「それでどういったご用件でしょうか」
男は三角帽を食卓に置いて答える。
「私はサンタクロースです」
それは既に聞いていたが、おそらく強調したかったのだろう。
少年は「とりあえずはあなたを信じます」という、日本人特有の曖昧な同意を浮かべながら先を促した。
「それでサンタさんが何のご用件でしょうか」
サンタは少年を見据えて答える。
「あなたの願いをかなえにきまシタ」
自信満々に、何かの大会の開会宣言みたいに言い切った男の瞳は、相変わらず光っている。まるで天然モノの水晶みたいだ。
「えっと、普通サンタさんは願いを叶えるのではなく、プレゼントを持ってきてくれるのではないんですか?」
サンタは微笑を携え、ゆっくりかぶりを振り口を開く、白い歯がきらりと光る。
「いえ、最近は様々な意味で電子化や情報化が進み、プレゼントも物質一辺同倒でもなくなってきているのデス。その意味では旅行や体験、様々な要望に応じることが出来るように、ここ数年のサンタ業務は、対面し願いを叶えるという方法に変更し活動をおこなっているのデス」
外国人とは思えない流暢な日本語にびっくりするものの、独特のハイトーンボイスが不思議と心地よく、少年は目の前の自称サンタに、早くも好感を抱いている自分に気付いた。
「でも願いを一つ叶えると急に言われても、なかなか難しいです」
「願いは一つではありませんヨ」
微笑のままサンタが続ける。
「サンタクロース権の開始年齢が5歳で、あなたは現在12歳ですので、いままでのサンタクロース権が繰り越されてますから、願いは7つまで叶えることが出来マス」
「7つ!!」
少年の体温が急激に上がる。1つでも何かをもらえるのは嬉しいのに7つというのはすごい。
願いを言ったところで、希望通りのプレゼントがもらえるとは思えないけど、それでも7個何かしらの物がもらえるのが純粋に嬉しい。そもそも一つのプレゼントすらクリスマスにもらったことがなかったのだから、なおさらだ。
少年は宙に目を向けてじっくりと考えた。