何だかよく分からない不条理でアホなショートストーリー
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい♪
トイレの神様
ふー、何だか本屋に行くと無性にトイレに行きたくなるんだよな
確かこのフロアにトイレがあったはず
急いでいこう
うわあ、まさかの5人並んでるよ
とりあえず待つけども
・・・うーん
そろそろ限界だぞ
やったー、やっと個室が空いたぞ
いざ!!
ガチャ
こんにちは、僕はトイレの神様です
うわあ!!!
びっくりした個室に変なおじさんがいる
変なおじさんではありません
私はトイレの神様です
何を言って・・・
あれ、この部屋、トイレの個室とは思えないほどめちゃくちゃ広い
ここはトイレの神の祭壇です
私が個室に入ったあなたをこの祭壇に強制転換したのです
床から、天井に至るまで、全てが白いタイルで覆われている
5LDKです
5LDK・・・壁も仕切りもないのに・・・
ていうかそんな場合じゃない!!もう限界だ!!
早くトイレに行かせてください!!
良いでしょう、しかしトイレの前には「トイレの神を祀る儀式」が必要なのです
どんな儀式なの!!
とにかく早くしてくれ
まず、「修祓」により、全身をくまなく触り体を清め
ここで3礼2拍手3礼します
そして「献饌の儀」に移り、米粒を天に掲げたあと、三粒口に放り
ここで6礼5拍手6礼、地面に平伏して10秒頭を下げ続けます
そして次は「玉串」を・・・
んなもん出来るか!!
トイレを出しやがれ!!
こっちは限界なんだよ!!!
しかし儀式は儀式・・・
うるせえ!!
えいっ!!!!
バコン!!
ぷぎゃああああああああああああ!!!!!!!
よしトイレ男を殴ったら、個室に戻ったぞ!
急いで用を足そう!
・・・・・
はあー
すっきりしたー
さて、トイレを出て本屋に戻るか
ブウウン
あれ、本屋に出ようと思ったら
さっきの一面、白タイルの部屋に出てしまった・・・
殴るなんてひどいじゃありませんか、オヤジにも殴られたことないのに
あっ!トイレ男
いえトイレの神様です
いやだって限界だったし
そもそも、「儀式がめちゃくちゃ複雑なトイレの神様」なんて地球上のどこにも需要はないのよ
しかしこの儀式は西暦52年から続く伝統の儀式なのです
トイレってさくって「済ませる」もので
じっくり「取り組む」ものではないのよね
いいえ!形式が大事です
頑固なトイレ野郎だな!
ていうか今まで儀式に疑問を持つ人は居なかったの?
「疑問を呈する人」はいませんでしたが、間に合わないで「撒き散らした人」はいましたね
うわあ!!大惨事!!!
ていうかたまに駅のトイレで「どうしたらこんな汚れ方になるんだ!」みたいな状態を見るけど
その全てが儀式を優先した結果の「撒き散らし」ですね
お前が全ての元凶じゃねえか!
伝統よりも清潔さを優先して簡略化しやがれ
話がそれましたね
今日はそんな要件じゃないんです
いや、公衆衛生的に見てかなり重要な話だったと思うぞ
あなたは、3日に一回、自宅のトイレを一生懸命掃除していますね
うん、まあそれぐらいは手伝わないとさ
あなたの心を込めた掃除が私の心を打ちました
ゆえに今日は「トイレ関係の願い事」を一つだけ叶えてさしあげます
願いの範囲が狭い!!
そして出るなら都心の本屋のトイレじゃなくて、自宅で出て来いよ
さて、何を願いますか
うーん、急に言われてもなあ
そもそもトイレの神様って何なの
何って言われましても
「トイレの神様」が本名なの
いえ本名は
「TOTO・ジョセフ・LIXIL・ジャニス・アラウーノ」です
名だたるトイレメーカーと主力商品の連結車両のような名前!
それはそうですよ
あいつらは私の名前を暖簾分けしてやったんですから
えっ、あんたの名前の方がメーカーより先なんですか
当たり前ですよ、神様なんですから
私はTOTOが鼻を垂らして外をかけまわったり、LIXILがお祭りでりんご飴をほうばってたころから彼らを知っています
・・・全く情景が浮かばない話だ
ていうかトイレの神様って、何が出来るんですか
トイレに関するありとあらゆることです
めちゃくちゃ抽象的だなあ
具体的にどんなすごいことが出来るんですか
しばしお待ちください
・・・・・
目をつぶって何かを考えている・・・
整いました
それでは世界のトイレ事情をお伝えします
本日において
アメリカで1万300件、人々がトイレに間に合わず撒き散らしました
イギリスで5200件、撒き散らしています
ドイツでは3300件、撒き散らしなさっておいでで
中国では2万3000件、撒き散らされつつあり・・・・
もういいです!!
何なの、その「撒き散らし」の情報の羅列
あと語尾に変化を付けるのも腹立たしいわ
誤解しないでくださいね
逆に言えば上記の人以外は、トイレを奇麗に使っているわけですからね
すなわち世の中は汚いことや闇ばかりではないのです
もっと人類は光の方向を見つめるべきなのです
新興宗教の教祖みたいな言い回しは勘弁してください
どうです私はまごうことなき「トイレの神様」でしょう
いや今のところ出鱈目に「撒き散らし」情報を言っているただのおじさんですね
まだ信じてもらえませんか
それではこれではどうでしょう
えいっ
あれ、何か白い壁から出てきた
これはカルミックが誇る、トイレシートクリーナーです
ああ、あの便座を拭く液体をプッシュして出すやつね
だけどそれがどうしたのよ
よーく、見て下さい
見る?どれどれ
あっ!これは
PUSHボタンが何種類もある!
コーラ、ジンジャエール、アイスコーヒー、オレンジジュース・・・
「トイレシートバー」です
様々なフレーバーでお好みの便座の臭いをカスタマイズし、かつ備え付けの紙コップで飲むことも出来ます
コーラで便座拭いたら、お尻べとべとじゃない・・・
ベトベトも慣れると以外と悪くないもんですよ坊ちゃん
ベトベトに慣れる意味が分からないし、唐突な親戚のおじさんテイストはやめて下さい
どうです神の力は偉大でしょう
まあ確かにいきなり変な部屋に転送したり、壁から「トイレシートバー」を出したり、あなたが人智を超えた力を持っているのは認めましょう
ありがとうございます
でも、そんな力があるならなんで、トイレというジャンルにこだわってるんですか
もう本当の「全てを統括する神様」になればいいじゃないですか
舐めた口をきくんじゃあない、小僧!!!!!
いきなりフルスロットルの怒り!!
いいですか、日本には八百万の神様がいて、その神様たちの沢山のバランスで成り立っているんです
傘を開くジョイントの神様や、新品のズボンを買った時についてくる予備のボタンの神様に、5個口のタコ足配線の神様など、沢山の神様がいるからこそ世界はバランスを保っているのです
めちゃくちゃニッチな神様だな!
それ八百万で足りますかね
いいでしょう、他の神々が消滅し「トイレの神様」しかいなくなった世界を今からご覧にいれましょう
バランスが崩れ、「トイレの力が著しく増幅したカオスな世界」に、果たしてあなたは耐えられるでしょうか?
あっ、上の白いタイルから120インチのモニターが下りてきた
それではトイレの神様が撮影及び編集した
「オールトイレットワールド ディレクターズカットバージョン」を上映します
神様って暇なのかしら
ブウン
おっ、映像が流れ始めたぞ
うわっ、すごい豪邸だなあ
屋敷の中の調度品も豪華だ、そして腰かけてるひげ面のじじいはいかにも資産家ってツラだなあ
屋敷の壁を見て下さい
ああああっ!!
金持ちの屋敷の壁によくかけてある「鹿の生首のオブジェ」が「便器の生首のオブジェ」になってる
便器を猟銃で狩ることが上流階級のステータスなのです
あれ、今度は映像が都会の上空に切り替わったぞ
そして、徐々に駅に近づいていってる
線路を走ってるモノを見て下さい
あああああっ!!
巨大な和式便器が、新幹線みたいな顔をして高速で走っている
これはまさに「流れるトイレ」だ!!
人が乗れる部分は圧倒的に少なく、人の悲しみが「こだま」し、そこには「のぞみ」も「ひかり」もありません・・・
今度は、南アメリカのジャングルの映像だ
鬱蒼と緑の木々が生い茂っている
あれ、木々が巨大な影に包まれたぞ
上空の方をよく見て下さい
あああああ!!!
あれはヘラクレスオオトイレだ!!
ちょっとした飛行船位のサイズはあるぞ
ラ・フランスみたいな色の巨大便器に大きな黒い角を付けた昆虫が空を飛ぶ姿はグロテスク以外の何物でもない・・・
他にもアトラスオオトイレ、エレファスゾウトイレなどもいます
あれ今度は、普通の民家の映像だ
男の子の机の上を見て下さい
あああああ!!
これは「デアゴスティーニ5月号 週刊、最新巨大スケルトントイレを作るシリーズ」だ!!
毎月楽しみにしながら透明な便器を作り上げることだけが人民の青春の喜びなのです
あっ、映像が終わった
どうです
いかに神々のバランスが大事かわかったでしょう
うーむ、とにかく恐ろしい世界だった・・・
さて世界のバランスを知り大人になったあなたに
再度聞きます、あなたの願いは何ですか
ああそういえばそんな話だったね
えーと、それじゃあ
ほう、願いが決まったのですね
世界中常にどこに行っても100メートルに一つトイレがあるようにしてください
・・・・・なるほど
これで世界から悲しい「撒き散らし」が減るんではないでしょうか
確かにバランス感がある弾力性に富んだ願いですね
他の神との調整に時間がかかるかもしれませんが、やってみましょう
お願いします
それではさっそく取りかかります
さらば!!
ブウウン
あれ、いつの間にか本屋に戻ってる
よくわかんない体験だったけど、まあ楽しかったからいいか
本を買って家に帰ろう
彼の願いが叶い、100メートルごとにトイレが出来て、世界から不幸な「撒き散らし」が無くなる日は、もしかしたら、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。
<完>