<書評>「チャイルド44」 抑圧・歪み・因果・愛

書評

「チャイルド44」はイギリスの小説家、トム・ロブ・スミスさんの、1950年代のスターリン体制下にあるソビエト連邦を舞台に、国家保安省の捜査官を主人公に据えたミステリー小説です。

私が本作を手に取ったのは、何か面白い本はないかなとネットの海を漂っていた時に、目にしたあらすじに惹かれたからです。

正直な話、購入はしたものの、まあどこか面白いと思えればいいかなあと、期待半分だったのですが、読み始めた冒頭から心を掴まれ、最後までその手は私の心の中心を離れることはありませんでした。それでは以下、あらすじです。

▼あらすじ
スターリン体制下のソ連で、幼児が行方不明になる事件が連続して発生する。

国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、自身の部下とその家族が訴えた、息子は殺されたのだという主張を「ソビエト連邦には犯罪は存在しない」という建前の元、事故と説得する。

その後、レオは、別件の捜査で、スパイの容疑者と思われる獣医を拘束するが、狡猾な副官や上官の策略により、田舎の村へと左遷されてしまう。

しかしそこでも幼児の死体が発見され、そしてそれは殺されたと、かつての部下とその家族が訴えていた遺体の状態と酷似していた。

レオは自身の手で、幼児連続殺害事件の捜査を開始することを決意する。

本作はとにかく冒頭からすさまじい。

1933年に、スターリン政権の無謀な農業政策のせいで起きたホロドモール大飢饉により、飢えた人間たちが、食糧を求める狩りの描写は、極限状態での生活本能の荒々しさ、おぞましさを存分に表しています。

そのまま20年後に、舞台は飛ぶわけですが、ここから描かれるのは、スターリン支配下の、エリートでも少しも油断出来ず、いつ粛清されるか分からない抑圧下でのレオの捜査パートです。

ここでは捜査が忖度や建前により進まず、人民の意見が簡単に葬り去られる事や、エリートたちが実にスケールの低く醜い足の引っ張り合いでお互いを蹴落とそうとする権力闘争が描かれます。

これだけ聞くと、重い小説なのではと思うでしょうが、文章が分かりやすく、また人間の心理の動きや作用と共に、物語がテンポよく進んでいくので、重厚感がありつつも、とても面白いのです。

本作は、いかに人間というものが、欲望や願望、性癖を、その環境により歪ませてしまうかというのを詳細に表現しています。

そこには積極的に、空虚な体制を利用し、自身のゲスな欲望を満たそうとする人間もいます。

そして、そういう良心を切り捨てた人間の方が、生き残り出世できる、当時のソ連の悲惨さの描写も本作の魅力で、もしかしたらそれはソ連だけでなく、権力というものに宿る普遍的な性質なのかもしれません。

本作に出てくるワシーリーというキャラクターは、権力闘争という病に取りつかれた人間として描かれるのですが、個人的に彼のあるセリフは、オーウェルの「1984年」的精神を宿しているなと感じました。

また本作は因果のドラマという側面もあります。

自身を蝕んだ・選択した残虐さは、自身に向かって帰ってくる。それを極限的な抑圧の中で描くことにより、ぴりぴりとした緊張感が劇中全体を覆い、それがメッセージを深い部分まで潜らせ、刻みこむ事に成功しているように思うのです。

とはいえ、本作はその因果をどう逆転させるか、言うなれば本能の残虐さの中に眠る愛を発掘する物語でもあります。

重圧や猜疑心の中で描かれる物語なのに、エンタメ性も同居しており、そこに愛の価値も描かれる傑作なので、是非、読んでみて欲しいです。

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