<かえる劇場>引きこもり

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい。

引きこもり

先生
先生

たかし君のお母さん
学校から連絡があり飛んできましたが、どうしたのですか?

母親
母親

先生、お忙しいところすいません

実は、たかしが部屋から出てこなくなってしまったんです

先生
先生

それは大変ですね

いつごろからですか

母親
母親

実はかれこれ3日前からで、私もいろいろ考えて頑張ってみたんですが、どうしても開かないんです

先生
先生

開かないとは?

母親
母親

口で言うより見た方が早いと思うので、たかしの部屋の前まで来てください

・・・・・

先生
先生

たかし君の部屋の前まで来ました

あれ、なんかドアの真ん中にディスプレイとキーボードが埋め込まれている

母親
母親

ここにパスワードを入れると、部屋が開く仕組みになっているみたいなんです

先生
先生

すごいなあ、小学生とは思えないシステム構築能力だ

母親
母親

パスワードは数字、ひらがな、漢字等、文字なら何でもOKで文字数の制限もありません

先生
先生

それじゃあ無限の可能性がありますね

母親
母親

ええ、ただパスワードの解答によりピコンと音の鳴る回数が違くて、どうやらその回数が多いほど、いい答えみたいです

先生
先生

なるほど

母親
母親

ですので、先生のお力を借りてパスワードを打ち込み、息子を部屋から出してもらいたいのです

先生
先生

分かりました

どれほど力になれるかは分かりませんが、頑張ってみます

母親
母親

ありがとうございます

先生
先生

まずは、そうですね

たかし君が好きだった食べ物とかはありますか?

母親
母親

えーと、そうですね

たかしはカレーは大好物でした

先生
先生

いいですね、僕も母のカレーは大好きでした

母親
母親

好きすぎで、カレーのことを詩にしたりしてました

先生
先生

なるほど愛を形にするタイプだったんですね

母親
母親

ちょっと待ってくださいね

えーと、ああこれだ

読みますね



「カレーの気持ち」

白米も友達
ナンだって友達だ
しかし僕は気づいている
本当は都合のいい関係さ
かけて、かけられるだけの関係
惰性と妥協の産物
僕の変わりはいくらでもいる
毎年、いくつもの新顔が生まれ
並べられて選ばれる
そしてまたかけられる
本当の僕はどこにいるのだろう



先生
先生

・・・・
なかなか鋭い問題意識をもった詩ですね

母親
母親

これが何かヒントになるでしょうか

先生
先生

えーと、とりあえず今までの情報をまとめてみます
・・・・・

出来た、こんな感じかな

パスワードを打ち込もう



カレーの自己肯定力を高める
補助体制構築急務



ピコンピコン♪

母親
母親

あっ、2ピコンですね

先生
先生

これはいい方ですか

母親
母親

そうですね、何も鳴らない時もありますから悪い方ではないはずです

くじけず頑張りましょう

先生
先生

なぜか励まされいる・・・

母親
母親

はっ、そういえば食べ物といえば

先生
先生

どうしました?

母親
母親

いえ、たかしがニュースを見ていて、とても悲しい顔をしていたことがありまして

先生
先生

何のニュースですか

母親
母親

牛丼の値上げのニュースです

先生
先生

牛丼・・・

母親
母親

各社が次々に400円代に突入したことについて、低賃金の人の給与が上がっていないのにそれは、あまりに残酷ではないかと力説していました

先生
先生

社会に対してメスを入れるタイプのお子様だったんですね

母親
母親

ええ、透明な氷の様にひんやりと切れ味の良いタイプのメスを心に秘めていました

先生
先生

・・・・・
とりあえずまとめます、えーと、こうかな



牛丼価格戦争過酷!
低賃金生活者金銭枯渇!
補助体制構築急務!



ピコンピコンピコン♪

母親
母親

3ピコンですね

これはなかなかでした

先生
先生

そうでしょう、漢字だけにして韻も踏みましたからね

母親
母親

私の記録は5ピコンですが、この調子ならすぐに私なんか超えそうですね

先生
先生

引き続き頑張ります

母親
母親

ええ、お願いします

先生
先生

しかし、どうしようかな

何かたかし君が夢中になっていたこととかありますか

母親
母親

そうですねー

たかしはマンガが大好きでした

先生
先生

いいですね、何かヒントが見つかりそうだ

どんなマンガが好きだったんですか

母親
母親

どんなというか、マンガそのものが好きだったみたいです

えーと、ああこれを見て下さい

先生
先生

えーと、これは

ああ、たかし君の写真のアルバムですね

母親
母親

中を見て下さい

先生
先生

どれどれ
・・・すごい

たかし君以外の人物に全員マンガのキャラクターの顔が貼り付けられている
白黒のマンガだから、クラス全員の集合写真に至っては、たかし君が無数のお地蔵さんに囲まれてるみたいに見える

母親
母親

きっとマンガの世界に入りたかったんでしょうね

先生
先生

あっ、何かメモが入ってる


2次元と3次元の境目を破壊せよ


先生
先生

問題意識が空間を超えてますね

母親
母親

ええ、5次元的な発想で物事をとらえる息子でしたから

先生
先生

とりあえずまとめてみます、えーと



立体と平面の友情、いとをかし



ピコンピコンピコンピコン♪

母親
母親

4ピコンですね、素晴らしいです

先生
先生

数学的な発想に、古文を混ぜてみました

新しい試みが評価されてよかったです

母親
母親

あと1ピコンで、私に追いつきますよ

がんりましょう

先生
先生

はい!
マンガの他にたかし君に趣味はありましたか

母親
母親

うーん、これといって特別なことはないかもですね

先生
先生

何かたかし君が使っていたものはありませんか

母親
母親

ああ、そういえば、たかしが使っていた音楽プレイヤーがあります

えーと、ああこれだ

どうぞ

先生
先生

すいません、少し拝見します

おお、いろんな有名バンドがいますね

母親
母親

音楽も好きでしたから

先生
先生

あれ、でも入ってるアルバムがどのバンドも初期のしかないですね

母親
母親

ああ、それはそうですよ

先生
先生

どういうことです

母親
母親

たかしは大幅に路線変更して売れたアーティストの、初期の迷走していた時代のCDを聞くのが大好きだったんですよ

先生
先生

・・・・・

なるほど過去の積み重ねを重んじるタイプだったんですね

母親
母親

ええ、とくにこのさわやか青春バンドにイメチェンしたアーティストがテレビに出るたびに、初期のヴィジュアル系時代を思い出してニヤニヤしてました

先生
先生

・・・・・

とにかくまとめてみます



黒歴史 塗りつぶしても 透ける闇



ピコンピコンピコン♪

母親
母親

3ピコンですね

5・7・5で作るという割と良い試みをしてると思ったんですが

先生
先生

少し情緒にかたよりすぎたかもしれせんね

母親
母親

もう少し俗っぽいニュアンスがあってもよかったかもしれません

先生
先生

うーん、しかし我々二人ではやはり手詰まり感がありますね

お父さんにも手伝ってもらえませんか?

母親
母親

そうですね、誰にしますか

先生
先生

んっ?誰とは

母親
母親

ああ、えーとお恥ずかしい限りですが私、大学生時代かなり荒れていまして

先生
先生

大学時代はそんなもんですよ

母親
母親

それで、あのー、たかしの父親候補が合計で10人いたんですよ

それでファミレスでその10人で会議を開いたんですけど

父親を特定せず10人で育てることにしたんです

先生
先生

なるほど

母親
母親

誰か一人に特定すると、その一人の金銭が逼迫しますし、逆に10人で育てれば、たかしの学費も心配なく、美味しいものを食べることも出来ますから
クリスマスプレゼントも10個もらえますしね
そして、たかしもみんなになついてました

先生
先生

なるほど、さしつかえなければその10人はどういう

母親
母親

20代・飲食店店主

30代・建設業部長

40代・大龍組若頭 前科ナシ

50代・公務員 前科アリ
40代・無職 童貞
30代・塾講師 糖尿病・・・

先生
先生

なるほどなるほど、もう大丈夫です

母親
母親

誰を呼びましょうか

先生
先生

いやこの父親ビュッフェは僕には食べ切れなさそうなので、誰も呼ばなくて大丈夫です

ピコンピコンピコンピコンピコン♪

母親
母親

おっ、父親ビュッフェというワードが5ピコン獲得しましたね

先生
先生

音声も認識するのか!
ていうか部屋の中で聞いてるレベルの反応の良さ!

母親
母親

さてさて、どうしますか

先生
先生

ふー

仕方ありません、本当はこんなことはしたくないんですが、このシステムをハッキングします

母親
母親

ええ!

先生
先生

仕方ありません、頑張っても5ピコンですし、そもそも何ピコンで開くのかが分からない以上、不本意ですが無理やり開けるしかないでしょう

母親
母親

そうかもしれませんね

先生
先生

部屋に入ったら、しっかりとたかし君を抱きしめて、言葉を交わしてください

母親
母親

はい、分かりました


そのシステムは複雑な体系に似合わず、ハッキング対策は全くされておらず、すぐに扉を開けることに成功した。

私は、たかし君の母親に目で合図をした後、ゆっくりと扉を開いた。

その瞬間、目に黄金の光が飛び込んできた。目がくらみ、しばらく立ち尽くす。

ゆっくりと目が光に慣れてくると、その黄金の正体が分かった。

たかし君の部屋は壁一面に金箔が貼られていた。

そして壁には、ピエロの切り抜き、ゾウやライオン、恐竜などの切り抜きが一面に顔を揃え、壁の前に置かれた屏風には、妖怪や魑魅魍魎たちが満面の笑みで描かれている。

その中央の椅子にたかし君は座っていた。

頭のヘルメットには優雅なクジャクの置物がまるで本物の様に優雅に羽を広げている。そのヘルメットや体から虹色のコードが伸びており、さらにそのコードは机の上のパソコンに繋がれている。

目を閉じているたかし君の横を通り、机の上のパソコンを見ると、パスワードの入力画面がある。

この部屋に入った瞬間の感覚が確信に変わる。

そうなのだ。

たかしはただ遊びたいだけなのだ。

それも世間という外界ではなく、自分というフィールドの中で全身全霊で。

いいだろう、思う存分付き合おうじゃないか。

私は、ゆっくりとパソコン前の椅子に腰かけた。


<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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