良く分からない不条理なショートストーリー。
それが「かえる劇場」です。
気楽に見て下さい♪
門限
こそこそ・・・
あっ、お父さん
遅いぞ、今何時だと思ってるんだ
深夜の2時50分です
そうだ
うちの門限は何時か知ってるな
・・・深夜2時半です
そうだ
そもそも普通、門限は9時か10時だ
なのにお前がやたら「丑三つ時」「丑三つ時」と連呼し、その謎の熱気に押されて異例の深夜2時半という、もはや門限と呼ぶには甘すぎる時間になったわけだ
・・・・・
それなのにお前は門限にちょくちょく遅れる
しかも10分とか20分とかの微妙な単位でだ!
・・・・・
・・・お父さんの立場で言うことでもないけど、もうそれなら友達の家とかに泊ってくればいいじゃない
私、自分の枕以外で夜を明かす気はないので
ドクターXみたいな口調やめて
そもそも今日は何で遅れたわけ
仏滅だからついつい大丈夫かと思って
うん、うちは赤口だろうと友引だろうと門限は変わらないのよ
えっ、でも仏が滅するんですよ
口答えの方向性が独特!
うちの門限に六曜とか占い的要素は何ら関係ありません!!
・・・とりあえず、私のかさぶたをあげますから落ち着いてください
そんなに激昂してないし
そしてどの世界に皮膚の死んだ標本をもらって喜ぶやつがいるのだ
えっ、でも膝のかさぶたですよ
かさぶた事情にあまり詳しくないので、膝の価値がお父さんには分かりません!
そもそもかさぶたをどこにしまってるのよ
財布の小銭と一緒に入れてます
コンビニで間違えて、かさぶた出したら大惨事だから今すぐやめなさい
はあ
・・・全く響いていない
そもそも深夜2時に間に合わない用事って何なんだ
まず白亜紀の大量絶滅によって恐竜が地球から姿を消すんだけど・・・
ごめん確かに「そもそも」って言ったけど、そこまで遡らなくて大丈夫です
でも因果関係が・・・
うん、今日の門限の因果は、今日のあなたからで十分理解できます
なるほど、恐竜に門限はそもそも無いですもんね
なるほどの意味がさっぱり分からないけどまあいい
それよりさっきから気になってたけど、その足元のやたら大きいクーラーボックスは何なの?
ああ、とりあえずマグロを握りますか、それともカンパチにしますか
・・・まさかそのセリフを家の玄関の前で聞くとは思わなかったよ
あと「ああ」とか「なるほど」って言ってるけど、全く私の言葉や心情を理解出来てないからね
ごめん
やっぱり最初は、「こはだ」だよね
いいえ!
私は寿司のネタのチョイスに怒ってるのではなく、娘に門限を問い詰めてるんです!
ほう
ほうじゃないよ!何その一理あるかもみたいな顔!
そしてクーラーボックスの中、めっちゃ魚入ってるじゃん
何、釣りにでも行ったわけ?
いいえ、私、生まれてから海に行ったことないので
ドクターXのイントネーションは金輪際やめてね
そして私たち家族は年に1回、海水浴に行ってるからね
そうでしょうね
疲れたので細かい受け答えは指摘しません
じゃあこの魚とクーラーボックスは何なの?
トレンドです
・・・トレンド
女の子のトレンドが知らぬ間に先鋭化していたとは
私だけの私だけによる私の為のトレンドです
それは個人的嗜好と呼んで、トレンドとは正反対のものです
・・・そうなんですね
魚市場に返してきますか?
もったいないからいいよ
ていうかお小遣い足りないって言ってたけど、こんなことに使ってたんだな
今の私は素寒貧の一文無しです
あんまり堂々ということではないよね
本当だ、財布めっちゃ軽いね
・・・あれ何かお札のところに入ってるけど
ああ、それはかんぴょうとわかめです
めっちゃパキパキしてるのに、財布にめっちゃフィットしている・・
しかし磯臭い
何も入ってないと、舐められるかなと思って入れました
確かに財布に乾いた海藻類を奇麗にたたんで入れているヤツは、怖がられこそすれ舐められることはないだろうね
クラスの9割は私と目を合わせません
残りの1割に感謝しなさい、その子たちは慈愛精神の塊だからね
つまり魚市場に行ってたから遅れたということかな
いえ、魚の仕入れは朝4時頃、学校前にさくっと済ませます
仕入れ・・・・・
・・・まあいいや、じゃあ何で遅れたの?
実は・・・
実は?
ちょっとエッチな理由で
何だと、そういうのはお父さんまだ早いと思うぞ
ごめんなさい
何があったか話せるかい?
・・・うん
裏山に、セミの抜け殻が沢山付いている木があるんだけど
セミ・・・
その抜け殻に、仕入れたイクラを詰めて、赤く光らせてイルミネーションのようにするのに夢中になっていたら、こんな時間になってしまったの
・・・うーん
ごめんなさい
でもね、今その木は赤い奇麗な光に包まれているのよ
・・・まだ男の子との一夏のアバンチュールの方が良かったなあ
どうしたの
いや性的嗜好の多様性を子育てを通じて噛みしめてたところだよ
良くわからないけど良かったね
・・・何かもういいや
そしたら家へ入ろうか
・・・うん
あれ、もうこんな時間!
ああ、3時20分か
もう30分経ってたんだな
お父さん、私、朝市の仕入れの時間だからもう行くね!
行ってきます!!
おいっ!
うわっ!すごいスピードで、走って行ってしまった・・・
クーラーボックス重くないのかなあ
・・・あの子はもう門限とかそういう次元ではないかもな
後日、門限は完全に撤廃された。
しかし逆に娘は夕飯前には家に帰るようになり、3日に1回は彼女の握った寿司が食卓に並ぶようになったという。
<完>