「十日間の不思議」はアメリカの推理小説の大家、エラリイ・クイーンさんが1948年に発表した長編小説です。
先日、本サイトでエラリイさんの「九尾の猫」を書評しました。
その物語開始時点で、主人公兼探偵であるエラリイは、失意の中にいたわけですが、その理由となったのが本作「十日間の不思議」で描かれる事件です。
前期の作品では人工的で精緻な本格ミステリを描いていたエラリイさんは、後期の作品からは人間の心理に重きを置いた文学性の高い作品を書くようになります。
その代表なのが、架空の町であるライツヴィルを舞台にしたライツヴィルシリーズであり、本作はその三作目に当たります。
あらすじとしては
記憶喪失に悩み、その間に自分が何をしているか分からないという恐怖におびえる旧友であるハワードの頼みにより、友の側で見張るため、再びライツヴィルにあるヴァン・ホーン家の屋敷に足を踏み入れたエラリイ。彼はそこで異常な脅迫事件に遭遇し、その渦の中に巻き込まれていく・・・
というものです。
本作の魅力は冒頭から展開される、朦朧とした悪夢を彷徨っているような雰囲気です。
その雰囲気が物語を引っ張り、そして後半には真の挫折と悪夢が訪れる。
私は物語が好きで、生まれてからそれなりに本を読んできましたが、本作の物語の展開は圧巻でした。
さらにプラスして、事件を取り巻く人々の心理、特に醜悪なエゴがしっかりと描かれていることが、本作の悪夢のような雰囲気をより濃いものにしています。
そしてそのエゴは問答無用に探偵自身の罪も糾弾していきます。
自身が事件を解く際のおごりや油断。
探偵とは何なのか?
失敗することはあるか?
そんなに偉いものなのか?
そこに救いはあるのか?
本作は、それらの問いかけと、自意識とエゴが混ざり、こちらの脳味噌を揺さぶる怪作です。
私自身は、「九尾の猫」からエラリイさんにはまり、ライツヴィルシリーズを読み始めたのですが、どの作品も本当に面白いです。
しかしその中でも特におすすめなのが、「九尾の猫」と本作「十日間の不思議」です。もし気になったら是非読んで見て下さい。
解決の爽快感だけでなく「問い」を含む、極上のミステリーは、きっとあなたの人生に何かしらを残してくれると思います。