さて次の願いは何にしよう。
サンタの力をある程度確かめ、おもちゃという第一の願望を叶えた少年の心は、無意識に大きい願望へと振れた。
何だか、とにかく派手なことをしたい!
そう思い色々考えるものの、豪華なイベントやパーティーの経験は一切なかったので、豪華というイメージもまた色や曖昧な形象でしか浮かべることが出来ないことに少年は気付く。
ここに至り自分の限界を理解した少年は、自分の経験不足を素直に認めることにした。
その上で、自分が想像できる範囲で、派手さや豪華さを定義しなおすことにして、再び意識を集中する。
その結果、派手なものとは「大きくて量があるもの」という、前時代の大艦巨砲主義ともいえる結論に至った。
「石を3トンくださいな」
「石、どんな石でスカ」
どんな石って言われてみても甚だ困るが、自分が困っているということは、願いを叶える方はより困っているのは確実だ。少年は言葉を無理やり口から紡ぎ出した。
「川の中流くらいにある、大きい石です」
「分かりまシタ」
サンタは右手をあげて再び指をぱちんと鳴らした。
そして指を鳴らす音の残響が消え去ると同時に、ずしんという異常な重低音がいくつも外から聞こえてくる。
少年があわててカーテンを開けると、アパートの無味乾燥とした駐車場が、大地の生命力溢れる、前衛的な現代アートの展示に早変わりしていた。
駐車場に止まっていた数台の車の周りを、四方八方から巨大な岩が取り囲み、車の上にも絶妙なバランスで、古代の宗教儀式のように岩の塔が出来上がっていた。
その岩に潰された運転席から、奇跡的に無傷で飛び出ている車のボンネット部分は、ストーンヘンジに閉じ込められた、巨大なクジラを眺めているかのようであり、なんだか神秘的な感覚を少年に抱かせた。
また3トンの石は、少年が思っていたよりもずっと多い量だったので、駐車場には、あますことなく岩の絨毯が敷き詰められ、少し整備すれば入場料が取れそうな岩の遺跡が誕生していた。
「ありがとう」
少年がそう言うと、サンタは微笑しながら満足そうにベトベトの髪を触っている。
さて、次は何を願おう。