「アンダー・ザ・ドーム」は、ホラーの帝王の異名を持つ、アメリカの小説家。スティーヴン・キングさんの長編小説です。
本作は2009年に刊行されたのですが、なんと書き始めたのは1976年だとのこと。
執筆を中断していた理由は、町を覆うドームが出現したことによる、生態系や気象に及ぼす問題に関してが難点だったらしく、発想に重きを置いているように見えるキング作品が、リアリティも重視していることが分かり、率直に驚きました(本作はそのリアリティがいかんなくパワーを発揮している)
私が本作を手に取ったきっかけは、今年の1月から6月くらいまで勝手に自身が開催していたスティーヴン・キング強化期間でありまして、半年間で「It」「眠れる美女たち」「呪われた町」などなど長編を中心に多くのキング作品を読み進めていたからです。
本作はその中の一作なんですが、上記作品の中で、最も夢中になり、ページをめくる手が止まらなかったのが本作です。
キング作品は、それぞれエンタメの中に深遠なテーマがしっかりと屹立していて面白いのですが、登場人物が多いのと、一部作品は後半にブーストがかかるものもあり、気持ちが物語に入り込むまで時間を要する作品もあります。
しかし本作は、最初から最後まで身がぎゅうぎゅうに詰まっており、終始わくわくやドキドキが止まらないというかなり幸福で刺激的な読書体験でした。
以下、あらすじです。
〇メイン州にあるチェスターズミルという小さな町に、ある日突然、目に見えないドーム状の障壁が出現し、外部から遮断された環境になってしまう。
流れ者であり、町でコックをしていた元軍人のバービーは、外にいるかつての米軍の上司や政府と連携して事態の解決を図るが、権力欲の権家である町政委員のビッグ・ジム・レニーは、町を掌握すべく陰謀や策略を行使し、バービーと対立。
またドーム出現以前に、女性関係で揉めていたビッグ・ジムのバカ息子ジュニアもバービーと対立。お互い含むところがありつつも、ビッグ・ジムとジュニアは協力し、自身の陣営を拡大しつつ町への支配を強めていく。
果たしてこのドームは何なのか、消えることはあるのか、誰の仕業なのか。そんな思いが人々の間を駆け巡る中、チェスターズミルは混沌の中へ突き進んでいく・・・〇
本作は「もし一つの町をドームが覆ってしまったら」という発想の元で、閉鎖空間の中で展開する人間同士の権力闘争・生存闘争の物語です。
その意味で本作において、主役よりも圧倒的な存在感を誇るのが、悪役であるビッグ・ジム・レニー。
中古自動車家を営み、かつ町政委員である彼は、権力と支配の性質、その旨み利用方法を知り尽くしている怪物です。
彼のいやらしい相手を押し潰す詰将棋のような戦略は腹が立つのと同時に、禍々しい魅力を放っており、その意味で確実に本作を面白くしているのは彼の功績だと思います(特に劇中での女子バスケのポイントガードの子への視点に関しては秀逸です)
敵だけでなく味方、あらゆる人、またその命ですら、自身の欲望や戦略の駒に過ぎず、最善手を繰り出す邪悪なビッグ・ジムとそれに対抗するバービーの構図。本作はこの基本部分が圧倒的に面白いのです。
さらに言うと、本作で起こる様々な混乱や悲劇が、基本的に全て中にいる人間の欲望や愚かさに起因し、負の連鎖により顕現することも、興味深いです。
環境の変化と危機感、それにより抑えられていた欲望が、いかに簡単に理性を飛び越えていくのかという様は、虚無感をさそいつつ、読者に人間という不完全な存在の業を突き付けます。
そして本作最大の魅力は、ドーム内の権力闘争だけでも面白いのに、このドームを発生させた未知なるもの、大いなるものについての言及がある後半部分です。
キング作品、特に長編の多くは、人智を越えた根源的な邪悪や、大いなる存在に触れられており、本作もまた根源的な何かを思考し続けるザ・キング作品の背骨は健在です。
ページ数が多いキング作品の長編の中で、本作も例に洩れず量的には多いですが、読みやすくそれでいて真に面白いと思うので、本記事で気になったら是非、手に取って欲しいです♪