「それでしタラ」
サンタは顔を上げ、少年を見る。
「私が連れて帰りましょうカ?」
少年は、口をぽかーんと開け、緩慢に言葉を紡いだ。
「えっと、どこにですか」
サンタはにこやかに笑う。
「北極デス」
東南アジアの出身みたいな外見だけど、やはり北極から来ていたことに、妙な喜びを感じつつ少年は疑問を投げかける。
「サンタさんの家も北極にあるんですか?」
「いえ、北極にあるのはサンタ中央事務局だけデス。このシーズンになると各国のサンタは、北極の中央事務局に招聘されて、簡易宿泊センターに泊まりつつ、色々な準備をし、プレゼント業務に旅立っていくのデス。春になり仕事納めになると各々の出身地域にもどっていきマス」
世間が窺い知れぬ、サンタの労働や住居事情を聞いて、少年の好奇心がドクドクと刺激される。
「なので隣の厄介者たちは、春まで簡易宿泊センターで私が預かりマス。北極は寒いのでパーティなんてする気になりまセン。栄養を無駄にする行為はおのずと控えますし、宿泊センターの一汁一菜の食事により彼らの生活習慣も変わると思いマス」
確かに我々日本人にとって北極の寒さは、とくと応えるだろうし、僧侶のような食事をしていれば、乱痴気騒ぎする気も無くなるかもしれない、全ての基本は食事である。
彼らが騒いでるのは、一般レベルを超えた余分な栄養を存分に備えているからであり、その資本主義社会が生んだ余分な贅肉は、欲望の発露でしか発散出来ないものなのだと思う。
一度、全てを削ぎ落してみることが、彼らにとっていい薬になるかもしれない。
「それではお願いしていいですか?」
「分かりまシタ」
サンタは片手を上げたが、少し思案したあと片手を引っ込めた。
「困りまシタ」
はて、いったいどうしたのだろうか?
「どうしたんですか?」
「あの岩の向こうに小さく見えるのが私が乗ってきたソリなのデス」
窓の外に目を向けてみると、岩の庭園の奥のほうに、黄土色で、ペルシャ絨毯みたいな模様が散りばめられたこじんまりとしたソリが見える。
乗り込む部分が丸く手前に反り返しており、遠くから見ると、成金があしつらえた革靴みたいだ。
「あのソリでは男女4人を乗せることはできないデス」
なるほど、ここから眺めた限りでも、ソリは二人乗りであり、ぎゅうぎゅうに詰めて、ぎりぎりで3人乗り込めるくらいの大きさしかないことが分かる。
すると北極まで都市の退廃者を運び、更生させるプランはここらでご破算ということになろうか。
とはいえ、北極に連れ去る以外に妙案も浮かばないし、ここで全て捨て去るのは非常に惜しい。どうにか道はないものか。