さてここで再び状況を確認しよう。相手は精神攻撃を跳ねのける不屈のツワモノたちだ。
肉体的ダメージを与えるつもりはないにせよ、生半可な精神的ダメージでは、それを跳ね返されるどころか、逆にパーティーの燃料にされてしまう可能性が高い。
こうなったら方法はただ一つしかない、強制退去である。
一番確実なのは彼らををどこか違うアパートに移してしまうことだろう、これで自分の問題は間違いなく解決する。
しかし、少年は思う。移ったアパート先の人はどうなるのかと?
おそらく彼らは、引っ越しパーティという名のもとに住民に先制パンチをおみまいし、そしてそれ以降もあらゆる日常を特別なものにパッケージし、パーティと結び付けるだろう。
そしてさらに、引越し先の住民に僕と同じような境遇の少年少女がいたとしたら、よりエスカレートした暴言を浴びせ続けることは、容易に想像できる。
少年は考える、これは問題を押し付けたことにしかならず、最もタチの悪い先送りではないのだろうか?
少年は、スマホのニュースで目にする、この国の大人の様に、問題を先送りして見て見ぬフリをすることは耐えられないと思った。
さて、となると目指すべきは抜本的な解決だ。
少年はあらゆる方法を考えてみようと思ったが、何かを考えようとすると頭にモヤがかかったみたいになり、何も思い浮かばない。
深呼吸で心は落ち着いたのだが、今日一日だけで色んな事があった為、疲れているのか、ずっと意識は朦朧としている。
そんなことを考えていたからか、数秒ほど意識が飛んでいたらしい。ふと意識が視界を取り戻すと、サンタがこちらを覗き込んでいる。
「あの、どうかされましタカ」
少年は、自分一人の無力さを痛感すると同時に、目の前に頼りになる大人がいることに安堵する。
そして少年は、今までの人生で、おそらく一番頼りになるであろう大人に知恵を借りることにした。
「えっと、あの人たちをここから移して、移した先でも、迷惑なパーティを控えるようにしたいんですけど、どういう願いにすればいいでしょうか」
「なるホド」
サンタは顎に手をあて、真剣に考えている。その姿はサンタとしてというより、友達として考えを巡らしてくれているような印象を少年に抱かせた。