評価が引っ繰り返ることもしばしばです。
その意味で本作の内容は、最終回まで期待していただけに非常に残念でした。
上記の良いところでも書きましたが、本作の売りは、勢いと展開・ライブ感です。
ゆえに細かいツッコミどころは山のようにある本作ですが「面白くて芯さえしっかりしてればオッケーだ」そんな感じで見ていました。
しかし本作は、その大事な部分が微妙、というよりは欠けているという感じだというのが正直なところです。
最大の問題点は、主役の乃木の人格・思想・魅力が伝わらないところです。
最終回で、彼は官房副長官を守る為に、ベキを含めた3人を撃ち殺したわけですが(実は生きてるとか、続編前提の話は除外してます)
こうなってみると本作で乃木は、最初から最後まで別班の任務を忠実に遂行しただけであり、最後に至っては官僚の保身主義を守る為に、任務で父を殺した人ということになります。
そもそも乃木に関しては、自身の理想・思想的な掘り下げがほぼありません。二重人格設定などから、繊細な自分と豪胆な自分が同居していることはうかがえ、自身が日本人に救われたこと、米国で起きたテロから国の為に仕事をしたいと思ったことは描かれますが、それ以外の思想・主張は皆無と言っていいです。
思想で言うなら、お父さんのベキの方がよっぽど未来図を語っています。
そんなお父さんと官房副長官を天秤にして、最後は父を撃つわけですが、そこにあるのは、「日本の要人だから」「復讐は良くない」という理由です。
そもそも物語前半で、テントのモニターで卑劣なことをしていた山本を乃木は殺してるわけで、ならば卑劣な官房副長官を守る理由の整合性もよく分かりません。
もしそれが日本の要人だから悪人でも無条件に守り、テントなど日本の反対勢力なら殺すということであるなら、そんな主人公誰が好きになるのでしょうか。
しかしドラマの全体図を見ると、悲しいかな、乃木は上記の理由で行動しており、結局は、命令されたことをそのまま行動する殺人も行う官僚に過ぎないことになるのです。
本ドラマの中で、日本の別班組織の正義や、官僚組織の美点が描かれ、そこが物語の軸になるなら整合性があるとは思いますが(ただしその展開なら個人的には乗れない、私は日本は好きですが、政治・官僚システムの腐敗は悲惨だと思う)
乃木の語ることと言えば、我が祖国を守るとかそんなのばかりです。その意味でラストまで見て乃木に全く感情移入が出来ないことが本作が微妙だと思う大きな点です。
また展開的にも、私は別班の仲間を撃ってテントに合流した時に「これはどういう風に回収するのかな」とワクワクしていました。
乃木が実は別班の闇の部分を掴んでいて、そこに戦いを仕掛けるとか、個人でテントも別班も敵に回すのかなとか色々考えていましたが、結局は「ただの別班の任務」でした。
私はどこかで乃木自身の目指す理想や思いみたいなものが、官僚組織や父の作ったテントとぶつかり、乃木の気持ちが揺れる展開があったら熱いなあと思っていたので、最後まで官僚組織の一員だったのはやはり肩透かしでした。
そもそも急所を外して4人を撃ち、実は生きてましたというのは、やはりあまりにも無理やりです。
また個人的にテントの目的が孤児救済の慈善事業というのは、別に悪くは無かったと思います。
ただし、社会派のテーマを入れるのであれば、エンタメ性とは別にそれなりの物語の強度が必要になるような気がします。
しかし最終回では、孤児救済の目途が立った後、ベキの個人的復讐が来るので、テーマ性がかすみます。
これならば社会派テーマは排除して、エンタメ性に方向性を振った方が良かったと思います。
テントの目的は「世界のネットワークを革新し、全てを支配下に置く」というようなドラクエの魔王的な方向の方が、最後の親子対決もスター・ウォーズばりに盛り上がったのではないかなと思うのです。
本作と似た構造をもつ物語として、本ブログでも取り上げた垣根涼介さんの「ワイルド・ソウル」という作品があります。
本作の内容は、戦後の日本政府の募集でブラジルに渡った移民たちですが、その募集要項は嘘偽りだらけで、官僚たちの保身や自己都合により、サポートもされずに現地で多くの人間が命を落とします。その仲間と子供が、その官僚たちに復讐していく・・・という物語ですが、こちらは人物の心情や哲学が、芯にあるので本当に面白い素晴らしい作品でした。
しかし本作は、乃木一家を陥れた官房副長官は最終回だけのぽっと出であり、あくまでその個人の責任問題というスケールになっており、ここに熱が全く感じられません。
少なくともラスボスは一話から存在を出しとくべきでしょうし、かつその官房副長官の保身主義が蔓延している官僚組織の闇に言及しないと話は盛り上がらないと思います。
さらに結局は、その官房副長官は普通に生き延びているわけであり、なんというか非常に気持ちの悪いラストになってしまいました。
少なくとも、この展開で盛り上げたいのなら、官房副長官は別班のトップで、最後は別班か父かどっちかを選ぶくらいにしないとダメかなあとも思います。
またVIVANTのタイトルも結局は「別班」という意味でしか、活用できてないというのも残念でした。
フランス語で「生きている、生命のある」の様な意味であると1話の時に皆考察していて、乃木がどういうVIVANTな姿勢を見せてくれるのかと期待してましたが、最後まで見ても、なんとなくの正義感を持つ殺しもする官僚でしかありませんでした。
そんなわけで内容としては、個人的に残念でしたが、それでもこれだけの予算をかけ、毎週ワクワクさせてくれたことは感謝したいです。
そもそもドラマは大人数で作っていることもあり、整合性が取れ、かつエンタメとしての満足度を担保するのは難しいのだと思います。
個人的にTBSのドラマは「離婚しようよ」「アンナチュラル」などなど、本当に面白いものが多いので、今後も色んなドラマに挑戦していってほしいです。