最近、社会学や哲学系の本をよく読んでます。
こういう本たちは、ダイレクトに脳に新しい知識を入れてくれる感じがして、とても楽しい時間を過ごせるのですが、やはりずっと読んでると、どこかで「物語」を欲する自分もじわじわ浮かびあがってきます。
思うに物語の良さというのは、心理学・社会学・哲学・個人的情念などの全てを練り上げて出すことが出来る点で、そこが唯一無二な魅力な気がするのです。
学術書や新書は、深い知識を与えてくれる分、一方通行なイメージ、物語は放射状にどこまでも広がっていくイメージです。
そしてその物語を通じて、突き刺さるような心を動かす何かを与えてくれるのが「文学」のイメージです。
さて、ここでタイトルにある「ドラゴンボール」の話に移ろうと思います。
僕は世代的に90年代のジャンプ黄金期の作品を青春時代にかなり読み、支えてもらいましたが、一方であの頃のジャンプ編集部の方針みたいなものには疑問に思う点がかなりあります。
その一つが今でも続くアンケート制度。
ジャンプは毎週毎に雑誌についているアンケートを集計して、その順位により打ち切りなどの雑誌掲載の判断を決めます。
これは民主的で公平という点もありますが、一方で時間的には短期的で即物的な制度です。つまりその時の風速を重視する、世知辛い競争制度な気がするのです。
この弊害を感じたのは90年代の作品というより00年代後半から10年代の作品なのですが、その頃のジャンプ作品は、とにかく「毎週がクライマックスだぜ」みたいなノリで、浅いオーガズムを毎回促されている感じがあり、そのころ私はジャンプを一回離れました。
ただし、最近のタコピーやチェンソーマンなど、社会的・文学的作品が増えていることを考えるに、今のジャンプの編集部はかなりシステムと人文的要素が上手く回っている感じがします。(最近の画期的作品はジャンプ系がかなり多いイメージ)
さて84年から連載が始まった「ドラゴンボール」ですが、私はこの作品が大好きです。
ドラゴンボールが連載していた84年から95年はジャンプ黄金期であり、またバブル経済の絶頂期に当たります。
売り上げも右肩上がりにどんどん伸びていき、編集部もイケイケになり、多くの作品で主人公がどんどん強くなりインフレしていくもの、バブルの社会的背景と連動しているような気がします。
私は、バブル経済に関しては今見てもアホだなあと思いますし否定的な感情が強く、インフレ漫画に関しても、その要素のみに関してはあまり好きではありません。
しかしドラゴンボールは大好きなのです。
その理由の一つ目は、ドラゴンボールは展開が読めないしカオスである、ということです。
西遊記のパロディから始まり、天下一武道会、ナメクジみたいな宇宙人と戦い、なぜかその母星に行く、そこでギニュー特戦隊みたいな訳の分からないものと戦ったり、フリーザという怪物と対峙する、その後は人造人間が出てきたり、タイムスリップ要素もあり、細胞の集合的怪物と戦う・・・
もうまったく脈絡がありません。
とはいえドラゴンボールはただとっちらかっているのではなく、鳥山さんの絵が圧倒的に上手いことのあり、上記の内容がスムーズに流れるように繋がり、それがとても面白いのです。つまり唯一無二のストーリー体験が出来ると言うわけです。
二つ目の魅力は、やり過ぎなくらいのインフレです。
先程、インフレ的作品の害を上げましたが、ここまで突き抜けてやり切れば、あっぱれです。
スーパーサイヤ人の段階で、すげえってなりましたし、その上には「2」があり、さらに髪が伸び「3」になる。ここまでやられたらワクワクしますし、また容姿の変化も含め、こちらにドキドキを植え付けるのも上手い。
物事は突き詰めれば魅力へと変化し、本作のやりすぎなインフレは、ワクワクの推進力として唯一無二の魅力を放っています(ドラゴンボール以降のインフレ作品は、作品にもよるが二番煎じで常識の範囲にとどまっており魅力にはなっていない気がします)
私は常々、面白い作品や物語を求めて本やゲームなどジャンルを超えて探していますが、振り返るとドラゴンボールのようにカオスでどう説明していいのか分からないのに面白いモノはなかなか無いような気がします。
この作品が生まれた背景としては、当時の編集部のとりあえず書けというスタンスや、武道会などのトーナメントをやれという感覚、インフレバトルの推奨などの要望を、真面目な鳥山さんが毎週必死になりながらライブ感で繋げていったという感じだと思います。
しかしこのやり方は、元々の鳥山さんの精神を確実にすり減らしました。元々鳥山作品は独特な可愛らしいユーモアさが魅力であり、この資本主義的やり方は本来の資質とは相反するものだったのだと思います。
なのでその後、鳥山さんは長い間、漫画から離れてしまいます。
なのでドラゴンボールを読むと、とても面白いと思う反面、一方で削られていく精神の感覚も追体験し、とても胸が痛くなるのも事実です。
しかし胸が痛くなりつつも、その要素も含めて唯一無二の魅力も内包している。
ドラゴンボールはそのような複雑な結晶なのです。
展開の読めないカオスな物語、突き抜けたインフレ、繋がるような爽快感、鳥山さんのユーモア、そしてその背景に流れる苦悩。
これらを一つに練り上げ、こちらの心にダイレクトに働きかける本作は、エンタメでありながら文学的要素も充分兼ね備えているのではないか、そんなことを思います。
そんなわけで一度、ドラゴンボールのことをしっかり書いてみたいと思い、本記事を書いてみました。
どこかで自分が好きな他の漫画も掘り下げていけたらなと思ってます。