<かえる劇場>門限

かえる劇場

良く分からない不条理なショートストーリー。
それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい♪

門限

娘

こそこそ・・・

あっ、お父さん

お父さん
お父さん

遅いぞ、今何時だと思ってるんだ

娘

深夜の2時50分です

お父さん
お父さん

そうだ

うちの門限は何時か知ってるな

娘

・・・深夜2時半です

お父さん
お父さん

そうだ

そもそも普通、門限は9時か10時だ

なのにお前がやたら「丑三つ時」「丑三つ時」と連呼し、その謎の熱気に押されて異例の深夜2時半という、もはや門限と呼ぶには甘すぎる時間になったわけだ

娘

・・・・・

お父さん
お父さん

それなのにお前は門限にちょくちょく遅れる

しかも10分とか20分とかの微妙な単位でだ!

娘

・・・・・

お父さん
お父さん

・・・お父さんの立場で言うことでもないけど、もうそれなら友達の家とかに泊ってくればいいじゃない

娘

私、自分の枕以外で夜を明かす気はないので

お父さん
お父さん

ドクターXみたいな口調やめて

そもそも今日は何で遅れたわけ

娘

仏滅だからついつい大丈夫かと思って

お父さん
お父さん

うん、うちは赤口だろうと友引だろうと門限は変わらないのよ

娘

えっ、でも仏が滅するんですよ

お父さん
お父さん

口答えの方向性が独特!
うちの門限に六曜とか占い的要素は何ら関係ありません!!

娘

・・・とりあえず、私のかさぶたをあげますから落ち着いてください

お父さん
お父さん

そんなに激昂してないし

そしてどの世界に皮膚の死んだ標本をもらって喜ぶやつがいるのだ

娘

えっ、でも膝のかさぶたですよ

お父さん
お父さん

かさぶた事情にあまり詳しくないので、膝の価値がお父さんには分かりません!
そもそもかさぶたをどこにしまってるのよ

娘

財布の小銭と一緒に入れてます

お父さん
お父さん

コンビニで間違えて、かさぶた出したら大惨事だから今すぐやめなさい

娘

はあ

お父さん
お父さん

・・・全く響いていない
そもそも深夜2時に間に合わない用事って何なんだ

娘

まず白亜紀の大量絶滅によって恐竜が地球から姿を消すんだけど・・・

お父さん
お父さん

ごめん確かに「そもそも」って言ったけど、そこまで遡らなくて大丈夫です

娘

でも因果関係が・・・

お父さん
お父さん

うん、今日の門限の因果は、今日のあなたからで十分理解できます

娘

なるほど、恐竜に門限はそもそも無いですもんね

お父さん
お父さん

なるほどの意味がさっぱり分からないけどまあいい

それよりさっきから気になってたけど、その足元のやたら大きいクーラーボックスは何なの?

娘

ああ、とりあえずマグロを握りますか、それともカンパチにしますか

お父さん
お父さん

・・・まさかそのセリフを家の玄関の前で聞くとは思わなかったよ
あと「ああ」とか「なるほど」って言ってるけど、全く私の言葉や心情を理解出来てないからね

娘

ごめん
やっぱり最初は、「こはだ」だよね

お父さん
お父さん

いいえ!
私は寿司のネタのチョイスに怒ってるのではなく、娘に門限を問い詰めてるんです!

娘

ほう

お父さん
お父さん

ほうじゃないよ!何その一理あるかもみたいな顔!
そしてクーラーボックスの中、めっちゃ魚入ってるじゃん

何、釣りにでも行ったわけ?

娘

いいえ、私、生まれてから海に行ったことないので

お父さん
お父さん

ドクターXのイントネーションは金輪際やめてね
そして私たち家族は年に1回、海水浴に行ってるからね

娘

そうでしょうね

お父さん
お父さん

疲れたので細かい受け答えは指摘しません
じゃあこの魚とクーラーボックスは何なの?

娘

トレンドです

お父さん
お父さん

・・・トレンド

女の子のトレンドが知らぬ間に先鋭化していたとは

娘

私だけの私だけによる私の為のトレンドです

お父さん
お父さん

それは個人的嗜好と呼んで、トレンドとは正反対のものです

娘

・・・そうなんですね
魚市場に返してきますか?

お父さん
お父さん

もったいないからいいよ

ていうかお小遣い足りないって言ってたけど、こんなことに使ってたんだな

娘

今の私は素寒貧の一文無しです

お父さん
お父さん

あんまり堂々ということではないよね
本当だ、財布めっちゃ軽いね

・・・あれ何かお札のところに入ってるけど

娘

ああ、それはかんぴょうとわかめです

お父さん
お父さん

めっちゃパキパキしてるのに、財布にめっちゃフィットしている・・
しかし磯臭い

娘

何も入ってないと、舐められるかなと思って入れました

お父さん
お父さん

確かに財布に乾いた海藻類を奇麗にたたんで入れているヤツは、怖がられこそすれ舐められることはないだろうね

娘

クラスの9割は私と目を合わせません

お父さん
お父さん

残りの1割に感謝しなさい、その子たちは慈愛精神の塊だからね
つまり魚市場に行ってたから遅れたということかな

娘

いえ、魚の仕入れは朝4時頃、学校前にさくっと済ませます

お父さん
お父さん

仕入れ・・・・・
・・・まあいいや、じゃあ何で遅れたの?

娘

実は・・・

お父さん
お父さん

実は?

娘

ちょっとエッチな理由で

お父さん
お父さん

何だと、そういうのはお父さんまだ早いと思うぞ

娘

ごめんなさい

お父さん
お父さん

何があったか話せるかい?

娘

・・・うん

裏山に、セミの抜け殻が沢山付いている木があるんだけど

お父さん
お父さん

セミ・・・

娘

その抜け殻に、仕入れたイクラを詰めて、赤く光らせてイルミネーションのようにするのに夢中になっていたら、こんな時間になってしまったの

お父さん
お父さん

・・・うーん

娘

ごめんなさい
でもね、今その木は赤い奇麗な光に包まれているのよ

お父さん
お父さん

・・・まだ男の子との一夏のアバンチュールの方が良かったなあ

娘

どうしたの

お父さん
お父さん

いや性的嗜好の多様性を子育てを通じて噛みしめてたところだよ

娘

良くわからないけど良かったね

お父さん
お父さん

・・・何かもういいや

そしたら家へ入ろうか

娘

・・・うん

あれ、もうこんな時間!

お父さん
お父さん

ああ、3時20分か

もう30分経ってたんだな

娘

お父さん、私、朝市の仕入れの時間だからもう行くね!
行ってきます!!

お父さん
お父さん

おいっ!

うわっ!すごいスピードで、走って行ってしまった・・・
クーラーボックス重くないのかなあ

お父さん
お父さん

・・・あの子はもう門限とかそういう次元ではないかもな





後日、門限は完全に撤廃された。

しかし逆に娘は夕飯前には家に帰るようになり、3日に1回は彼女の握った寿司が食卓に並ぶようになったという。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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