<かえる文学>大司教猊下

かえる劇場

何だかよく分からない不条理の断片を繋いだ会話劇、それが「かえる劇場」です。

頭休めのような感じで気楽に見て下さい♪

大司教猊下

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

失礼いたします

懺悔室はどちらでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

おお、神の子よ!

当教会へようこそ、こちらの小部屋が懺悔室です

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

失礼いたします

私の名前はナターシャです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

こほん

それでは神の子ナターシャよ

あなたの言葉に耳を傾けましょう

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

実は私には子供の時からの付き合いの大親友がいるんですけど

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

素晴らしいことですね

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

ええ、しかしこの前お酒が入っていたのと日頃のストレスもあって、その親友の彼氏と一晩の過ちを犯してしまったのです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

そうなのですね

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

こんな私の罪を神はお許しになるでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

ええ、己の行動を悔い神に打ち明けられた時点で、あなたは許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

そうですか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

ええ、許され救われますとも

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

嘘なんです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

はい?

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

今言った事、嘘なんです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

えーと、少し意味が分かりかねるのですが・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

まず私に友人なんて一人もいません

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

なるほど根本的に話自体が嘘なんですね

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

そもそも私の名前はナターシャではありません

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

懺悔室に入室した時から嘘だったわけですね

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

こんな私でも救われますでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・もちろんです

打ち明けた時点で、あなたは許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

実は私そもそも女ではないんです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

なるほど、それは・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

すいません、さすがにそれは嘘です

私はれっきとした女です

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

私は救われますでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

実はさっきからそちらから見えない懺悔室の机の下で、さけるチーズを3ミリ程度にさいてばら撒いているのですが、それでも救われますでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

そのチーズをヒールのかかとで踏みつけて床に練り込んでいるのですが救われますでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

よしんば、それがさけるチーズではなく鹿せんべいだとしたら?

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

その鹿せんべいを私のヒールが砕き粉末にし、教会中に撒き散らしたとしたら

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

嘘です

私は鹿せんべいなど持っていません

というか懺悔室にチーズの匂いが充満しているんですから、鹿せんべいを持ってないことくらい見抜けないんですか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

私は救われますか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

そうですか、鹿せんべいの件に続き、少し気になったことを指摘してもいいですか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・どうぞ

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

あなたの顔は一見整っているけども、よく見ると淫靡な肥溜めみたいですね

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

肥溜めであれば私が汲み取ってあげれるけども、内面から滲み出てくるような表情は私にはどうしようも出来ませんね

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

私は救われますでしょうか

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・神は許しお救いになるでしょう、ですが

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

ですが?

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

ですが私はお前を絶対に許さんぞ!!このクソアマーーー!!!

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

俺の鉄拳で叩き潰してやろう

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・何の沈黙だ

おじけついたかね子猫ちゃん

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

・・・ふう、私は残念です

バサリ

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

何マントを脱いだのか・・・

ああっ!!

<strong><span class="fz-16px">女</span></strong>

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

その紋章は・・・

大司教猊下!!

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

左様である

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

なぜこんなところに

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

私は私の地区を回り神父たちの慈悲の心を試していたのです

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

そうなのですか

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

しかし、残念です

あなたはまだまだ慈悲の心、許すということの意味を理解出来ていません

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

申し訳ございません

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

特に最後の言葉は何ですか

叩き潰す?

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

どうやらあなたを神父に選んだ私の判断は間違っていたようですね

あなたの降格も含めて教会本部には報告させていただきます

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

でも・・・

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

でも?

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

そんな私でも神は、許し救ってくださりますよね

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

何を黙ってるんですか

救ってくださいますよね?

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

そうですか安心しました

これもいい機会ですから私の思いを聞いていただけるでしょうか

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

お前いつも教会本部横の食堂で、かけそばばっか食べてるよな

天ぷらとか揚げくらいつけろよ、ドケチ!

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・・・・

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

ちゃんと救われると言ってくださいよ

あとお前、装飾具付け過ぎて配線のコード巻いてるみたいになってるんだよ!

子供の頃パピーからお洒落は引き算て習わなかったかのかい

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・許され救われます

<strong><span class="fz-16px">神父</span></strong>
神父

あとお前がおススメしてくれた映画もれなく三流のアクション映画じゃねえか

映画の面白いは動きの量と比例するとでも思ってるのかい

だったらあんたは広場で1年中、一人だけの孤独な運動会でも開催してな!

<strong><span class="fz-16px">大司教</span></strong>
大司教

・・・・・・

むぎいいいいい

そのまま大司教はあまりのストレスにより泡を吹いて倒れた。

しかし両手を広げ倒れたその姿は、神殿に鎮座する神の像のように見えないこともなかった。

<完>

何だかよくわからないモノを目指し、ブログやってます
本の書評や考察・日々感じたこと・ショートストーリーを書いてるので、良かったら見て下さい♪

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