いよいよ後半戦に突入した鎌倉殿。
今週は、後鳥羽院の登場、そして2代目頼家の試行錯誤と、13人の合議制が出来るところまでが描かれました。
後半戦になりいよいよ物語の本質に迫っていくことになると感じたので、前半よりも頻繁なペースで雑感を上げていけたらと思っています。
後鳥羽院の切れ者感がすごい!
義時の後のライバルとなる後鳥羽院。
クセモノというか切れ者というか、めちゃくちゃ嫌な感じが出ていて最高でした。
本作は承久の乱というイベントへ繋げるために、非常に京都朝廷を黒く、爛れたように書いていますが、しっかりとそのニュアンスを受け継ぎつつ、なおかつ聡明さとカリスマ性を兼ね備えている・・・
そんな風に見えた時点でもう素晴らしいです。
鎌倉が倒すべき、悪しき怠惰と腐敗の平安のラスボスである後鳥羽院。
今から承久の乱が楽しみです。
形式の重み
頼朝が挙兵時に持っていた父・義朝の髑髏。
これは本人のではなく完全に偽物です。
しかし重要なのはそれが本物かどうかでなく、それが象徴する精神です。
誰かが信じた思いが結果を生み、そしてその思いが受け継がれていく、それは政治であっても同じことです。
文学の世界や思想の世界では形の無いものや本質の尊さがピックアップされます。
しかし政治や行政の場合、形にしていかないと連続性を担保出来ません。
官僚組織の連続性は文書の連続性ですし、内閣総理大臣の指名というイベントも法律という形式を皆が信じて、総理を指名してきた連続性が生んでいるとも言えます。
だからこそ政治の世界では形式や儀式を積み重ねることが、重要なのです。
政子と義時が髑髏の重要性を語るシーンを入れるところが、このドラマの凄みで、薄っぺらいなんちゃってドラマとの差な気がします。
訴訟の重要性
鎌倉幕府という政府の本質。
それは「軍事裁判政権」ということです。
京都以外は興味が無く、地方に警察もいない天下一武道会だった平安時代。
そこに鎌倉幕府は守護という治安維持担当者を置き、そして強大な軍事力を背景に、土地の裁判を公平に裁く。
その裁判の公正さこそが鎌倉幕府を支えています。
しかし頼家はスケールの小さい部下のもめごとに興味が出ません。
一方の政子は、「本人たちにしてみれば真剣な問題」だ、と非常に御家人に寄り添っています。
若い時は、何か大きなことをしたいと思うものです。
しかし、実は大きく見えてる人を支えてるのは日常の些細なことの連続なのです。
鎌倉幕府にしたって、土地のすったもんだの争いを、ああでもないこうでもないと言いながら、地道に裁いていく姿こそが本当の姿です。
その積み重ねの上に、バランスオブパワーとしての将軍頼朝があったのです。
その本質が分かっている政子と、若さゆえの気負いから焦りばかりが目立つ頼家の対比が見事です。
派閥争いに集約したことの是非
本作のタイトルでもある「13人」。
その選出方法は本作では北条vs比企の派閥争いの産物として描かれていました。
ドラマは自由であり、面白ければいいとも思うのですが、もう少し鎌倉に置ける貢献度みたいなのをオフィシャルな権威で選ぶ要素があってもいいのかなと思いました。
鎌倉幕府という政治組織の言わば閣僚を選ぶわけですから、席次なり何なりと文官たちや皆で話合ったり功績を紹介する場面があると、13人それぞれの個性にスポットが当たり、推しメンとかも見つかるんじゃないかと思ったわけです笑
あと、本作に置いて政子の一言で義時が入った場面も、もう少し「北条だけが二人選ばれている」という点にも触れた方がいいかなあと思いました。
比企が頼家に近いとはいえ、まだ2代目はスタートしたばかりで依然として、政子を擁する北条が鎌倉権力のトップであることは変わらないわけです。
とはいえ派閥の都合により人選していくという五月雨方式も、流れる様な面白さがあったので、良かったなあと思うのですが、個人的には13人がより際立つと、この後の権力争いがもっと楽しめるのではとも思いました。
鎌倉殿「と」13人
今週の本作では、頼家が鎌倉殿としてどういうスタンスで臨むのかが描かれた回でした。
私は、「頼家が自分の側近たちに土地を贔屓で分配して、それで13人の合議制を呑まされる」というスタンダードなストーリーを予測していたので、特別な失策もなく13人の合議制になった時に
「あれもしかして今回の頼家は暗愚キャラじゃないのかしら」
と思いながらドラマを見ていたのですが(それはそれで面白いかも)、しかし最後の最後に頼家はやってくれました!!←何か嬉しそう
まさかの13人というか、御家人を信用しない宣言!
そして自分も含め経験不足の若手メンバーでやってくから、そこんとこヨロシクばりのメンチの切り方!!
いやあ、最高に愚かです笑
私は徳川秀忠を最高の2代目だと思っているのですが、江戸幕府の例を見ても明らかなように、家康時代の側近のパワーを削いで、秀忠側近に重心を移すのはゆっくりじっくり行われました。
さらに言えば秀忠は、家康が関西ににらみを利かせてる間に、江戸で修行を積んでおり、自分の側近の土井利勝や酒井忠世たちに力を持たせ準備も重ねていたのです。
ところが頼家は訴訟のノウハウもないくせに、いきなりの独立宣言。
しかも最悪なのは、この13人のメンバーは鎌倉幕府の創業メンバーであり、力があって現役バリバリなのです。
その人たちに面と向かって
「お前たちを信じていない」
と言うわけです。
まさに愚の骨頂!悪手のうちの悪手です!!
信長や秀吉のようなある種、革命家のように描かれる人物であっても、こんなことは絶対やりません。
信長は尾張の攻略に関して、しっかりと階段を上るように攻略していましたし、戦の際にプライドを捨て朝廷に停戦を頼みこむことだってやってます。
秀吉は、自分の戦力を冷静に分析し、そしてそこにアイデアを足して、準備の段階で圧勝出来る状態にして戦に臨みました。
それに比べると頼家は本当にお粗末です。
せめて広元たち文官を取り込んでいれば別ですが、それもせずに景時にすら暴言を浴びせる始末。
本作がドラマだから何とかクビが繋がってますが、現実政治だったらこの段階で権力の座から放り出されてもおかしくないくらいの話なのです。
しかし頼家に同情してしまうのは、彼が好きで鎌倉殿の後継者として生まれてきたわけではないことでです。
もし彼が現代に生きている普通の青年だったら、自信過剰な若さが上手くいけば一流スポーツ選手みたいになったもしれないし、どこかで挫折しても、痛みが分かる良い感じの大人になったかも知れません。
しかし悲しいかな、鎌倉はあくまでスポーツや芸術の場ではなく、政治と行政の場です。
そこでは徹底したリアリズムと意志の力、バランス感覚が大事なのです。
そして若い頼家にはそのすべてが欠けています。
結果として、鎌倉殿の手足となる13人ではなく。
鎌倉殿vs13人
という鎌倉殿「と」13人になってしまったのです。
この先の不幸が目に見えるような頼家に同情を禁じ得ない一方、ドラマの盛り上がりが加速していくのが今週の話で確認出来ました。
果たして頼家がこのまま無残な暴走を続けるのか、それとも少しはバランスを取り戻すのか、どっちに転んでも面白いことは間違いないでしょう。
引き続き、なるべく頻繁に雑感を上げていきたいと思うので、よろしくお願いします。