<かえる劇場>お菓子の家

かえる劇場

何だかよく分からない不条理な会話劇。

それが「かえる劇場」です。

気楽に見て下さい。

お菓子の家

森に迷い込んだ一組の男女。

しばらくすると、奇妙な家が見えてきた。

男の子
男の子

あれ、何かカラフルな家が見えてきたよ

女の子
女の子

本当だわ
とっても可愛い

男の子
男の子

二階建てだね

入ってみようか

女の子
女の子

うん・・・
うわあ、中もとってもカラフルね

男の子
男の子

そうだね
ん?

女の子
女の子

どうしたの

男の子
男の子

もしかしたら、これ噂のお菓子の家かも

女の子
女の子

えっ、あの最近噂の?

男の子
男の子

ちょっと、食べてみようか

女の子
女の子

そうね

じゃあこの壁のところを少し砕いて・・・
ぱくっ

男の子
男の子

ぱくっ

女の子
女の子

もぐもぐ・・・

すごい!本当にお菓子だわ

男の子
男の子

うん!間違いなくお菓子だね

女の子
女の子

・・・・・

男の子
男の子

・・・・・

女の子
女の子

うーん・・・

男の子
男の子

ふむ・・・

女の子
女の子

あれね・・・

絶妙に美味しくないわね

男の子
男の子

そうだね、これは間違っても美味しいものではないね

女の子
女の子

私が食べたのはおそらくクッキーなのだけど

妙にぼそぼそしてて、口にまとわりつくわ

男の子
男の子

僕のチョコの部分は何か嫌な、ねちっこい甘さで、あと何かニオイもおかしいんだなあ

女の子
女の子

・・・・・
えーと、「都心部 森 15分 お菓子の家」と

男の子
男の子

あれスマホで何してるの?

女の子
女の子

いや、ちょっとここの管理の人に電話してみようかなって

あっ、出た
もしもし

男の子
男の子

まあ一日やそこらで味が変わるとは思えないけど

意見を伝えることは大事だね

女の子
女の子

何か近くにいるから来てくれるらしいわ

男の子
男の子

フットワーク軽いね

管理の人
管理の人

すいません、お待たせしました

男の子
男の子

うわあ、早い

女の子
女の子

すいません、呼んでしまって

管理の人
管理の人

いえいえ、それより何のご用件でしょうか?

女の子
女の子

えーと、私たちにとってお菓子の家というのは、非日常感を楽しむ場所だと思うんですが、ここのお菓子はとても食べれたものではありません

美味しくしろとはいいませんが、少なくとも不快ではないレベルまで持っていかないと少女たちの夢を壊してしまうのではないかと思いまして

管理の人
管理の人

えっ、美味しくなかったですか

男の子
男の子

食べてみますか?

管理の人
管理の人

少し失礼します

もぐもぐ・・・

うーん、めちゃくちゃまずいですね

女の子
女の子

気持ちが盛り下がるタイプのまずさでしょう

管理の人
管理の人

すいません、一応他の部分の味も確かめたいので、一緒に味見してもらえませんか

男の子
男の子

いいですよ

管理の人
管理の人

ありがとうございます

女の子
女の子

どこを食べるの?

管理の人
管理の人

こちらに来てください

まずはこのお菓子で出来たテレビです

女の子
女の子

すごい55インチの大型テレビだわ

男の子
男の子

めちゃくちゃ薄いね

管理の人
管理の人

見積書によると、これはかなり高級な板チョコが使われてるとのことで、ここはさすがに美味しいのではと思うのですが

男の子
男の子

しかし、お菓子のテレビ画面に人が映っているのは、何か滑稽だなあ

女の子
女の子

私たちは、食べようと思えば画面の世界を食べれるわけだものね

管理の人
管理の人

それでは、私はフレームの方を少し

ぱくっ

男の子
男の子

じゃあ、僕はリモコンの部分を

ぱくっ

女の子
女の子

じゃあ、私は画面の端の方を

ぱくっ

管理の人
管理の人

・・・ひどい完全に見掛け倒しだわ

市販のチョコよりひどい

男の子
男の子

リモコンのボタンの部分はグミになってるんだけど

全く嚙み切れないや

女の子
女の子

画面は、おそらくみずあめを伸ばした物なんだけど

これは少し甘い何かね、とてもお菓子とは呼べないわ

管理の人
管理の人

見積書と全く違う

・・・すいません次は洗面所に来てください

男の子
男の子

うわあ、豪華な洗面所

まるで高級ホテルみたい

女の子
女の子

ここでは何を食べるの?

管理の人
管理の人

えーと、洗面所の下のパイプが、高級な飴を固めて作ってあるということなので、それを食べましょう

扉を開けてっと・・・
ああこれです

うん、いい感じの折れ曲がり方と、色合いですね
これぞ排水パイプって感じです

ぱくっ

男の子
男の子

排水のパイプを高級なお菓子で作る神経もどうかとおもうけど

ぱくっ

女の子
女の子

以外と誰にも知られてない店が美味しかったりすることもあるし、パイプも悪くないかもよ

ぱくっ

管理の人
管理の人

・・・何というか、少し変なにおいがしますね

男の子
男の子

外国の香辛料みたいなにおいかな
お菓子の風味としてはいただけないね

女の子
女の子

まあ、味は可もなく不可もなく

管理の人
管理の人

・・・・・

これは由々しき事態だわ

男の子
男の子

もしかして発注元にだまされたのではないですか

女の子
女の子

見掛け倒しなだけで、中身が伴ってないものね

管理の人
管理の人

ええ、実は、このお菓子の家は、大手の建設会社の、土浜建設に10億円で受注したんですが

今見た所、ここは多く見積もっても、2億ぐらいしかかかっていません

男の子
男の子

8億円中抜きしてるってこと?

女の子
女の子

手抜きのレベルじゃなくて犯罪ね

管理の人
管理の人

しかしことはそう簡単ではないのです

元々、この工事は別のゼネコンに依頼する予定だったのですが、いきなり土浜建設に変わったんです
どうやら、政権与党の幹事長が上層部に、ごり押ししたらしくて

女の子
女の子

なるほど、その8億は幹事長に流れてる可能性が高いですね

管理の人
管理の人

そうなんです

しかもその幹事長は、暴力団の闘龍会と繋がっているらしくて

彼からの仕事を断ると、暴力団が建設現場に来て邪魔をしにくるんです

男の子
男の子

なんていう汚い世界なんだ

女の子
女の子

お菓子の家が出来るまでに、何体もの死体が出ている可能性もあるわね

管理の人
管理の人

ですので、すいません

私から出来ることは、意見を上に伝えるくらいで、抜本的解決は見込めないかと

男の子
男の子

いいよ、命あっての物種だしね

女の子
女の子

お姉さんは自分のことを第一に考えて

管理の人
管理の人

すいません、それではこの地域にある他の家も紹介します

男の子
男の子

お菓子の家以外にもあるんだ

管理の人
管理の人

ええ、隣には魚のすり身だけで、出来た練り物の家があります

女の子
女の子

とても生臭そうね

管理の人
管理の人

幹事長の支持団体である漁協組合の要望で作らせたとのことらしいです

男の子
男の子

お姉さんの会社、利権でずぶずぶだね

管理の人
管理の人

その隣には、豚、牛、鳥の肉で出来た、生肉の家があります

女の子
女の子

うわ、窓から見えるけど、真っ赤で猟奇的

管理の人
管理の人

これも食肉業者からの斡旋ですね

男の子
男の子

幹事長、幅広い団体と付き合ってるなあ

女の子
女の子

もう、どこも見る気しないわ

帰りましょう

管理の人
管理の人

すいません、利権まみれの汚い会社で・・・

男の子
男の子

お姉さんに罪はないもの

あれ、あの少し離れたところにある小屋みたいなものは

管理の人
管理の人

あれは、この家の整備の人がいる小屋です
・・・変ですね、ドアが開いてます

女の子
女の子

ちょっと覗いてみますか

管理の人
管理の人

失礼しまーす

・・・あれ、誰もいない

はっ!!これは

男の子
男の子

うわあ、中に金貨が沢山、山の様に積まれている

女の子
女の子

すごいわ!!

・・・あれよく見るとこれお菓子ね、クッキーだわ

管理の人
管理の人

本当ですね・・・

でも塗られてる金は本物ですね

男の子
男の子

クッキーに溶かした金を塗ったってこと?

女の子
女の子

甘いサクサクのクッキーに、欲望の象徴でありドロドロの金をコーティングしたのね

男の子
男の子

人間の狂気の本質が目の前に現れた感があるね

管理の人
管理の人

ふふふ、何だか馬鹿らしくなってきました

私は今日をもってこの会社をやめます

男の子
男の子

お姉さんに裏金とか利権は似合わないし、いいんじゃない

管理の人
管理の人

私は夢だった、通訳の勉強を始めようと思います

女の子
女の子

うわあ、素敵

そっちのほうが絶対にいいわ

管理の人
管理の人

さて、そうならば

まずこの、まやかしのお菓子の家、裏金、練り物、肉塊たちを焼き尽くさなくてはならないわ

男の子
男の子

そうだね、これはこの世に存在していいものではないね

管理の人
管理の人

風の向きからして、お菓子の家が焼ければ、それが他の部分に伝わるはず

えいっ

女の子
女の子

あっ、マッチの火がお菓子の家を包み込んでいく・・・


その炎は、お菓子たちをよりこんがり焼き尽くし、すり身を少し焼き魚風味にし、生肉たちを焼肉にしたあと、全てを燃やし尽くした。

その炎とニオイはまるで魔女たちの宴のようだったと文献に残っている。

火を消した後の3人の消息を知るものはその後誰も居なかった。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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