<かえる劇場>腕の見せ場

かえる劇場

何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい♪

腕の見せ場

男

どうだい中々いいホテルだろう
君の為に、少し奮発しだんだ

女

・・ええ、ありがとう

男

何か元気ないね

そしたら少し早いけどルームサービスでも頼もうか?

女

その前に少し話があるの

男

なんだい話って

女

この前あなたのケータイをたまたま見ちゃったんだけど

知らない女との2ショットがあったわ

それも二人も

男

・・・・・

女

その沈黙は浮気を認めるってことかしら

男

すまない・・・
しかしこれには訳が・・・

女

スッ

男

何だいおもむろにスーツケースを出して

女

バッ

男

めちゃくちゃ勢いよくスーツケースを開いた・・・

男

!!!!!!

男

スーツケースの中に、無数の人間の腕が転がっている

女

全部私のかつての恋人たちの腕よ
彼らは例外なく浮気をし、私に腕をもぎとられたわ

男

パニック過ぎて、逆に冷静な自分がここにいる・・・

女

さあ、もう分かったわね
私と腕相撲をしましょう

男

いや、まったく分からないんだけど

女

何て物分かりの悪い人なの
バッ

男

おもむろにスーツの上着を脱いだ
そして下にはタンクトップを着ている

女

はああああああああああああ

男

うわああ
腕の筋肉がかつてないほど膨れ上がっていく
血管がまるで、脈動するドラゴンのようだ!

女

言ってなかったけど、私、腕相撲が得意なの

男

いやもう得意とか、そういうレベルじゃないよね

女

学生時代、友達に「腕相撲が強いね」って褒められてから、研鑽を重ねてたら

いつの間にかこんなことになってたわ

男

君の集中力は知ってたつもりでいたけど、まさかそこまでとは

女

私は浮気した男とは、毎回「腕相撲の勝負」でチャンスをあげてるのよ

私に勝てたら許してあげるわ

しかし負けたらあなたは利き腕を永遠に失うことになるのよ

男

うーん、二の腕が丸太ぐらいある人に、まるで勝てる気がしない・・・
ていうかそんな腕を持つくせに、よく僕の腕枕で満足出来たね

女

女の子みたいなか弱い貧弱な腕だと思ってたわ

男

なんて屈辱なんだ・・・

女

か弱い腕も嫌いではないわよ

男

今気づいたけど、二人でお化け屋敷に行った時
両サイドの障子から出てくる無数の手に、全く無反応だったのも・・

女

どの順番で腕をへし折っていくかを無意識でシュミレーションしていたわ

男

なんて恐ろしい腕相撲根性なんだ

女

さあ、たわごとはそこまでにして勝負しましょうよ

男

待ってくれ
本当にただの火遊びなんだ

写真の子は、フレンチレストランのシェフをしていて、新作発表会の試食を是非してくれって頼まれて、流れでそうなっただけで・・

女

なるほど、そこで彼女に、腕によりをかけた料理をふるまわれたわけね
今度はあなたの腕に、私が死に装束をかけてあげるわ

男

いやいや、ちょっと待ってくれよ

女

もう一人の子はなんなの

男

いやあの、もう一人の子は動物園の飼育員さんでね・・・
えーと・・・確か・・・
そうそう!
猿のエリアの担当になったんだけど、オランウータンがなかなか懐かないって落ち込んでいて
慰めていたら流れで・・・

女

ふっ
そのオランウータンの腕を3つ折りにした後に、あなたの腕も折りたたんであげるわ

男

腕関係に繋げる意志がすごいな!

女

さっ、覚悟を決めて私と勝負しましょう

男

・・・分かった
少し待ってくれ、着替えてくる

女

なるほど少しでも動きやすい恰好で勝負しようという努力は認めるわ

・・・・・・
・・・・・・

男

スッ

女

えっ、何なのその恰好
真っ黒な黒衣に身を包んで・・・

男

言ってなかったけど、僕は仏教系の新宗教の中でも存在するかとうかも謎と言われ、ほとんど誰にも知られていない「千手修羅真宗」の教祖の息子なんだ

女

腕力に、宗教が対抗できると思って?

男

手荒なまねはしたくないけど

僕も僕の腕を守らなくてはならないからね

女

何をうだうだ言ってるのよ

男

行くぞ!
秘技・マッドロハンド召喚!!

ズズズズズズズズ

女

何!?

ホテルの床に無数の泥の手が現れたわ

男

土にかえった死者の無念の思いを、泥の手として再構築する難易度が高い技さ
さあ、この泥の手で汚されたくなければ、僕の話を聞き、穏やかに別れようじゃないか

泥の手たち「ぐにゃぐにゃ、うにゃうにゃ」

女

・・・・・ふっ
ズババババババババ

男

何!?
足だけで蹴散らした

女

あんた馬鹿なの
こんなの腕を使うまでもないわ
こけおどしにもほどがある

男

はっはっは

さすがだな、そうとも泥の手はただの心理的圧力に過ぎない
しかし、君はここで降参しなかったことを後悔するぞ

女

!!
まだ何かあるの?

男

無論だ!
秘技・千手観音集合写真!!

ズンズンズンズンズンズンズンズンズン


女

ホテルに無数の千手観音が現れた!!

男

これぞ、我が宗派の真の力!!
ちょうど集合写真に入る人数である、30体もの千手観音を同時に召喚するという奥儀だ!

女

囲まれるとものすごい圧力ね・・・

男

何万もの腕に絡めとられる前に、おとなしく降参したまえ

女

・・・・・・
ぶつぶつぶつ

男

何をぶつぶつ言っている

女

・・・・・

ふう、OK!!
イメージは掴んだわ

男

何だと

女

それでは行くわ!!

はああああああああああああああああ

バシッ!! ブシュッ!!
スタタタタタ
ザンッ!!
シュバババババババ!!

男

何てことだ、とんでもない高速の動きで、次々と千手観音の腕をもぎ取っていっている!!

女

あと7000

男

みるみる内に腕が減っていく・・・

女

あと500

男

もはや千ですらなくなってしまった

女

3、2、1・・・
バキッ

男

・・・・・・

女

ふう、これで0ね

どうあなたの千手観音たちが、零手観音にされた気分は

男

・・・まさかこれほどとは

女

さあ、あきらめて利き腕を私に捧げなさい

男

・・・・・・

女

なあに?

目なんかつぶっちゃって、心が折れちゃったのかしら?

男

・・・・・
カッ!!
はああああああああああああああ

女

すごい!!

体にまとうオーラで、黒衣が銀色に光っているように見えるわ

男

最終奥儀・蜘蛛の糸!!!

女

蜘蛛・・・・
何なの?何も起こらないけど・・・

ずううううん

女

はっ!!
私の下にだけ巨大な黒い穴が出来ている

男

これだけは使いたくなかった・・

女

えっ、何なの穴に落ちていくわ!!
あっ、穴の中に無数の手がある

男

その手は君を地獄に落とそうとする手だ・・・
そして何人たりとも、その手と穴から逃れることは出来ない

女

くっ・・・
無数の手に引きずり込まれる・・・・

男

ありがとう
気休めかもしれないけど、君がいたことだけは忘れないよ
僕の記憶の中で永遠に生き続けてくれ

女

・・・くううう

ズズズズズズズズ

男

ふう、完全に飲み込まれたようだな

男

さて、あとは穴をふさぐだけだな

ギャオオオオオーン

男

!!!
何だ、今の地獄の断末魔みたいな声は

男

穴の中から聞こえたけど・・・

男

あああああ!!!

ガシガシガシガシガシ

男

まさか、つたを登ってきているだと!?
地獄の番人たちはどうしたのだ

男

ああ、有象無象にいた地獄の番人たちの腕が全てもぎとられている
その腕の残骸が地獄を覆っている・・・
あれは地獄の断末魔だったのか

女

はあはあはあ
よくもてこずらせてくれたわね

男

・・・・・

がくり

女

どうしたのいきなりへたり込んじゃって

男

君の好きにしたまえ

あの技が破られた今、私は君に対抗する術を持たない

女

あら、素直なのね

しかしあなたはよくやったわ

私を息切れまで追い込んだのは、あなたが初めてだもの

男

・・・早くやってくれ

女

いいわ、楽にもぎとってあげる

少女
少女

お姉ちゃんたち喧嘩はダメだよ

女

!!!!!
びっくりした!
あなた何者?私がまるで気配に気づかないなんて

男

ホテルの最上階で、鍵もかかってるはずなのに

少女
少女

ねえねえ、喧嘩やめるの?やめないの?
どっちなの?

女

お子様には分からないだろうけど、男女の仲は時に残酷な結末を迎えるのよ
あなたはお家でおままごとでもしてなさい

少女
少女

ふうん、じゃあこうなっても知らないよ

パラパラパラ

男

これは・・・
無数の指!!

少女
少女

ふっふ、正解~♪
暴力団や政治家、軍人さんとか、戦いをやめない人の指を私は全部もぎとっちゃうんだ

女

そんなんで私がおじけづくと思ってるの

少女
少女

へー、威勢がいい女の人は嫌いじゃないよ
それじゃあ、私と指相撲しようか

終わった後は、お姉さんの指が全部なくなってるだろうけど

男

・・・・・
千手観音召喚!!

ズン

少女
少女

お兄さんも威勢がいいねえ

男

大人の話に子供が口を出すのは感心しないな

千本の腕にお尻を叩かれたくなかったら、おとなしくしていることだ

少女
少女

しゅっ

トトトトトトトトトトトトトト

男

何だ、何が起きたんだ

女

ああっ
千手観音の指が全部もぎとられてる

少女
少女

違うよ、五千指観音を、零指観音にしたんだよ

男

5本指×1000個の腕ー5000本の指=0か

女

何冷静に計算してるのよ

少女
少女

どうする私と指相撲する?

女

いいえ、無理だわ
だって私には、あなたの動きが何一つ見えなかったもの
煮るなり焼くなり好きにして

男

僕にも全く見えなかった

君のコレクションに僕の指を加えればいいさ

少女
少女

何か勘違いしてるね

争いをやめればいいんだよ
やめるの?やめないの?

女

・・・やめます

男

・・・同じく

少女
少女

うん!良かった良かった♪
はっ!もうこんな時間だわ

ママと1階のレストランでパフェを食べる約束してるんだあ
じゃあ、またねー

タタタタタタタ

女

行ってしまった・・・

男

・・・何て軽い足取りなんだ

女

・・・・・

私悔しいわ

男

悔しい?

女

私はまがりなりにも毎日鍛えて、霊長類ではナンバーワンの力を持ってると思っていたの

でも上には上がいるのね

男

僕なんて、君にすらかなわなかったんだから、プライドはずたぼろさ

それに比べれば君は強いし、何より腕を振り回す君の姿は美しかった

女

あら、私はあなたの黒衣の姿も、とてもセクシーだと思ったわ

男

・・・・・

女

・・・・・

男

もう浮気は二度としない
許してくれるかい

女

今回だけよ、次にしたら両腕をもぎとるから

男

・・・ありがとう
お腹もあまり減ってないし、これからクルージングにでも行かないかい

女

いいわね、私も夜風に当たりたいわ



その後、二人は結婚し、そして子供を授かった。

その子供は家で腕立て伏せをしながら、お経を読み、部屋の千手観音にお祈りをしつつ、すくすくと育っているらしい。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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