<かえる劇場>帰り道

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい♪

帰り道

昼下がりの午後。

交番に一人の男が現れた。


男

すいません

警察官
警察官

どうしました?

男

ちょっと道に迷ってしまって

警察官
警察官

なるほど、どちらまで行かれたいんですか?

男

自分の家までの道が分からなくなってしまいまして

警察官
警察官

自宅までですか

男

そうんなんです
引っ越してきたばかりなもんで

警察官
警察官

分かりました
そしたら住所を教えていただいてもいいですか?

男

草香る
ひかりの小屋の

高き土地

警察官
警察官

すいません、住所を5、7、5で言うのやめてもらっていいですか

男

我が家の記憶法が祖先の教えで、風流を大事にせよ

という方針だったもので

警察官
警察官

とりあえず今は風流はいらないです

住所を教えてください

男

草香町シャイニングコーポ203号室です

警察官
警察官

・・・
おかしいですね、この町にはそういったマンション名は登録されていないようです

男

すいません一軒家なんですけど

警察官
警察官

えっ、シャイニングコーポっていうのは

男

先祖が家に思いやりを持てと名付けたんです

警察官
警察官

203号室・・・

男

二階建てなんです

警察官
警察官

・・・分かりました

何か覚えてる近所の建物とかはありませんか

男

うーん

あんまり特徴的かどうかはわかんないんですけど

警察官
警察官

大丈夫です

どんなことでも良いのでおっしゃってください

男

えーと

道路の車道の横が、永遠に続く長いエスカレーターみたいになってまして
そこから横に見える長屋で、よく老人がしこを踏んでました

警察官
警察官

・・・・・
ここら辺に歩く歩道なんてあったかな

他には何かありますか

男

よく見かけたのは

ものすごいスピードで走ってるトラックが
後ろの扉からクラゲを撒き散らしてました

警察官
警察官

・・・・・
分かりました

いまのところ場所に心当たりがないので、もしよければ、今日ここに来るまでの道を最初から教えていただけますか

男

はい

私はアラームを5分毎にセットしてるんですけど

なんと今日は二回目のアラームで・・

警察官
警察官

すいません

起床してからの話は必要ないので結構です

家を出るところからお願いします

男

分かりました

えーと、確か今日は南口から家を出ました

警察官
警察官

ちょっとすいません

えーと、家の玄関が二つあるのですか

男

うちは4つですね

警察官
警察官

なるほど・・・

ずいぶんわんぱくな一軒家ですね

男

家を出て、自動ドアを通り従業員さんに挨拶をして

そして自動ドアをくぐり外にでました

警察官
警察官

自動ドア・・・

従業員・・・

えーとなんの従業員ですか

男

何ってコンビニですよ

警察官
警察官

ちょっと意味が・・・

男

だから、家の玄関を出て、コンビニを出て外に出たんですよ

警察官
警察官

家の玄関とコンビニが繋がってるってことですか

男

直通です

警察官
警察官

自宅の一階部分をコンビニにしたっていうことですか

男

いや、僕と僕の家はコンビニに縁もゆかりもありませんよ

警察官
警察官

あれ、他に3つ出口あるんでしたっけ

男

他の3つも違うコンビニと直通ですね

警察官
警察官

えーと、つまりお家を完全に四方からコンビニに囲まれてるということですか?

男

そういうことになりますね

警察官
警察官

・・・戦国時代なら死活問題ですね

話を続けてください

男

コンビニから出て、すぐに横断歩道があります

そこを渡って道沿いに歩くと、長いエスカレーターに乗る場所につきます

僕は「M1層」なのでM1に乗ります

警察官
警察官

えっと、層?

男

つまり僕は20~34歳の男性なので

「M1層」のエスカレーターに乗るんですよ

警察官
警察官

・・・差し支えなければ

そのエスカレーターは何種類あるんですか

男

えーと、M1層、M2層、M3層、F1層、F2層、F3層、C層、T層ですから8種類ですね

警察官
警察官

何の生産性もないマーケティングですね

男

8種のエスカレーター幅の合計は車道のそれを大きく超えます

警察官
警察官

それはそうでしょうね

男

エスカレーターにのってしばらく進むと

横に、ピサの斜塔みたいな建物が円形に10個並んでる建物が出てきます

警察官
警察官

すごいですね

美術館ですか?

男

いいえ、パン屋さんです

警察官
警察官

・・・意識が高い店主なんでしょうね

男

10個あるうちの1個の塔が正解のパン屋なんですよ

他の9個はもぬけの殻なんです

警察官
警察官

まるで生産性が無い運試しですね

男

正解のパン屋は毎日変わるので、なかなかスリリングなんですよ

警察官
警察官

・・・どうぞ話を先に進めてください

男

えーと、パン屋を過ぎると今度は「鉄の家」が見えてきます

警察官
警察官

ラーメン屋か何かですか

男

全然違いますよ

コンクリートで囲まれた製鉄所なんですけど、そこで職人さんたちが

溶接の作業とかで火花を散らしている横で、焼きそば食べたり、ビール飲んだり出来る施設ですね

警察官
警察官

・・・内陸地の「海の家」という理解でいいですか

男

こちらも、熱い温度とほとばしる汗の中、ビールを楽しめます

警察官
警察官

・・・話を進めてください

男

そうしてしばらくするとエスカレーターが終わります

警察官
警察官

ようやく出口ですか

男

すると目の前に、「駅前ぶにょぶにょ公園地区」の入り口があります

警察官
警察官

楽しそうな遊具がありそうな公園ですね

男

かなり大きい芝生に囲まれた公園で

噴水とか、マンションなんかも入ってます

警察官
警察官

へー、なかなかよさそうですね

男

公園のブランコもぶにょぶにょで、ベンチもぶにょぶにょですから

子供にとっても安全ですし、芝生なんかもう緑のゼリーみたいにぶにょぶにょで

そこらへんにいる鳩もぶにょぶにょだから、子供たちが引っ張って、空気を入れて小さいオットセイみたいになっちゃってるんですよ

警察官
警察官

・・・・・
とりあえず最後まで全部聞いてから言いたいことを言います

男

それで駅に着くには、どうしても一番奥のマンションの二階の通路を通り抜けないといけないんですけど、ぶにょぶにょなんです

警察官
警察官

そうでしょうね

男

ですから、2階の通路までの道のぶにょぶにょをかきわけて行くことになるんですが

やっかいなのがマンションに住み着いてるネコで、そこらじゅうでぶにょぶにょして動き回るし、伸ばされた生地みたいになって、壁や床に貼りついてるので、見渡す限りネコの様々な柄の水玉みたいなんですよ、ここを通ってネコを踏まないのは不可能に近いですね

警察官
警察官

そういえばあなたの服も水玉ですね

男

そうなんです、これはその時のネコが服に付着したまま染み込んじゃったんです

警察官
警察官

えっ、それネコなんですか

男

いや今はもうネコとして有機体の生命は終えたので

ネコ玉模様ですね

警察官
警察官

・・・・・・・・・・

なるほど、そしてこの駅前の交番に来たわけですね

男

そういうことです

警察官
警察官

しかしですね

私は今まで勤めてきて、そんな光景に一度もあったことがないんですよ

男

ずいぶんと狭い範囲で生活してるんですね

警察官
警察官

・・・・・
多分このまま話してても何もならなそうなので

ちょっと歩いてみますか

男

そうですね

・・・・・

・・・・・

警察官
警察官

さて、狭い範囲と言われたので、普段行かない道を歩いてみましたが

やっぱりエスカレーターもぶにょぶにょもないですね

男

そうですね・・・

あれ、あの建物・・・

警察官
警察官

どうしました?

あっ、細長い三角屋根の家の周りを、びっちりとコンビニが取り囲んでいる・・・

男

良かったー

我が家ですよ

ありがとうございました

警察官
警察官

いやいや良かった

しかも想像してたイメージと完璧に一致する光景だ

こんなことあるんだなあ

警察官
警察官

ってあれ、もういない

あっ、コンビニに入っていく・・・

つまり家に帰ったということだ

しかしなんていう速さだ

・・・・・

警察官
警察官

さて、困ったことに適当に歩いたもんだから迷ってしまった

まあ、適当に行けばいいか

・・・・・

警察官
警察官

あっ、エスカレーター・・・

はい・・・いえ、僕は30歳です

はい・・・ああ、M1ね・・・はい

警察官
警察官

間違って違うエスカレーターに乗ろうとして怒られてしまった

・・・・・

警察官
警察官

あっ、ピサの斜塔みたいのが10個並んでる、何かの宗教施設みたいだな

そして塔の前で、半裸のおじいちゃんがクロワッサン食べながら、しこ踏んでる

・・・・・

警察官
警察官

すごい大きい製鉄所だ!
しかし火花散らす中、みんな水着だぞ

せめて肌は守りなさいよ

警察官
警察官

うわっ、そしてトラックがめっちゃ走ってるよ

すごいスピード!
さっきから走ってるのを数えてみても100台はあるんじゃないか

警察官
警察官

そしていよいよ「駅前ぶにょぶにょ公園地区」が見えてきたな

警察官
警察官

あれっ、さっきのトラックたちが続々と公園内に入っていくぞ

いい感じに散らばるなあ・・・

警察官
警察官

あれ、トラック膨らんでない?

ドン ドン ドン

警察官
警察官

うわっ、爆発した!!
そして一面にクラゲがばらまかれている!!

ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン

警察官
警察官

次々にトラックが爆発している

そしてまきちらかされ続けるクラゲ・・・

警察官
警察官

そうか!!
ぶにょぶにょの素はこのクラゲだったのか

この量だったら納得のぶにょぶにょだなあ

警察官
警察官

そんなこんなでエスカレーターが終わってしまった・・・
しかし、こんな状態の公園に入りたくないなあ



そんな時、目の前の視界に入ったのは1台のトラックだった。

そのトラックはなぜか爆発を免れている、辺りを見回しても無事なのはこの1台だけのようだ。

おそるおそるドアを開けてみる、カギはかかっていない。

運転席に座ってみる。うん、かなりいい感じだ。これで交番まで戻ろうかしら。

しかし、ここでトラックがいきなり走り出した。

僕は何も触っていない、しかし直進し公園を進むトラック。

とうとう公園の真ん中まで来る。

エンジンを止めるトラック、するとそれは間髪入れず爆発した。

この瞬間、人間としての彼の体は死んだ。

しかし、その意識は爆発と同時にすべてのクラゲに広がった。

ここにおいてクラゲは彼自身であり、彼自身はクラゲの全ての意識の総合体になった。

散らばった幾億ものクラゲたちは一つにまとまり、まるで大きな龍のように移動を始める。

エスカレーターを飲み込み、鉄の家も平らげ、斜塔たちは全員あとかたもなく龍の胃袋に飲まれた。

しかし本当の目的地はここではない。

クラゲの総合体となった男の意識は、人間の記憶は残っていない。

しかしいまの彼の意識は、このぶにょぶにょの体を与えるきっかけとなった、ある男への愛なのか憎しみなのか分からないぶにょぶにょの意志にのみ動かされている。

とうとう四方を囲まれたその家が見えてきた。

一気に丸飲みはせず、コンビニの入り口にクラゲの龍の頭が流れ込む。

家のドアを破り、階段を上り2階へと体を滑らせていく。

男

あれ、何か音がしたかしら

その部屋と男をクラゲが飲み込むまでは1分とかからなかった。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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