瞬間循環-2

<弟>

 ソファーの近く、ひじ掛け机の上にある、お菓子の袋に手を入れながら、テレビの画面を眺める。

 特に見たいものがあるわけではないので、ぼーっと視界を泳がせているという感じに近い。

「はっ!」

 隣の姉が、謎の奇声を上げた。

 すでに嫌な予感しかしない。姉が一音節の言葉を唐突に発したときには、ろくなことが起こらないことを僕は知っている。

 聞こえないふりをしてお菓子の袋に再び手を入れる。

「はっ!」

 今度はより強めに言ってきた。
 さすがにこれに反応しないわけにもいかない、内心うんざりしながらも渋々聞いてみることにした。

「どうしたの」

 姉は深刻そうな表情を浮かべて言う。

「私、気づいちゃったの」

 続きを聞きたくはなかったけれども、一応質問を述べる。

「何に」

 姉は顔だけをくるっとこちらに向ける。

「いい?私たちは色んなものを食べてるよね。お菓子も、野菜も、お肉も」

「そうだね」

「おかしいわ」

「どこが」

「うまくものごとが運びすぎてるの」

 姉は映画等でよく見る、機密事項を喋る女スパイみたいなトーンで続ける。すでに主演女優気取りなのが腹立たしい。

「まずこんなに色んなものがあって、それが全ての人に都合よくいきわたるのはおかしいわ」

「みんなが物を作って社会は成り立ってるんじゃないの」

「スマホや家電を作る人、それを流すシステム、全部人が作ってるのよ。そのわりに全てが上手く流れ過ぎてる。おかしいわ。どう考えてもスムーズすぎる」

「分業社会って学校でいってたよ」

「でも私の家族は何も作ってないじゃない」

「そうだけど、それは他の人が・・・」

「私の友達の家族で、何かを作ってる人は誰もいないわ」

 それはお前に友達がいないからだ、と言おうと思ったが、無駄な争いは避けるべきだと思い直し、口を閉じる。

「そして私は気づいたわ。絶対に何かがある」

「何かって何さ」

 姉は厳かな表情で僕に言い聞かせるように言う。

「何かがあるかもしれないし、いるかもしれない。それは分からないわ」

 すると姉はすっとソファーから立ち上がり、自分の部屋へ向かった。

「どこに行くの?」

「それを探しにいくの」

 しばらく隣の部屋から、大げさな、がさごそした音が続く。それが静まると、姉の足音が玄関の方に移動する。

 ガチャンと玄関のドアを閉める音が聞こえた。数秒間の静寂。

 その後なぜかもう一回、ガチャンとドアが閉める音が聞こえる。

 数秒間の静寂とガチャンという音が、同じテンポで三回ほど繰り返される。
 一体何をしているのだろうか?

 そんなことを思っていたら、一際大きいドアの音を最後に、本当の静寂が訪れた。

「はあ」

 僕は溜息をつきながら、再びお菓子に手を伸ばした。

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