「カエアンの聖衣」は、イギリスのSF作家、バリントン・J・ベイリーさんの長編小説です。
SF好きの中では知る人ぞ知る根強いファンがいる作家さんであり、その魅力は彼にしか描けない奇想天外な発想や物語にあります。
私が今まで読んできたSF作品は当たり作品の方が圧倒的に多く、その意味で非常に恵まれていたわけですが、本作は今まで読んできたどの作品よりも細胞レベルで私にフィットし
「そうそう、こういうのが読みたかったんだぜ」
と心が叫びをあげるくらいワクワクする作品でした。
↓以下、あらすじ
「服は人なり」という衣装哲学を持つカエアン人の衣装は素晴らしく、敵対しているザイオード人の中でも高額で取引されていました。 そんなカエアンの衣装が積まれた宇宙船が難破した情報を掴んだ、主人公の服飾家ペデルは密貿易業者のマスト率いる一行と共に、その衣服の奪取に向かいます。 未知の惑星で苦労しながらも無事にカエアンの衣装を運び出すことに成功するペデルですが、宇宙船の奥の一室に、一着だけかけられていたスーツを発見します。 そのスーツには想像を超えるとんでもない能力が秘められており、ペデルや他の人々はそのスーツの魅力や妖艶な力にいやおうなく巻き込まれていくことになる・・・
本作の魅力は好奇心を刺激し続ける様なアイデアたちです。
そもそも衣装を第一に信奉するカエアン人が面白いですし、本編にそんなに深く関わらないインフラサウンドという振動波により敵を破壊する咆哮獣や、蠅の惑星、奇想天外な屋敷でゲストをお迎えする大富豪ジャドパーなど、新しいアイデアが流れるように繰り出されていきます。
その無数のアイデアと共に、物語もとんでもないテンポで進むので、息つく暇もありません。
私は小説を読む時に、自分に新しい何かを与えてくれ、好奇心を刺激し、深く残る物語を求めているのですが、本作はその全てを満たしてくれる、まさに私向けの作品でした。
最近の小説は、個別の社会問題、個人が抱える問題、日常の細かい心理などに重きを置いた作品が多く、時代が生きづらいため、それが小説のメインストリームなのはわかるのですが、そこに新しい何かや発想、物語を加えようとしている作品は少ないなあと感じていました。
しかし海外の先輩世代で物語と独創的な発想に軸を置いている作家がいることに、私は感動し、大げさでなく希望を感じました。
とにかくテンポとアイデアを重視している作風なので、細かい心理やディティールを犠牲にしている気はしますが、そんなの面白ければいいんです!
斬新なアイデアと縦横無尽に動く物語が融合し、高いレベルのエンターテインメントを提供してくれる本作には感謝しかありません。
現在私はベイリーさんの「時間衝突」も読了しましたが、こちらもわくわくするようなアイデアの連続で、本当に面白かったです。
とにかく読んで損はない作品なので是非、気になったら本作を読んで欲しいです。