<かえる劇場>意味深

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい♪

意味深

女の子
女の子

お母さん、ただいまー

お母さん<br>
お母さん

お帰りなさい

女の子
女の子

あっ、お母さん
何か、今日の洋服にめっちゃ毛玉ついてたんだけど

お母さん<br>
お母さん

知りたい?

女の子
女の子

えっ

お母さん<br>
お母さん

あなた、本当に知りたいの?

女の子
女の子

えっ、何!?この感じ

お母さん<br>
お母さん

本当に知りたい?

女の子
女の子

・・・ごくり

うん

お母さん<br>
お母さん

セーターを一緒に洗ったのよ

女の子
女の子

うーん、私のどきどきを返して欲しい

お母さん<br>
お母さん

・・・・・

女の子
女の子

気を取り直そう

お母さん、今日の晩御飯何?

お母さん<br>
お母さん

それを今聞くの?

女の子
女の子

えっ、うん
この時間になんとなく知りたいかなあって

お母さん<br>
お母さん

そう・・・・・

あなた、脳味噌の色って知ってる?

女の子
女の子

えっ、色?
茶色かな

お母さん<br>
お母さん

もしその色の中に、赤い半月や、細かく千切られた肉塊が見え隠れしたとしたら?

女の子
女の子

・・・・・

お母さん<br>
お母さん

今日はカレーライスよ

女の子
女の子

・・・いいかげんにしてくんない

お母さん<br>
お母さん

あら、どうしたの

女の子
女の子

先週から、何なのそのスタイル

お母さん<br>
お母さん

あなたは何を言っているのかしら

女の子
女の子

ミステリーにはまったからって、日常に謎を持ち込むのはやめてほしいと言ってるの

お母さん<br>
お母さん

あなたのその怒りはどこから来たか考えたことは・・

女の子
女の子

どの会話からでも、そういう風な繋げ方するのやめて

お母さん<br>
お母さん

おかんむりね

女の子
女の子

もうこの際だから言わしてもらうけど、トイレットペーパーに細かい謎の文字がびっしり書いてあるの

あれ何なの

お母さん<br>
お母さん

あれは古代サンスクリット語で私が書いたのよ

女の子
女の子

サンスクリット語も、まさかお尻を拭かれるとは思ってなかっただろうに

お母さん<br>
お母さん

本当の知識の体得は、あらぬところから得られるものなのよ

女の子
女の子

あと、今日はカレーって言ったけど

明日以降のメニューは何

お母さん<br>
お母さん

明日はビーフシチュー、そして明後日はポトフね

女の子
女の子

見事に鍋で煮込むものばかり・・・

何かを煮込む後ろ姿で意味深感をアピールするのはやめていただきたい

お母さん<br>
お母さん

そうね、たまには炒める行為も必要よね

女の子
女の子

何でか不安感をさそうニュアンスだなあ

ああ、あとお風呂に色んなキャラクターの置物を置くのはいいんだけど・・・

お母さん<br>
お母さん

かわいいでしょ

女の子
女の子

全部、せっけんで出来てるから、溶けて顔がなくなっちゃってるんだけど

何でせっけんで作ったのよ

お母さん<br>
お母さん

ふう、あなたもそんなことを気にする年頃になったのね

女の子
女の子

今、年頃の話は全くしてません!
まじで文脈も何もないなあ

お母さん<br>
お母さん

そろそろ新しい人形を作る頃ね

女の子
女の子

・・・

あと、リビングに置いてある漫画だけど

何で4巻と9巻しかないの?

お母さん<br>
お母さん

・・・・・

女の子
女の子

色んな種類の漫画の4巻と9巻だけあったところで人生は豊かになんないよ!

お母さん<br>
お母さん

「9」と「4」すなわち苦しみが浮き出る世の中と、沈殿して見えない世の中・・・
果たしてどちらが幸せかしら?

女の子
女の子

もう謎とかじゃなくて、思想の領域だよ・・・
しかも、たまに漫画を冷凍庫で冷やしたり、洗濯バサミで干したりしてるじゃん

あれは何なの?

お母さん<br>
お母さん

冷やすことと陽の光を当てることの交差点の研究・・・

とでも呼べばいいのかしら

女の子
女の子

研究だったのか・・・

そして謎に出来る女風の口調だ・・

お母さん<br>
お母さん

交差点など、何も無くてただコンパスが次々と違う場所を指してるだけの可能性もあるわね

女の子
女の子

少なくとも私の心のコンパスはぐるぐる回ってるよ

お母さん<br>
お母さん

ごめんなさい、ちょっと覗いてくるわね

女の子
女の子

はいはいはい、ちょっと待ったー

お母さん<br>
お母さん

どうしたの?

女の子
女の子

私が言うべこことを思い出させてくれてありがとう
これが一番言うべきことだったわ

お母さん<br>
お母さん

そう、何が言いたいのかしら

女の子
女の子

何でリビングとか部屋の壁沿いに、大きさがばらばらの甕がびっちり配置されてるのかということよ

お母さん<br>
お母さん

少し正確ではないわね

中に水をたっぷりと張った甕ね

女の子
女の子

細かいことを指摘しおって・・・
ていうかちょくちょく甕を覗いてるけど、何か見えるの?

お母さん<br>
お母さん

何かを見たいから覗いてるというわけではないわね、強いて言うなら、何かを見たくないから覗いてるのかもしれないわね

女の子
女の子

うんうん、ダメだな

お母さん強すぎる

こういう人に論理が何の武器にもならないことが身をもって分かるわ

お母さん<br>
お母さん

・・・・・

女の子
女の子

めちゃくちゃ覗いてる

お母さん<br>
お母さん

・・・・・

女の子
女の子

・・・

部屋に入って宿題でもするかなあ



・・・・・
・・・・・
・・・・・


そして夜中の2時ごろ

女の子
女の子

うーん、何かのどが渇いて起きちゃった

リビングで麦茶でも飲むかな

女の子
女の子

あっ、リビングのカーテンが開いてる

月光が部屋の甕を照らして、色々な黒のバリュエーションが出てるなあ、何か古代の万華鏡みたいだ

女の子
女の子

白い壁に映る甕の影も、まるで翼を広げた鳥の羽みたいだ、大きさを考えて配置したのかな

そしてお風呂場から、お母さんがリビングに持ってきた顔の無い人形に、光が照らされて、まるで顔の筋肉が動いてるみたいに見える

女の子
女の子

・・・

美しい光景だ

女の子
女の子

そういえば、私の家を取り巻く雰囲気が美しいと友達がほめてくれてたこともあったなあ

女の子
女の子

はっ、そうだ

麦茶を飲みにきたんだった

女の子
女の子

・・・

甕の水を飲んでみようかな・・・

女の子
女の子

この甕がいいかな、コップを入れて・・・

ごくり

女の子
女の子

うわっ、めちゃくちゃ美味しい水だ

麦茶飲まなくてよかった

女の子
女の子

・・・・・

これはこれで悪くないかもしれない




これが、後に世界的な「水」の学者として、名を馳せることになる彼女が、第一歩を踏み出した瞬間だった。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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