<かえる劇場>鏡

かえる劇場

何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見てね♪

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

はあ、今日も疲れたなあ

家に帰ってビールでも飲もう

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

しかしこの団地も寂れたもんだなあ

そして疲れてると5階まで階段で上がるのが辛い

ガチャ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

ただいまー
まあ誰もいないんだけどね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

しかし、毎度思うけどリビングにあるこの姿見の鏡
何のためにあるんだろうか

全ての階の部屋に設置されてるらしいけど、一人暮らしの男に鏡なんて要らないんだよなあ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・鏡に映る自分を見ると、老けたのを実感するなあ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

そんなことありませんよ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

うわああああああ
誰だお前、ていうか鏡から体が半分出ている!!

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

驚かせて失礼しました

私はアリス
この503号室の鏡に宿るものです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

アリス・・・
鏡・・・

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

ええ、本当は姿を見られない方がいいんですが、今鏡の世界では空調設備の総点検が行われているため、あまりに熱いのでこちらに来てしまいました

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・鏡の中の世界って本当にあったんですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

ええ、私はそこの住人です

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

いいなあ、鏡の世界って左右逆で悠大に広がってる夢のような世界なんですよね

うらやましい

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

いいえ、1Kです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

ん?

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

左右は逆ですが間取りは1Kです
それ以上の広がりはまるでありません

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・この503号室でさえ1LDKなのに

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

何か勘違いしてるようですが、鏡の世界は一つの鏡に対し一つの部屋として独立しています
そこには広がりなんてありませんよ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

うーん、思ってたのとは違うなあ
でもその1Kの部屋は、アンティークの家具とかに囲まれたとても優雅な空間なのでしょう?

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

・・・ふっ
いいでしょう、では実際見て下さい

にゅるる

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

すごい、簡単に鏡の中に入れたぞ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

どうぞ我が家を見て下さい

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・剥き出しのトイレ、暗い照明、コンクリートの床、骨ばった古いベッド

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

ふっ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

まるで刑務所の様な部屋ですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

それは間違いですね

ここは刑務所の様な部屋ではなく、刑務所なのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

どういうことです?

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

我々は、元々前世において凶悪な犯罪を犯した罪人なのです
その刑罰の結果、鏡の向こうの部屋に収容され
鏡が光るように、24時間絶えず裏から鏡を磨かされ続けているんです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

地獄の様な世界だ

えっ、ていうことはこの団地の鏡の裏には・・・

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

この団地の全ての鏡の裏で罪人が鏡を磨き続けています
それどころか世界中の鏡の裏で罪人たちが今も鏡を磨かされ続けているのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・全員1Kでですか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

1Kです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

うーん、僕が知ってる鏡の世界とは天と地ほどの開きがあるなあ
ドラえもんの映画の鏡の世界は、本当の世界の様に無限に広がっていたのに

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

あんなものはネコ型ロボットの戯言ですよ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

言葉が強いな!
しかし、よくこんな地獄の様な生活を続けられますね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

定期的に私をこの刑罰に派遣した「大いなる何か」とされる人物から
「いつか磨くことが、映されることに変わるから頑張れ」
というメッセージが来るので、それを励みに何とか頑張っているのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

抽象的なメッセージだ・・・
ていうか食事とかはどうしてるんですか、見たところ冷蔵庫とかもなさそうですけど

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

ああ、それは「鏡餅」を食べてます
ちょうど今ここにありますよ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

えっ、ただの手鏡じゃないですか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

鏡の中をよく見て下さい

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

うわっ、鏡の中に「鏡餅」が映ってる

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

実際に食べれないから、まさに絵に描いた餅ですね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・つまり食料は実質無しということですか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

いいえ、鏡の中にある餅を精神で食すのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

ごめんなさい、そういうスピリチュアルな話は勘弁してください

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

その他にも「天ぷらの盛り合わせ」もありますよ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あっ、これは本当に天ぷらですね
いいキツネ色に揚がっていて美味しそうだ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

食べてみてください

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

えっ、はい
それじゃあ失礼して・・・
ずるり、ああ、すぐに衣が取れちゃうなあ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・・・
中が鏡だ
そしてどれもこれも全てサイズの違う鏡だ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

衣をめくると、本当の自分を直視せざるを得ないという本質をついた食事なのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

食に本質は求めていないんだけどなあ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

おや、ここに新聞がありましたね

片付けるのを忘れてました

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

一面が内閣の組閣のニュースですね
でも何か写真が変ですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

ああ、それは左の方の半分の写真は鏡だからです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

えっ、本当だ
右の厚労大臣と、左の外務大臣が全く同じ顔をしている

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

人数が半分で済むから燃費がいいのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あれ、でも総理大臣がいないけど

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

真ん中は、鏡に映した時に困るので総理大臣は要らないのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

右と左しか要らないわけか・・・

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

おや、そろそろサッカー中継の時間ですね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あっ、壁にかかってる鏡がいきなりグラウンドを映し始めたぞ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

時間が来ると、鏡に中継映像が流れるんですよ
私たちの唯一の娯楽ですね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あれでも、この試合変じゃない
ずっと味方同士でパス回してるだけなんだけど

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

当り前じゃないですか

だってグラウンドの敵の側は鏡ですから

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・自分の反射とサッカーをしてるのか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

自分の敵は常に自分ですからね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・んっ
何かお尻の下にある
何だこれ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

それはこの前、娯楽用に配られた書籍ですね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

へー、お洒落なデザインの文庫本じゃない
どんな内容なのかしら

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

どうぞ読んでみてください

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・126ページ全てが鏡だ
ひたすら自分の顔が映っている

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

本を読むことは、自分を見つめなおすことですから


♪ピコピコピコン♪

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あれっ、何か変なチャイムが鳴ったけど

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

なんてことでしょう!!

私はとうとう選ばれたのです

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

選ばれた?

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

一生懸命磨き続けていると、どこかで「真の鏡の間」に入れる資格を得ることが出来るのです

今のチャイムは私が選ばれた合図です

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

へー、良かったね

じゃあこれでようやく刑罰から解放されるのか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

うーん、実は「真の鏡の間」に何があるのかは私も知らないんですよね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あっ、壁が横に動いて、奥に扉が出てきた

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

いよいよですね、怖いので一緒に来てくれませんか

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

乗り掛かった舟ですし、行きますよ
興味もありますし

ガチャリ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

広い部屋ですね

何か中央に台みたいなものがありますね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

台の上から流れる小さい銀色の噴水
そして、その横にはくしにささったマシュマロ、バナナ・・・

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

これは「鏡フォンデュ」ですね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

そうですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

・・・とりあえずフォンデュしますか

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

そうですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

うん、バナナが鏡のコーティングでぼやけた味になって、何を食べてるのかまったく分かりません

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

マシュマロも同じです

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

あっ、奥に扉がありますね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

よかったですよ
まさかここまできてフォンデュして帰されたら、たまったもんじゃありませんよ

ガチャリ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

見渡す絶景、岩で作られた湯舟、そして湧き出る銀色のお湯、たまる銀色の液体

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

「源泉かけ流し鏡の湯」ですね

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

・・・そういうことか

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・どういうことですか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

この湯に入った場合、おそらく私は鏡にコーティングされ二度と今の私に戻れなくなるでしょう

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・なるほど、「真の鏡の間」は罪人を処分する部屋というわけですか

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

そして見て下さい、いつの間にか我々が入ってきた入り口が消えています

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

えっ、本当だ!!
ちょっと待って、てことは俺も帰れないってこと?

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

残念ですがそうなりますね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

なんてことだ、俺は何もしてないのに

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

見て下さい、足が自然と湯舟へ向かっています

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

本当だ
イヤだ、助けてくれえ

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

さっき食べたフォンデュに私たちの神経を操る成分が入ってたんでしょうね

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

うがあ、足が鏡に呑まれて

<strong><span class="fz-20px"><span class="fz-18px">アリス</span></span></strong>
アリス

お先に失礼します

ご迷惑をおかけしてすいませんでした

ザブン

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

あいつ自分から飛び込みやがった

僕は嫌だぞ、あきらめるもんか

がああ、胸が吞み込まれ・・・

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

ごぼぼ
ぶぐぐ
・・・無念



・・・・・
・・・・・
・・・・・



<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・はっ!!
あれ、ここは?

はっ、いつもの俺の部屋か

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

ビールを飲み過ぎて寝ちゃったのか

しかし嫌な夢だったなあ

<strong><span class="fz-20px">男</span></strong>

・・・この鏡は外そう

それ以来、私は鏡を見るのが恐くなった。

全てのものは反射に過ぎない、そしてこの空虚な私自身も反射に過ぎないのではないか?

私はその想像と向き合うことを恐れたのだ。

しかし、いつか私も反射の海の中に還っていくのだろうか?

そんなことを考えながらも、私はとりあえず現状を生きている。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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