何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー。
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい♪
時刻表
ふう、少し急いできたから
まだ電車まで余裕があるわね
・・・・・
さっき、駅の人にもらった時刻表でも見ながら電車を待ちましょう
・・・・・
・・・あの男の人こっちをめちゃくちゃ見てくるわね
すたすた
えっ、こっちに近づいてきた！？
めちゃくちゃ怖いわ
すいません
・・・はい
なんでしょうか？
・・・返してくれませんか
・・・えーと何をでしょうか
時刻表です
・・・えっと、これは私が駅の人からもらったものなのですけれども
存じあげてます
・・・あなたも駅の人からもらえばいいのでは？
その時刻表でないとダメなんです
時刻表に個性とかデザインとかは無いと思いますけど
そういう次元の話をしているんではないんです
偏見で物事を語るのはもうやめて下さい
今までの会話にそもそも偏見が入り込む余地がないです
何なんですか！自分で駅の人にもらってくださいよ
・・・仕方がありません
えいっ
ブウウン
スッ
えっ、駅の人たちが止まった
そして景色が白黒になった
申し遅れました
私は「時刻表の隙間に宿るモノ」
時刻表の神、通称・時の遊び人です
何か変なこと言ってる
私は時刻表の時間を全て管理する存在で、全ての電車と時刻は私の管理化にあります
いや管理してるのは鉄道会社です
彼らはただの駒
機械のパーツに過ぎません
何だかよく分からないけど
「時の遊び人」が何で私の時刻表が欲しいわけ
普段私は「時刻の隙間」
つまり全世界でどこでも電車が止まることがない「空白の時間」が作る小部屋に住んでいるのです
えっ、全世界で電車が止まらない時間があるんだ
はい、それでそこの時間の小部屋に帰ろうと思ったら
鍵を無くしてしまって
まさか、その鍵がこの時刻表だというの
その通りです
何を馬鹿な
はっ！！
・・・・・
時刻表を開いたら、まさかの電車が止まる時間が一つしか印字されてないわ
１４：５３
それが時刻表の隙間なのです
確かにこの時刻表は異常な時刻表だとは思うけど
あなたが「時刻表の神」とはやはり信じられないわね
何か顔がうさんくさいし
仕方ありません
これを見て下さい
あっ、私が欲しかった普通の時刻表だわ
よく見ていてください
スッ
ああっ！！
時刻表の赤字の特急と青字の快特の文字が全部、普通列車の黒字に変化したわ
そしてこれが現実の映像です
わっ、目の前の空中に映像が見える
そして映像の中では、駅のホームに人々が溜まってぎゅうぎゅうだわ
普通車両しか来ないように私が駅のシステムを変えたのです
さらに本数も１時間に３本に減らしました
そしてこの駅は１時間に１００万人が詰めかけます
人々が潰れて巨大な肌色のナメクジみたいになっているわ
そしてそのヌメヌメしたものが、普通列車になだれ込んでいく・・・
どうですか、私の恐ろしい力がお分かりになりましたか
・・・なるほど
あなたが人智を超えた何かなのは確かね
それでは私にその時刻表を渡してください
・・・いやよ
・・・今何と
実は私、かつて宮崎県で、闘鶏極嬢会という暴力団のトップをしていたの
いきなりのカミングアウトにびっくりです
しかし武力の脅しには負けませんよ
しかしこれだけは信じて欲しいのよ
私は電車の時間だけは絶対に遅れたことのない、「時刻表を守るタイプの暴力団」だったの
信じて欲しいポイントがさっぱり分かりません
つまり私は、暴力団と鉄道オタクの二足のわらじを履いていたということよ
そのわらじめちゃくちゃ歩きにくそうですね
そして私の鉄道オタクの方の血がこう言っているのよ
「こんな貴重な時刻表をおいそれと渡すわけにはいかない」ってね
・・・なるほど
そちらがそういう態度なら、こちらにも考えがあります
神だか何だか知らないけど
腕力では負ける気がしないわ
「宮崎の流血地鶏」と言われた私の拳を舐めるんじゃないわよ
ブウウン
何！？
空中に黒い穴が開いたわ
ゴロゴロン
その穴から、何かを放り出した・・・
ああっ！！
ふふっ、そうです
これは時刻表トリックを使った犯人たちの生首です
・・・なんてことなの
ここにあるのは５つ位で、氷山の一角に過ぎません
時効表トリックなんていう舐めたものを使うから、こんなことになるのです
・・・・くっ
このような姿になりたくないなら
さっさと時刻表を渡すんですね
・・・ダダッ
逃げようと思っても無駄ですよ
ハアアアア
！！
何、四方から体に数字の入れ墨をした化け物が現れた
今私は、隙間の四天王
「７：４２」「１１：０７」
「１６：１９」「２３：０３」
を召喚したのです
電車が止まらない時間は
１４：５３だけじゃなかったのね
常に安全装置と番犬は容易しておくものです
さあ、隙間四天王、その女から時刻表を奪うのだ
トンっ
トンっ
トンっ
トンっ
何！？四天王が簡単に倒された
実は私、昔学校をさぼって、公園で２４時間、各鉄道会社の時刻表を眺めていたことがあるの
新しい種類の変態ですね
そして私は「時刻表のリズム」と「人体の心臓のリズム」の共通点に気付いた
以来私は、相手の人体のツボを一定のリズムで付くことにより「心臓の時刻表」をコントロールする術を身に着けたのよ
「心臓の時刻表」がパワーワード過ぎて話が入ってきません
つまり今、あなたの四天王の心臓は1時間に一回しか電車・・・
すなわち鼓動が来ない状態ということよ
最初から鼓動って言ってよ
ていうか１時間に１回ってもうそれ半分死んでるよね
さあ、どうするお頼みの番犬たちは使い物にならないわよ
壹：陸
柒：捌
सात：ग्यारह
पाँच：एक
何いきなり意味不明な言葉を・・・
ああっ！！
ズシンズシンズシンズシン
ふっ、今私は時刻表の４つの時間を中国語とヒンディー語に口頭で書き換えた
そしてこの空間では「時刻」は「電車」として現れる！
見るがいい！中国の快特と普通列車！インドの特急と普通列車を！！
くっ、四方を、チャイナドレスのような深紅の列車と、サリーのようなアジアテイストの列車に囲まれてしまったわ
文化の十字路に踏みつぶされたくなければ、おとなしく時刻表を渡すんだ
くっ、ここで万事休すかしら
・・・いや、待てよ
・・・何だ、何を思いついた
ガサゴソ
さらさらさらさら
なっ、お前、私の時刻表の裏に何を書き込んでいるのだ
にやり
・・・・・はっ！！
これは
そう、安土桃山時代の時刻表よ
お前、昔の文字を書けるのか
私は昔学校を休んで、公園で２４時間訓練して織田信長にラブレターを書いたことがあったの
時代の最先端を走る変態の形ですね
私はここに４つの時刻を書き込んだわ
そして今この場では、「時刻」が「電車」になり現れる
ズシンズシンズシンズシン
何てことだ、黒い甲冑みたいな電車が、私の電車たちと対峙している
さて、どうする
一色触発だけど、争えばそちらもただでは済まないわよ
・・・くっ
まさかここまでやるとは
ふふふっ、万事休すかしら
ヒラリ
あれ、何か紙みたいのが落ちましたよ
紙？？
ああっ！！！
やめて、それは見ないで
何々・・・
「わたしのじこくひょう ４年２組 ときのきざみ」
やめて、読み上げないで
・・・・・
自分の理想の電車の種類や特急等の分類、そして架空の駅が書いてある
ううっ
なるほど、幼き日の君が作った
理想の時刻表というわけだ
そうよ、悪い！
・・・いや
何、ぼーっとしちゃって
いや、私はこの時刻表の、未熟ながら理想と希望にあふれた情熱を見て大事なことを思い出したのだ
・・・大事なこと
電車は時刻通り来ることが目的なのではなく、思いを運ぶことが大事ということさ
・・・・・
・・・もしかしたらこれも運命かもしれん
君は、「時刻表の神」の座を引き継ぐつもりはないかね
えっ！！私が
ここまで見てきて君の時刻を刻むスキルが高いのは分かった
それになりより君には情熱がある
嬉しいけど、私なんかに務まるかしら
大丈夫、私にも務まったんだ
君ならもっとうまくやれるとも
・・・私、やります
そうか引き受けてくれるかね
そしたらその「１４：５３」の部屋は君が使うといい
えっ、でもあなたはどこに住むの
私はイギリスの友人がいる「9と4分の3番線」のホームに部屋をこしらえて暮らすよ
君も何かあったら遊びに来たまえ
はい！！ありがとう！！
私、頑張ります！！！
そして男と女は時刻という魔法の中に消えていきました。
もしもあなたが、「9と4分の3番線」のホームに１４時５３分にたまたま入ることがあったら、そこでは笑顔の男女がお茶をしてるかもしれません。
＜完＞
