<かえる劇場>会議は踊る

かえる劇場

少し不条理でアホなショートストーリー。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい♪

会議は踊る

勇者
勇者

みんな、ここまでよく頑張った

ようやく「勇者の神殿」に辿り着いたよ

ハロルド
ハロルド

ここまで大変だったな

ルナ
ルナ

でも、ここでようやく「戦士」とか「白魔法士」とか、職業につくことが出来るのよね

リア
リア

職業について魔物と戦って経験を積めば、強力な技や魔法が習得出来るから、大分旅が楽になるわね

勇者
勇者

ああ、しかし大きい神殿だなあ
しかもめちゃくちゃ人でにぎわっている

ルナ
ルナ

今年の勇者パ―ティは
過去最多の9540組らしいわ

リア
リア

その中の大体半数が「勇者の神殿」に着くまでに脱落するらしいから、まあここには5000組以上の勇者パーティーがいることになるわね

ハロルド
ハロルド

魔王城に辿り着いたのは、昨年は5組だけって言ってたから、なかなか厳しい世界ではあるよな

ルナ
ルナ

魔王も暇なんでしょうね

その5組とも、魔王に負けたくせに、ピンピンしてるんだもの
あえて逃がしてチャレンジャーの敷居を下げてるとしか思えないわ

リア
リア

まあ勇者と戦うことくらいしか娯楽がないんでしょ
いかにも前の世代の老害って感じ

勇者
勇者

コホン・・・
とはいえ、魔王がいろいろ悪さしてるのは事実だ

だからこそ僕たちは立ち上がった

さあ、神殿に行こうか

・・・・・
・・・・・

ルナ
ルナ

うーん、中もかなりごった返してるわね

ハロルド
ハロルド

そもそも、どこに最初に行けばいいんだ

勇者
勇者

えーと、神殿内に「戦士」「白魔法士」等、それぞれの受付があるから、そこに並べばいいらしいよ

リア
リア

なるほど、そこで「戦士」や「白魔法士」の巻物をもらえるのね

ルナ
ルナ

その巻物を身に着けた状態で、魔物を倒していくと、いろんな魔法や技を習得できるのよね

ハロルド
ハロルド

不思議なシステムだよな

勇者
勇者

さて、それではそれぞれの職業のところに並ぼうか
僕は「戦士」
ハロルドが「拳法家」
ルナが「白魔法士」
リアが「黒魔法士」
だね、じゃあ各々、巻物を手に入れたらロビーで落ち合おう

リア
リア

えっ・・・

勇者
勇者

んっ、リアどうした?

リア
リア

・・・・・

勇者
勇者

何かあった?

リア
リア

・・・・・

勇者
勇者

どうしたの?

リア
リア

・・・私、黒魔法士、嫌なんだけど

勇者
勇者

えっ、そうなの!?

だってほら、魔物と戦うときに攻撃系の魔法得意そうだったし

リア
リア

なんで、私が攻撃魔法でルナが回復魔法なわけ

ルナ
ルナ

それは私が色白で華奢だからじゃない

勇者
勇者

いやいや全然違うよ!どんな理由だよ!
ルナが戦いのときに後方支援を得意としてたからだね

リア
リア

確かに私は、少しきつく見える顔で、肌も健康的な小麦色だけども、いくらなんでも黒魔法で魔物に火を浴びせろというのはひどいわ

勇者
勇者

いやいやルックスとか何も関係ないのよ
戦闘における役割の問題だから

ルナ
ルナ

線が細くて私服が白いワンピースな私が、炎とかを出すのは似合わないものね

勇者
勇者

ちょっとルナさん黙ってもらえる
話がさらにこんがらかるから

ハロルド
ハロルド

おい

勇者
勇者

ああハロルドも何とか言ってくれよ

ハロルド
ハロルド

何で俺が「拳法家」なんだよ!

勇者
勇者

ええっ!お前も不満なの

ハロルド
ハロルド

俺はずっと剣で戦う、「戦士」だとばかり思っていた

勇者
勇者

いやいやあなた拳で魔物をタコ殴りにしてたじゃない

ハロルド
ハロルド

それは過去の俺だ!
未来の俺は、華麗な剣さばきで敵を圧倒するのだ

勇者
勇者

うーん
まさか、ここでもめるとは思わなかった

男の人
男の人

すいません、並んでないなら、先に並んでいいですか

勇者
勇者

ああ、すいません
・・・めちゃくちゃ邪魔になっている
仕方ない一旦、前の街に戻ろう


・・・・・
・・・・・
・・・・・


勇者
勇者

さて、みなさん

我々は街に戻り、そして街の会議室を借りました

ハロルド
ハロルド

2時間で2000Gは高いな

ルナ
ルナ

大した街じゃないくせに、舐めてる金額よね

リア
リア

そんなことより、さっさと議題に入りましょう

勇者
勇者

・・・コホン
さて我々は力を合わせようやく冒険の折り返し地点である「勇者の神殿」に辿り着いたわけです
そして私は、公平にそれぞれの個性を見て職業を割り振ったつもりでした
しかし、そこに各々不満があることが分かったので、この会議を開催した次第です
まず各々自分の気持ち・希望を述べていきましょう

リア
リア

まず私から言うけど
ルナあんた何様のつもり

ルナ
ルナ

えっ、ルナは可愛いルナだけど

リア
リア

いまどき自分で可愛いなんていうヤツいないのよ
大体、重いもの持てないとか、か弱いアピールしてるけど
あんたが夜中、酒を飲みながら魔界牛のもも肉にかぶりついてるの知ってるんだからね

ルナ
ルナ

そんなことしてないし、ていうかなんなのこの三段腹クソババア

リア
リア

年齢は2歳しか変わらないでしょうが
しれっと嘘をつきやがって、この貧乳つるぺたのっぺらぼう女

ルナ
ルナ

てめえ、乳のことに触れたら殺すって言ったよな、ああん!!

勇者
勇者

ちょっと落ち着いてよ
序盤からフルスロットルじゃないの
今の時代を考えてよ、「汚い言葉」「容姿」に言及する発言は控えて下さい

ハロルド
ハロルド

俺は戦士になりたい!勇敢に敵をなぎ倒す戦士に!!

勇者
勇者

うん、力強い宣言だけど、今ではないよね
希望は分かったからお前は空気を読んでくれ
えーと、じゃあリアは「白魔法士」がいいの?

リア
リア

えっ、えーと
笑わないで聞いてほしいんだけど

私・・・「吟遊詩人」になりたい

勇者
勇者

ほう、そうなのか
それはまた何で

リア
リア

私、子供のころから自然の中で育ったのね
あるとき地元にいる詩人の本を買ったんだけど
自然を言葉で表現する美しさに感動したの

で、いつか吟遊詩人になれたらなあって思ってたんだ

ルナ
ルナ

うっわあ、意識高いー、ゲロゲロー

リア
リア

てめえ表出やがれ、胃袋ごと地面に引きずり出してやるよ

勇者
勇者

ちょっと、詩人を目指してる方とは思えない言葉の汚さになってるよ!
落ち着いて!
・・・でも吟遊詩人でも別にいいよ、攻撃系の技とか、攪乱系の技もあるし

リア
リア

本当!!
ありがとう!!

ルナ
ルナ

えー、ずるくない
じゃあ私も魔法は嫌かなあ

勇者
勇者

ごめん「白魔法士」は必須なんだ

回復出来ないと、魔王城どころか、その辺の魔物にやられちゃうから

ルナ
ルナ

えー、私の希望は聞いてもらえないわけ

ハロルド
ハロルド

俺は戦士になりたい!勇敢に敵をなぎ倒す戦士に!!

勇者
勇者

とりあえずお前は黙っててくれ

ルナ
ルナ

私「プロレスラー」になりたいの

勇者
勇者

おおう!!
想像の斜め上を行く回答だったー

あのー、理由は・・・

ルナ
ルナ

私、自分の事が可愛いことは知ってるのよ

勇者
勇者

すさまじい自信と前提だ・・・

ルナ
ルナ

でももっと目立つには、何かが足りないかなあとも思うのよね
だから女子プロレスラーになって、「可憐で強い」という希少価値によって他の子との差別化を図りたいかなあって

リア
リア

ただの承認欲求の固まりじゃない、ゲロゲロー

ルナ
ルナ

何か小蠅がプンプン飛んでるわね
どこかで叩き潰してやらないとね

勇者
勇者

もめるのやめてー
ていうかよくここまで仲良くやれてたな・・・
しかし「プロレスラー」は、打撃・攻撃系だからパーティーのバランス的に厳しいなあ

ハロルド
ハロルド

バランスってフランスと一文字違いだな

勇者
勇者

黙れ、小僧!
しかしルナはやっぱり回復が向いてると思うけどなあ

前面で敵に対峙するほどの筋力もないしなあ

ルナ
ルナ

あー、あれですか
あなたは向き不向き、能力だけで人を判断するんですね
そこに私たちの意志はないんですね

勇者
勇者

いやいや、そういうことを言ってるんではなくて

リア
リア

私もこれからの時代は、各々が自分の意志でやりたいことをやるべきだと思うわ

だって私たちは工場の部品じゃないんだもの
自分が好きなことイコール向いてることだと思うわ

ルナ
ルナ

リア、いいこと言うわね
これからは国家や社会ではなく個人の自由を尊重する時代よね

ハロルド
ハロルド

自由は素晴らしい言葉だ

勇者
勇者

一気に俺が悪者みたいな展開になってる!
・・・しかし君たちは最も重要なことを忘れているよ

ルナ
ルナ

何かしら

勇者
勇者

我々の目的は魔王を倒すことで、それが最優先ってことさ

リア
リア

ああ

ルナ
ルナ

へえ

ハロルド
ハロルド

ぷぷっ

勇者
勇者

リアクションが薄い・・・
あとハロルド、笑うのは違うぞ

リア
リア

魔王が倒すのが目的だとあなたは言うのね

勇者
勇者

いや、どう考えてもそうでしょう

リア
リア

いいえ違うわ

魔王を倒して、それぞれが自分の人生を豊かにする
それが本当の目的だわ

勇者
勇者

わざわざ太字やめてー

ルナ
ルナ

そのとおりね
魔王を倒すことだけを優先して、私たちが不幸になったら本末転倒だわ

ハロルド
ハロルド

みんなの人生を豊かにするという目的を達成する場合、「俺たち自身も人生が豊かでなくてはならない」ということだな

勇者
勇者

何でお前、こんな時だけ理解力発揮するのよ

リア
リア

だから魔王を倒す前に、「私たちがなりたい自分でいること」
そっちの方が重要なんだわ

勇者
勇者

わかった、わかったよ!
そしたら、各々なりたい職業を言ってくれよ

ルナ
ルナ

手法が前時代的だわ

勇者
勇者

はあ!?

ルナ
ルナ

プライベートの概念があなたにはないの

紙に職業を書いて、それを発表したほうがいいわよ

勇者
勇者

いや結局、みんなが知るんだから意味ないじゃん

リア
リア

いい?
「形式」が「実質」よりも重要なこともあるのよ
効率だけを重視したら「美」なんて生まれないわ

勇者
勇者

わかった、わかったよ
じゃあみんな書き終わったら、この箱に入れてくれ


・・・・・
・・・・・


勇者
勇者

さてそれでは皆さんの希望の職業を発表します



「戦士」
「医師」
「医師」
「医師」


勇者
勇者

・・・・・嘘だろ

ルナ
ルナ

何がおかしいの

素敵な結果じゃない

勇者
勇者

いやいや、ていうかハロルドは「戦士」じゃないのか

ハロルド
ハロルド

実は僕の母は、代々医者の家庭で生まれていて、僕にも医者になってほしいと言っているんだよ
なのでこれを機会に医者の勉強を始めてみようと思って

勇者
勇者

お前のキャラクター前半と比べて、ぶれぶれだぞ
ていうかリアは吟遊詩人でしょうが

リア
リア

人を助けること、人体と向き合うことも「詩」の一つの形だわ

勇者
勇者

くそっ、何か良いこといってるぽいから言い返せない・・
あとルナは女子プロレスラーじゃなかったのか

ルナ
ルナ

やっぱり痛いのは嫌だから、妖艶でセクシーな女医アイドルを目指すことにするわ

勇者
勇者

・・・・・俺以外、全員回復系になってしまった

リア
リア

いいじゃない、私たちの医学という
「詩」があなたの傷ついた心を癒すわ

ハロルド
ハロルド

筋肉のメンテナンスは任せな

ルナ
ルナ

私の治療でメロメロにしてあげるわ

勇者
勇者

・・・・・



2か月後、腕組みをして後方に控える3人の医者と、一人傷つきながら戦う勇者のパーティーが魔王を倒すことに成功した。

傷ついても、傷ついても医学の力で立ち上がる勇者に感銘した魔王は、倒された後に人間界に来て、今までの非礼を詫びて、人々と交流した。

人々の目には希望が再び甦った。

ただ一人疲労困憊の勇者を除いて・・・

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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