「そしたら、まずはおもちゃがほしいなあ」
とりあえず願いを口に出したものの、自分でもぼんやりした願いだなあと感じる少年。
というのは、少年は一度もこれといった玩具が与えられたことがなかったので、具体的にどんな種類のおもちゃが欲しいのかは、自分自身ですら分からなかったのである。
ゆえに少年の頭の中にあるのは、おもちゃという響きから連想されるイメージと色のみで、それは暖色でほかほかした観念のようなもので形はなく、そしてめまぐるしく変化していく何かであった。
少年の曖昧な願いを聞いたサンタは、しばらく顎に手をあて考えた後に
「分かりましタ」
といい指をパチンと鳴らした。
少年は何が起こるのかドキドキしつつ待った。しかし、至って何も起こる気配がない。
部屋を包む沈黙にしびれを切らしそうになったころに、唐突に玄関のチャイムが鳴る。
一日のうちに二度もチャイムが鳴ることに驚きながらも、少年は再び玄関に向かう。
ゆっくりとドアをあけると、そこには真っ黒な背広姿の男性二人が立っていた。
「私たちは、こういうものです」
差し出された名刺には「トイギミック企画開発課・室長」と書かれてある。
ついでにトイギミックというのは巷で一、二を争う有名な玩具メーカーだ。
二人は、ずこずこと家の中に上がり込んできた。
そしてリビングに入ってきた後は、黒いサングラスをしているので表情は見えないものの、口角だけ不自然に上げて隅の方にぽつねんと佇んでいる。
「これで好きなおもちゃを1から作ることができマス」
サンタが微笑を携えていう。
なるほど、自分の理想のおもちゃを企画段階から作れということか。
確かに自分の中におもちゃの抽象的なイメージしかないのだから、理想のおもちゃの形や中身は徐々に考えながら固めていくしかない。
その意味で言えば、サンタは少年の心理を理解した上で、最高の解決策を提示してくれたとも言える訳である。
少年はここにおいて、このサンタは並みのサンタでは無いことを感じ取った。
それに付いているのは一流メーカーの企画開発なのである、おもちゃのクオリティは保証されるに違いない。
少年は黒い背広の二人組に会釈しつつ、ふんっと隣の父の部屋へ押し込めた後、改めてサンタにお礼を言った。
「お心遣いありがとうございます」
「いえいえ、願いはまだ6つありますヨ、どうされまスカ」
とにかくこの一件で、目の前の男が底知れぬ力を持っていることは証明された。
少年は、それを踏まえた上で自分の願いや欲望の引き出しをチェックしていった。