<歴史>鎌倉殿の13人 39話「穏やかな一日」 雑感 いよいよ伝説の作品へ

鎌倉殿の13人

義時が主導する鎌倉がスタートし、その何気ない一日を描いた39話。

しかし全然箸休めの回ではなく、むしろ日常に潜む陰謀や欲望が禍々しく表現された回でした。

いよいよ本作が伝説級の作品になるための王手をかけてきた・・・・

それでは以下、39話の雑感です。

39話 穏やかな一日

実朝が天然痘から復活、皆安堵の空気です。

政子が鎌倉の政治体制の知識を披露。

「全国の治安を守護が守り、土地を地頭が管理、そしてそれを与えられた御家人が奉公する」

ここで鎌倉幕府の政治体制が視聴者を含めて再確認されます。

少し前に暗記した知識を子供のように披露する政子の茶目っ気が魅力的です。

そして泰時に対して、実朝は歌を渡します、ボーイズラブな感じが甘酸っぱいですが、これに関しては後述します。

一方、義時は広元と、今後の政権構想を練っています。

「守護は2年交代、国司はそのまま」

それでは北条が目立つという広元に意を介さない義時です、そして広元も協力する気満々。

その後にのえが、義時は辛気臭い、もっと権力を広げればいいと言いますが、ここにおいてのえが高いレベルの陰謀家ではなく、割と浅はかだということが分かります。

義時のやっていることは、鎌倉中央の権力強化という目的を整備したうえで、形式ではなく本当の実質の権力を徐々に浸食していくという、とても高度なやり方です。

理由も整えてあるだけに非常に性質が悪いものでもありますが、そこに政治理論を置くあたり、分かりやすい私欲おじさんの時政とは役者が違います。

そして比奈との間の子の朝時が登場。

下品とか色々言われてるみたいですが、ここで判断を下すのはまだ微妙ですね、お母さんのこともありますし、今後の展開を見守りましょう。

そして御所では政子と実衣が実朝の和歌を京都陣が手直ししてくれるという話をしてます。

「手直しなんて必要ないのに」

という政子の言葉に、自由教育でのびのび育って欲しいという現代にも通じる母親の思いが伝わります。

そして書類に目を通し仕事をしている義時には、仲章が接近。

挨拶と共に、正しき道はいばらの道だとか言って時政追放を労います。

仲章は三善康信とか自分より低い地位や、こいつには強く出ても大丈夫というやつには、堂々と強く出るタイプなので、義時にやはりある程度一目置いているのは見えます。

しかし、一番触れて欲しくないだろう時政の事を、労いというクッションを入れて触れるやり方に、嫌らしさが出ています。

しかし義時も意に介さず受け答え、ここに来るまでに修羅場を潜り抜けてきた男は違います。

その後のいつもの実朝、康信、仲章の和歌を巡るやり取りは、もはや恒例イベントのように見えてきました笑

しかしここで康信に寄り添う実朝が、本当に優しいなあというのが見えていいです。

そして千世は実朝に貝合わせをしましょうと提案、疲れている中、了承する実朝ですが、そこに登場するのがザ・坂東武者の和田義盛。

ここで貝合わせの空気は吹っ飛びます。

実朝も義盛が来た事が嬉しそうで、女の子より男と遊ぶ方が楽しい高校生の様。

そんななか、義盛は悪びれずに自分を上総介にしてほしいと直談判。

うーん、このあたりが義盛のダメなところですね。

政治というのはコネはもちろん大事ですが、それを大っぴらに使うとロクなことにはなりません。

義時のように理由や正当性を用意したうえで、最後の一押しにコネでねじ込むのが正しいコネの使い方。

義盛のこの行動は鎌倉首脳陣から苦々しく思われるのは当然でしょう。

そして案の定、実朝はそれを政子に相談しますが

「私も和田殿は好きですが、政はもっと厳かなものだと思う」

と一蹴されます。

ここに政子の政治に対する向き合い方も示されています。

そんな政子の元に、頼んでいた品を届けに来る八田知家。

この知家は見ると何か笑っちゃうのに、とても魅力的という、自分でもよく分からない感情を刺激されます笑、市原隼人さんを本作で好きになった私です。

そこで政子に対し

「御家人たちは北条を苦々しく思っている。相模守、武蔵守は北条、国司は北条ばかり」

というドストレートな正論をぶちかまします。

言ってくれる知家もありがたいですし、それを言っても大丈夫と思われている政子の人格の良さも見えてくる一幕です。

それを義時に相談すると

「二度と北条に逆らうものが出なくするためだ」

と一蹴、さらに

「父たちを殺していれば、御家人たちが恐れおののき、平伏したかもしれない」

と恐ろしいことを言います、ダークアウトレイジまっしぐらな我らが主人公です。

一応擁護しとくと、鎌倉を含めた主要地の国司を持っておくことは、政権首班の力の担保としては必要でしょうし、時政に関してもこの後のシーンで義時は泰時に、「うまいものを持っていってやれ」と言っているわけで、本心ではないでしょう。

むしろ政子に対し、政治に対する自信のスタンスを誇示しているシーンであるように思います。

私は、物語前半でこの姉弟はお互い完全に一致して政治を動かす展開になると言いましたが、予想が外れました。

ここに政治のリアリズムを信奉する義時と、理想や情に重きを置く政子との対比があります。

鶴丸を平盛綱とし、御家人に取り立て泰時を守らせる話をしている義時も、権力者の不遜な態度が出ていて、特に邪悪なシーンではないはずなのに、こちらの心をザラザラさせてきます、うーん脚本といい小栗さんといい本当にすごい。

そして義時は和田義盛に対して政権として正式の通知をします。

  • 上総介のことは忘れろ
  • 鎌倉殿への直談判の禁止
  • 羽林と呼ぶのも禁止

まあ、当然と言えば当然ですが憤慨する義盛。

そして広元が、義盛のことを絵に描いたような坂東武者でそして御家人たちの人気があることを言います。

やはり鎌倉武士は分かりやすく荒々しい存在が好きなのです。

しかし広元は、いずれいなくなるとも言います。

義時に対し、和田をやるときは上手くやらなければいけないともほのめかしています。

実に恐ろしい参謀です。

しかし広元が求めている幕府、言うてはシステムと人員は、政治という舞台において作法と道理両方を整えている人、そしてそういう人たちが動かす場なのでしょう。

だからこそ感情や力で直情的に動く勢力は駆逐したい、そしてそれを駆逐してこそ本当の本格政権になる、そこまでを狙っての発言のような気もします。

いよいよ和田との関係もあやうくなってきました。

一方、三浦と義時です。

政治を変える為に御家人の力を削ぐと言う義時、続けて守護を2年交代にすることを義村に言います。

俺も相模の守護だがと反応する義村。

そしてそれを意に介さずに、だからこそ率先して賛成してほしいという義時。

いよいよ義時が、義村を圧倒し始めています。

陰謀を練る力や知識は幼少時から義村の方が上で、そして義時もそれに助けられてきたこともありました。

しかし今や、本当の権力とそれをどんな手段をもってしても実行する知恵の両方は義時の手にあります。

こういう逆転劇は、本当に面白いです。ただし三浦もこのままでは終わらないでしょうし、だからこそ後半の展開がより気になってきます。

三浦との関係も、きな臭くなってきました。

場面は変わり、弓争いのイベントです。

ダーク義時も息子・泰時の活躍に声を上げて嬉しそう、実朝も恋する?泰時の活躍に頬を緩ませます。

さらに平盛綱(鶴丸)が見事に的を射抜き、義時は満足そう、義時が御家人に取り立てる条件である弓争いで活躍するという条件を見事に果たしたのです。

さて、ここにおいて武力に重きを置く鎌倉風土でしっかり結果を残したという理由と、北条によく尽くしたという理由の二つをしっかり担保したうえで、平盛綱を御家人に取り立てて欲しいと実朝に言う義時。

普通であればおそらくオッケーしたであろう実朝ですが、ここにおいて

「分不相応な取り立ては争いを生む、和田の任官をダメだと言ったじゃないか」

という正論をぶつけて拒否します。

実朝の中には、弓を射抜いたあと泰時と抱き合っていた盛綱への嫉妬があったのです。

しかし、これに対し表情を変える義時。

義時は政治のバランス感覚を持っています。

そして今回のお願いは、弓争いの活躍や長年の奉公と、御家人任官という釣り合ったものだと判断していたわけで、まさか正論を盾に断られるとは意図していなかったわけです。

ここで義時は

「鎌倉殿の言う通りです。私は必要ないようですので伊豆に帰ります」

という脅しをかけます。

このレベルのお願いを拒否されるようでは、今後の政治に関して実朝が独自性を出す可能性がある、そう判断し一気に心を叩き潰しにきたわけです。

まあ、これは恋心の為であり、実朝の心を義時は勘違いしていますが、そんなことは義時には分かりません。

義時にとってもイニシアティブを巡る勝負の時間なのです。

しかし今、政権首班である義時に帰られては困る実朝はあっさり降参します。

当たり前ですね、そもそも実朝は恋に対する嫉妬から言っただけなのです。

しかし義時は手をゆるめません。

鎌倉殿が一度口にしたことを曲げるのは政治の正当性に関わる、だから別の褒美を義時に与え、自分がそれを盛綱に譲るという形を取ること。

実朝はそれを言われた通りに実行します。

私のやることに口をはさまないでいただきたい、鎌倉殿は見守ってさえいればいい。

すごいです・・・

これが主役の発言なのです、今までの大河であればどう考えても敵の最も憎いやつの発言です。

しかし我々はここまで来る義時の軌跡を知っています。

最初は理想を持って後家人の和をもって鎌倉を動かしたいと考えていたこと、しかしそれは何回やっても悲しい悲劇しか生まなかったこと、そしてそれなら俺が北条がやると覚悟を決めたこと、そして父の追放を経て、もう迷うことすら許されなくなったこと。

これが今の政治モンスター義時を作っています。

義時にしてみれば、もはや源氏の血というのは鎌倉を正当化する道具の一つ、そして北条が政権を担うための道具にしか過ぎないのかもしれません。

何の修羅場を潜り抜けてもいない実朝は権威の祭壇にじっとしていればいい、政治は能力がある自分が、そして自分が教育した泰時や北条が動かす、そんな覚悟がうかがえます。

もちろん鎌倉殿に北条がなることは出来ませんし、実朝は鎌倉にとって必要で、その政治形式は動きません。

しかし、権威においては実朝を立てても、実権を犯すのは許さない。

そんなことをこのダーク主人公の中に見出します。

一方で、実朝と千世は世継ぎの事について腹を割って話をします。

「私は世継ぎを作れない、どうしてもそういう気になれない」

それを聞いてよく話てくださいましたという千世。

千世はこのドラマにおいて京都から来た人の中ではちょっと異色ですね、実朝としっかり心を通わせています。

さて、このドラマの実朝に関してですが個人的には、本当に男が好きなのかどうかは分からないと思っています。

元々、本作の実朝は線が細めで感性が鋭い優しい人として描かれています。

風靡を愛し和歌を愛する実朝にとって、世継ぎを作れと言う機械的な理由における行為がとても苦痛でプレッシャーだったことも想像に難くありません。

だからこそ女性=プレッシャーの構図が出来て、そこに恐怖の要素が入ってしまったのではないかと思うのです。

一方で、泰時と話したり、義盛の家に行くときはそんなプレッシャーとは無縁で本当に安らかな時を得られたのでしょう。

そんな状況が、泰時に対する思いを高めたことにつながったのかなとも思います。

実朝の思いをどう描くかは、もう少し今後の展開を見守ろうと思います。

思うこと

さてここまで今回の話を見てきて思うのは

全くもって「穏やか一日」ではないということです。

陰謀や憎しみ、戦術や戦略が鎌倉の中では跋扈していて、そこには愛憎入り乱れる人間ドラマがあります。

本作の義時、政子、実朝、誰にとってみても、そして視聴者にしても穏やかではない一日。

しかし「一見」すると穏やかに見える。

この一見は視聴者とも、全く関係ない第三者の視点です。

今回の話はこの「一見」というのが全く信用できないというのを改めて実感させられました。

ニュースで見る様々な事件、外から眺める友人の家庭、実は中では全く想像と違うことが起こっているのだろうと改めて感じさせられます。

自分はこういう新しい視点や価値観を提示してくれるのが「文学」や「文学性」の良さだと考えているのですが、本作はこんなに残虐でダークでありながら文学性も兼ね備えている、そんなことを思うのです。

今後の陰謀や暗闘の目というのは何気ない時間に育ち跋扈しているというのを鮮やかに見せてくれた脚本に脱帽しつつ、いよいよ主人公を理想よりも政治やリアリズムという敬遠されがちな場所に立たせた覚悟にも敬意を表します。

正直、自分は政子と義時は協力して理想を追い求めていくという後半戦を予想していたので、まさかここまで禍々しく義時を書くとは予想していませんでした。

私欲の時政・りくvs公の義時・政子という構図。

それが

政治のリアリズムの義時vs理想の政子

になるとは思ってませんでした。

しかもこの二者はお互いの思いの違いを理解しつつも、共通点もあり、そして探りながら共に歩いていくわけで、とてもハードなドラマ展開です。

私は今回で確信しました、本作は伝説に残る作品になる。

あとは一見するとダークヒーローに見える義時が、どのような場所に辿り着くのかを、大河の流れに身を任せるように見ていくだけです。

これからもなるべく小まめに雑感を上げていこうと思います。

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